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第一章 〜尾行から始まるバイオレンス〜
その3 パシリのライセンス
しおりを挟む「…ゆーくん、俺喉乾いた~」
「あ、俺も~」
ゆーくんに尾行を発見されてから3日、俺達はドン○で売ってそうな安っぽいテカテカで毛足の長いカーペットの上で寝転んでいた。
「…何も毎日来なくても」
嫌そうな顔でつぶやきながら部屋を出ていくゆーくん。彼の家には今日で3日連続お邪魔している。
先日ゆーくんを尾行しているところを見つかり、『晶さんの件で』とと説明すると、それだけで全てを理解したのか部屋に上げてもらって詳しく話を聞かせてくれた。
どうやら彼は由美ちゃんとは幼馴染みたいなものらしい。彼が小学5年生の頃、小学1年生の由美ちゃんが近所に引っ越してきた。
由美ちゃんは『ゆーくん好き!』と慕ってよく後ろをついてきたという。
それがどういった感情からの行動かどうかはわからないが、少なくともゆーくんの方は由美ちゃんの事を妹風他人位にしかずっと思ってなかったみたい。だから恋愛感情的なストーキングは向こうさんの勘違いってこと。
んで、ことの発端は由美ちゃんが中学に入ってからしばらくしての事だ。
純真無垢だった由美ちゃんは、中1の夏になる頃には金髪&ジャージで街を練り歩き、同級生の男子の顔面を便器に突っ込んで謝らせる系女子に変貌していた。
そのことで由美ちゃんのお母さんに相談されたゆーくんは、流石に心配だったこともあり、こっそりと由美ちゃんのあとをつけてみたわけだ。そこでゆーくんが目にしたのは、
『晶さんマジすごいっす!』
『晶さん、さすがパネェっすね!』
『あたしもいつか晶さんみたいになりたいっす!』
なんかやたら強そうな上級生っぽい女の子に陶酔する由美ちゃんの姿。その瞳はまるで恋する乙女のようだったらしい。
「あ、ゆーくんさんきゅー、…コーラかよ、ビールが良かったなぁ」
「お前タダで飲み物持ってきてくれたゆーくんにその言い方はねーべ? …まあ俺もビールの方が良かったけど」
飲み物を持ってきたところに好き好きな事を言う俺達に嘆息するゆーくん。
「…はぁ、また今度ね。今日はこれで我慢してよ」
「「はーい」」
嘆息しながらも、"仕方ないなー"みたいな感じの笑みを浮かべるゆうくん。このお人好しめ。
「てかよ、ゆーくんさー、でもあれだよな? 由美ちゃんの飲み差しのペットボトル持って帰ったよな? 実はベロベロしたい系の欲求持ってんじゃねーのか? 俺そーいうのはよくねーと思うな」
「へ? 僕そんなのしてないよ? きっと誤解だよ」
「けどさー、由美ちゃん言ってたよ? …盗み聞きだけど」
そう、盗み聞きしたエピソードの中でも一際ヤバい感じのがペットボトルレロレロ疑惑だ。由美ちゃん曰く自分が捨てた飲み差しのペットボトルをゆーくんが持ち帰っていたとのこと。彼女が、
『あたしー、ペットボトル捨てるとき思っきし空気抜いて凹ましてから蓋閉めるんすよね~。意味はないんすけど。でー、ゆうくんその日あたしが飲んだのと同じやつ、しかも凹んでるやつ家に持って帰るとこ見ちゃったんすよね』
的な事を言っていた。
「え? えー、僕そんなことしないよ~、ん~、………あ!」
ゆうくんは『あ、なるほど!』といった具合に自らの手を叩く。
「あれだ! こないだ由美ちゃん、公園の燃えるゴミのとこにペットボトル捨ててたんだ。注意しようと思ったら僕に気付かず帰っちゃったんだ。だから僕の家でちゃんと分別して捨てようと持って帰ったんだよね」
「「真面目か!」」
それも結構キモい気がするが…
[newpage]
2
「まーくん、これ食べて~」
「も、もう僕お腹一杯だよ~」
クラスの女子(まあま可愛い)が、あ~んとばかりに卵焼きを雅人の方へ突き出す。
「卵焼き嫌い?」
「うん、僕唐揚げの方がいいな」
「も~、まーくん我儘なんだから! はい、唐揚げ」
少しくらい我儘を言っても彼は許される。彼のあどけない美少年的な顔つきは、なんだか甘やかしてあげたくなるらしい。…いつも思うがこいつ学校と外で顔まで違う。こいつの普段の顔はどちらかと言うとふてぶてしく目つきも悪い。その証拠にチンピラ風の男とすれ違うと『何見てんだよ?』的な因縁を付けられることも多々あるのだ。
そんな本性を周りへの気遣いからひた隠す彼の苦労は計り知れない。
そんな苦労の真っ最中な今彼はこう思っているはずだ。
『手で食わしてくれたら指ペロるんだけどな~…、いや、流石にそれは露骨すぎるか? まてよ? 口に指入れられるだけで3日は抜けんじゃねーか? いや、考えようによっちゃあこの箸でみほちゃんまた飯食うわけだ。まてまて! さっきまで飯食ってた箸を俺の口に突っ込んでるわけだ。間接キスなんて言い方すんと安っぽいが、自分の唾液付きお箸を俺の口に押し込むサド行為だと考えれば…んー』
なんて具合に。只々楽しそうじゃねぇか!クソが!
「江坂く~ん」
おっと、そんなヒネくれた思考の海に身を委ねていると、クラスの女子が俺に話しかけているようだ。彼女の名前は宮下千沙都、ちょっと茶色なストレートヘアーから覗く人懐っこい瞳が可愛らしい。2つ開けた胸元のボタンにカーディガンを羽織り、袖はあまり気味。なにげにタイプなので、屈んだ時の胸元等に視線を送り日々さりげなくアピールしているが、彼女は気づいていないだろう、…どうか気付いていませんように!
「おう、どしたの?」
「あ、…あのさー、江坂くんて、今日の放課後暇?」
おっと、これはあれだ。何かの罠だ! …とかすぐに決め付けるほど俺のハートは枯れちゃあいない。そうか、こいつ俺の事気になってんだな? 雅人へみんなが向けているペットみたいな愛情とは違い異性として意識してるわけだ。ふむ、なんかちょっと言いにくそうにモジモジしてるし、緊張しちゃって可愛いんだ!
「おう、今日はバイトもないし別に暇だけどさ」
そう、ここで赤い顔して『ひ、暇だけど、どど、ど、どうしたの?』とか言っちゃうとあまりのドーテー臭さにヒかれてチャンスをふいにしちゃうわけだよ。さりげない感じでいた方が女子もデートに誘いやすいだろう。きっとそうだ。…そうであってください。
「ホント? じゃあさ、お願いしたいことがあるんだけどさ」
「ん? いーよ? 掃除変わって欲しいとかか?」
「そうそう! なんでわかったの? 話早くて助かる~、じゃお願いね~。教室の掃除ね~」
テクニックその2! さぞありそうな内容をこちらが予測しそれを伝える。え? お前からデートに誘われるなんて思ってもみなかったぜ! みたいな? え? 私そこまで意識されてないの? それとも切り出し方マズった? とか考え出して俺への気になる度アップ間違いなしだ! それでも彼女はデートをへの誘いを…、ん、そ、掃除? 当たりかよ!
「お、おう! …俺掃除嫌いじゃないし」
「やったー! じゃねー! あ、今度ジュース奢るね~」
「…お、おう」
……わ、わーい、ジュース買ってもらえるー。
「健二~、帰ろう」
放課後、雅人がにこやかに声を掛けてくる。キャラを維持するためなのはわかるが俺に対してその態度でこられるとかなり気持ち悪い。
「…俺、掃除なんだよ」
「掃除来週じゃなかったっけ? まーいーや、先帰ってるね~、…パシリめ」
雅人は 手をひらひらとさせながら去って行った。…はあ、今日バイトでも多分掃除だよ、ナンパ物コーナー埃かぶってきたからね。
[newpage]
3
俺には気になる女の子がいる。
彼女の名前は刀根山穂波ちゃん。クラスでは大人しく、男子から話しかけられることはあまりないが嫌われているわけではない。
『クラスで可愛いの誰よ?』
みたいな話に彼女の名前があがることはないが、
『ブッサイクな女子誰よ?』
みたいな話に名前が上がることもない。
それはみんなが、密かに可愛いと思ってはいるが地味な顔の女子を可愛いと言うと趣味が悪いとバカにされるから可愛いと言わないだけなのか、それとも見るからに無害でお人好しそうな彼女を悪く言うのは気が引けるのかはわからないが、とにかくそういった話題に登らない女の子。
背は低めで150センチをちょいと超えているくらいだろうか? スタイルは、…普通なのだろうが、透き通るように白い肌と彼女の『私あなたのことバカにしたりしません絶対に! ていうか敵意って何?』とでも言いたげなおっとりした表情が柔らかな印象を抱かせる。スカートを短くするでもなく、ブラウスのボタンを開けるでもない彼女は自分の性的な部分を必要以上にひた隠しにしているとさえ思える。髪を少しだけ茶色く染めているから(入学当時は真っ黒だった)、自分の見た目に無頓着というわけではないのだろうという予測がよりそう思わせる。そんな彼女を俺はセクシーだなと思うし、それ以上に"いい奴そうだな"って思うんだ。…そんなに喋ったことあるわけじゃないけど。
どうして彼女のことを急に気持ち悪いレベルで語り出したかというと、今彼女が俺の15m程前を歩いてるから。
…声をかけようか?
…さりげなく追い抜いて振り向こうか?
…気づかれないように歩く速度を緩めてフェードアウトしてしまおうか?
なんてことを今悩んでいるのだ。
というのも俺は2週間程前、彼女をデートに誘ったんだ。…男子に声かけられることない彼女+見た目を気にしていないわけではない+俺刀根山産にたまに話しかけてるから他の男子よりは仲いいかも?=こんな俺からでも誘われたら嬉しいってなってデートしてくれる可能性がないわけではない? みたいな浅はかな考えでね。
けれど彼女は申し訳なさそうに、『…ゴメン、そういうのはちょっと…、江坂くんが嫌とかじゃなくてその…』とか言うんだ。そりゃあ俺も『ゴメンゴメンだいじょぶだから! ハハハ』なんて強がったけどそりゃもうショックだ。…そんなに嫌だったのかな? なんて自信の喪失と、ホントに困らせちゃったよな? …俺こーいうのホントダメだよなぁ、なんて自己嫌悪が入り混じってそりゃもう凹んださ…。
それ以来刀根山さんに一回も話しかけていない俺がさり気なく彼女と接するなんて無理だ。接すれば接するほど好感度は下がってしまう。だからこのまま消えたほうがいい、でも話したい気が…。
とか考えながら俺は彼女の後ろをあるき続けた。まるで跡をつけてるみたい。いや、つけてるよね?跡…。
学校近辺の住宅街をぬけ、駅前の古びたアーケードに出る。
所々シャッターの降りた建物が物悲しさを演出している。
しばらく刀根山さんの約15m後ろを偶然歩いていた俺は前方からとある人物が見えて下を向く。
前方から歩いてくるのは"マル&ヤス"と呼ばれるここらで有名なDQNコンビ。幸い面識まではないけどね。
彼らが有名な理由はやな奴だからって噂。強い奴にはへーこらするくせに弱いやつからは金取ったり理不尽に殴ったりするらしい。 そんなマルとヤスはやたらと筋肉質な体を左右に揺さぶりながら、マルは日に焼けた顔と眉毛を薄く剃り込んだ威圧的な眼光で、ヤスは不健康そうな長身を白く艶のある生地に金刺繍が施されたジャージに見を包み顔を少しだけ斜めに傾けながら、お互いに『どけよ? 俺強えーんだぜ?』とでも言いたいような歩き方でこちらに進んでくる。
いやー、怖い怖い…。
[newpage]
俺が景色と一体化して気配を消していると、マルかヤスかのどっちかが声を上げる。
「おう、おせぇぞ穂波!」
「ゴメンネ…、ヤスくん」
え? と、刀根山さんマル&ヤスと友達なの?
顔を俯かせたまま視線だけを向けると、刀根山さんは手を前に組み、ヤスに向かって申し訳なさそうな顔で今日は階段掃除があってと弁明している。
「は? そんなん他のやつにやらせろよ? 嫌だってんならそいつ俺がボコしてやんからよ?」
顎をクイッと上げながらマルが言うと刀根山さんは、
「ダメだよ、そんなことしちゃ」
うん、刀根山さん実はワルだったとかじゃないみたいだ。ちょっと安心。
「はあ? 逆瀬行ってんようなダサい奴庇ってんじゃねーよ? どーせヘタレでダセえ奴ばっかじゃんよ? ほら、こいつみてーに!」
言いながら通りすがろうとする俺を指差すマル。…、え? 俺?
ここは、『そうそう! 掃除は俺のようなダサおにまかせて女の子は早く帰ったらいいんだよ! そう、俺のようなって俺ださくないし!』、とか言ったほうが…、いや、完全に滑ってるしこの態度多分こういうタイプナメられてると感じてキレるな…、よし、無視だ、俺は前へ歩くだけのマシーン、日本語なんてわかんない!
「おい! オメーだよおめー! シカトこいてんじゃねーぞ!」
「おいおい、ちげーぞマル! ビビリ過ぎてテンパってんだけだろ!」
「「あっはっは! キモ~!」」
口々に言い、爆笑するマル&ヤス…、く、悔しくなんてないんだからね! この流れ、どちらかというと殴られなさそうでむしろちょっと安心したんだからね!
…おお、これが本音とはなんと情けない。
「…やめよーよ、ほら、早く行かないと」
「そーだな、いくか、こんなキモいやつ見ててもキモいだけだし」
「ははは、ママにちくんじゃねーぞ? おらよっ!」
ガン! と後頭部に衝撃を受けたと思うと足元に百円ライターが落ちる。
「は、早く行こうよ」
控えめな声で言う刀根山さんとマル&ヤスはそのまま角を曲がり去って行った。
こ、これだけで済んでラッキーなんだからね!
…俺は家に変えると刀根山さんの前で見せたあまりの醜態を思い出し一人泣いた。
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