いつかは君を

ゆきだるま

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第四話

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最近吉田くんの家ばっか行ってるなあ。

 昨日は怒ってたなあ。

 なんて、人を怒らせておきながらなんだか思い出すと笑ってしまいたくなる。

 きっと次遊びに行けば、「また来たのか、……まあいいけど」なんて言ってまた部屋に上げてくれるのだと思える。
 彼は優しい、というよりもお人好し、というよりも危機感がない、むしろ馬鹿だ。襲われているように見えた私を助けられなかったことをすごく気にしていたし(あれはただ幼馴染とケンカしていただけだ)、うっとうしそうにしながらも、私が遊びに行くと毎回すぐにコーヒーを入れてくれるし、エッチなことをしても来ない(いつも胸ばっかり見てるけど)。

 年頃の男の子ってなんかもっと、舐められないように強がったり、エッ……の経験人数を増やすためにあの手この手で奔走したりするんじゃないの?

「脇村とあってよー、高校のツレ引き連れて偉そうにしててよー、なんかムカついたから胸ぐら掴んで『おい!』っつってよ、アイツ半泣きに――……」

「カワイソーじゃねーか。見たかたったけどよ、それよか昨日八木学の女とさー――……」

「太一君にガン●ャ買えとか言われてよ、あの人マジこえーよ――……」

 教室では制服の下にブランド品を着込んだ男子達が雑談をしている。雑談と言ってもそこには自分の力をどうにかして誇示したい欲求が見え隠れして、とても気楽なようには見えない。
 私が普段見ている高校生の男子は大体こんな感じだ。全員がこうってわけじゃないことは一応知っている。私が通う高校は俗にいうヤンキー高校だ。私自身勉強ができないというわけではないが、中学の時にいろいろあって内申点が下がったり、公立高校の入試前にインフルエンザにかかったりしてこの学校に通うことになった。

 吉田くんの部屋で呼んだ漫画に出てくる不良少年は、馬鹿だけど優しくて、ちょっとおちゃめな男の子が多かったけど、本当はそんな性格ではこういう学校じゃ生きていくのは難しい。いつも周りを牽制しておかないと大勢から殴られたりお金を取られたりとそれはもう大変だ。
 
 実際そんなのが原因で一年生の間に何人もの生徒が学校にいられなくなり退学した。

 そんな中でおとなしい男の子もいて、彼らは派手さを誇りにしている男子から大きな声で悪口を言われたり、通りすがりに脚を引っ掛けられたりしながらも、静かに、ことを荒らげず、自分を誇示することもなく暮らしている。
 私から見ればそんな男のほうがよっぽど立派に見えるけれど、仲良くなってみたいけれど、話しかける勇気がない。
 結局怖いのだ。私がギリギリ保っている学校での立場を失うのが……

 息苦しいな……

 早く吉田くんの家に行きたい……

 まあ、行ったら行ったでまたからかうんだけど。


 
 学校帰りに吉田くんの家に行くと、ダルそうな顔で出てきて、

「おう、また来たの?まあ入れよ」

 吉田くんの声がいつもより優しかった、疲れてることに気づかれているのかもしれない。


吉田くんの部屋でいつものコタツに脚を突っ込んでうなだれていると、コップとマグカップを持った吉田くんが戻ってきて私の前にホットコーヒーの入ったマグカップを置いた(彼のぶんはアイスコーヒー、猫舌らしい)。

「今日学校どうだった?」

「大変だったよ、一時間目の後にねー、木村が女子に『ジロジロ見てる、キモイ』とか言われてさ、泣くんだよ、昼休みに。みんなで慰めたりエロ本あげたりしてさ、ジロジロ見るっての、あの女パンツ見えてたんだぜ?木村は悪くないよ……」

 吉田くんの学校の話はいつだって平和だ。女子にバカにされたその木村くんだって、友達に慰めてもらって明日からも楽しく過ごせるのだろう。私の学校でも似たようなことはある。派手な女子がわざと見せながら通りすがりの大人しい男子に聞こえるように「みてるー、マジキモイ」なんて大声で言って不良の男の子がやってきて……ああいうのホント嫌いだ。

「あはは。女子って自意識過剰な子多いからね。男子はみんな自分をエッチな目で見てる、みたいに思ってたりね。あ、木村くんは見てるのか……だめじゃん!友達のそんなところ勝手に女の子にばらしちゃ」

「あ、ホントだ。ゴメンよ木村…… けど弁明すると木村が特殊なわけじゃあないんだよ? 男だったら普通見るよ。条件反射だよ。それがたとえ見たい相手じゃ無くたって。暇つぶしみたいなもんだ」

「……じゃあ吉田くんも見るの?」

「ばっ、いや、別に興味ないよ。そういうんじゃないよ、所詮暇つぶしだよ、平井に別に興味ねぇ!」

「別に私のことだっていってないじゃん。あはは、吉田くん自意識過剰~」

 若干顔が赤くなる吉田くん。ああ、落ち着くなあ、この素直な反応。……あ、またからかってしまっている。でもなあ、面白いからなあ……

「っ、まあそんなわけでさ、木村の名誉をなんとか回復してやりたいんだけど、俺らみんな女子にナメられてるからなあ……どうしたもんか」

「気にしなきゃいいじゃん、そんな子にどう思われたっていいじゃん、そんなのいい子じゃないよ絶対。って言ってる女の子がいたよって言ってあげたら?」

「なるほど!……でもなー、それ言うと木村の情けない話を女子に話したのバレるじゃん。あいつ怒るかな~、喜ぶかな~、悩むな」

 あたしも吉田くんと同じ高校に行きたかったな。そんでウブな吉田くんとかその友達をからかいながら、学校の中でイケてるとか人気のある男子からどう見られてるかどうかとか気にしないで過ごすんだ。楽しそう。……ていうか私の発想からかってばっかりだな。

 それからしばらくとりとめのない話をして私は笑い、吉田くんは恥ずかしがり、夜ご飯の時間になった。

 ドアがノックされ、お盆に二人分の夕ご飯を乗せた吉田くんのお母さんが入ってきて、

「今日も食べていくでしょ。いつもありがとうね、この子全然モテなくて心配してたのよ。モテそうもない男の子とばっかり遊ぶし、パソコンで変なゲーム作るし、エッチな本の趣味も変だし、エリちゃんも気をつけてね」
「意味わからんこといってんじゃねぇ!」

「あはは、ありがとうございます」

 吉田くんのお母さんはウインクしながらお盆をコタツの上に置くと、人差し指と中指の間から親指を出し、ニカッと笑って出ていった。楽しそうなお母さんだ。

「ほんとやめてくれよそういうの……」

 もしかしたら吉田くんにとってはそうでもないのかもしれないけれど……

「ところで変な趣味ってなに?こわーい」

「……訊くな」

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