いつかは君を

ゆきだるま

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第五話

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本を読んでいる。いつも俺はライトノベルばかり読んでいるが、今日は久しぶりに読む普通の恋愛小説。 
 一昔前に大ヒット作を飛ばした作家が最近出版していたもので、短編集だが一つ一つに、人が集団とともに生きる苦悩や恋愛の切なさ、それでもなおたった一人の誰かを求めることのぬくもりが詰まっている。 
現在3つめの短編を読んでいる。たくさんの苦悩を抱えながらも平気なふりをして強く生きる不器用な少年と、優等生であることに疑問を感じながらも他の生き方を知らない少女の恋物語 

「ひーまー、よーしーだーくーん」 
「ひーまーだー、よーしだー」 

お互いがお互いを心配し、それでも違う人生観。それを尊重しなければ相手への否定となるが、心配ゆえ、干渉せずにはいられない。そんな葛藤から真剣にお互いを思う気持ちが伝わってくる。 

「やだー、木村くん、どこさわってんの!」 
「……いいじゃん、ちょっとだけ、ちょーっとだけ」 

 そんな二人を邪魔する親や学校。立場上しかたない面もあるだろう。しかし、こんなにも強い気持ちでつながっている二人の邪魔をするなんて、しかもよかれと思ってだと……こいつらちゃんと目ぇ見えてんのかよ…… 
 それでも二人はそんな大人達を恨みはせず、一度は引き裂かれながらも共に生きるすべをさがし続ける二人の想いの強さは…… 

「いやー、いやーん」 
「柔らけぇ、ありがてぇ、たまらねぇ」 

 そう、柔らけぇ、ありがてぇ、たまらねぇ…… 

「うるせぇ!帰れよ!」 


今日も今日とて平井が遊びに来ていた。更に最近は俺のクラスメイトの木村まで入り浸っている。平井と木村は初対面から30分くらいで意気投合した。ふざけ者どうし何か通ずるところでもあったのだろうか…… 

「あはは、反応したー!興奮した?それとも私のこと心配しちゃった?演技だから安心していいよ?」 
「はははー、なんもしてねーよ。勃った?出た?妬いた?」 

「「イェーイ!」」 

2人は満面の笑みでハイタッチしていた。ホント鬱陶しい。ホント腹立つ。本には集中できないし、テンションは鬱陶しいし、また勝手にかーちゃんのチューハイ飲んでるし、平井は俺より木村とのほうが仲いいし、ここ俺んちだし、実はちょっと焦ったし。 

焦ったのかよ……恥ずかしい。 

「お前ら、ホント俺んちに何しに来てんの?別にここじゃなくてもいいよね?外でやれよ?」 

「だってさー、外寒いしー、吉田んち飲みもんあるしー」 
「それにー、吉田くんの反応面白いしー、楽しいしー」 

「「ねー」」 

 ニヤつきながら顔を見合わせる2人の足元には空き缶が5本転がっていた。冷蔵庫にあったやつ全部飲みやがった……来月の小遣いもらえるかな?…… 

  

 俺の人生における高校二年生は残すところあと1ヶ月。昨年の冬からの短い時間の中で色々なことが変化していた。クリスマスとかバレンタインといった、一般的な節目は何事もなく過ぎ去ったが、良くも悪くも景色ってのは移り変わっていく。 

そしてまた一つ変化が訪れた。 

「木村お前最近携帯ばっかり見てないか?」 
「そうだよー、もっとお話しようよ」 

 塩の香りを帯びた夜風が心地よい。直に座ったコンクリートが冷たいが、それもまたロマンティックだ。 
 今俺と平井と木村の三人はバイクに乗って海に来ていた。平井が暇だ暇だと騒ぎバイクの後ろに乗せろとせがんできたのがきっかけだ。 

 俺と木村はバイトをしていないので基本的に金が無いが、一年生の時にちょっとだけ本気を出して普通二輪免許を取得していた。だってロマンだろ?バイクってのは。男一匹風を切り裂き、手に負えないようなパワーを飼いならし、地をかける。カッコイイじゃないか。 
 とはいっても俺も木村も乗っているバイクは125ccのスクーター。フロントカウルには便利なカゴ付き。高校生の時にバイクに乗っていた人ならばわかると思うが、親のバイクだ。いくら便利だといっても無駄にええかっこしいの高校生男子がバイクにカゴなど付けはしない。出来ればナンバープレートを斜めにかち上げ、マフラーを無駄にうるさくしたようなバイクに乗りたいに決っている。 
 ……と思いながらも金を稼ぐのがめんどくさいことが優先される俺と木村はダメ人間の部類に入るだろう。 

「なあ、女の子ってどうやって遊びに誘ったらいいんだ?」 
「ひどーい木村くん、今だって女の子と遊んでるのに!」 

 ……聞くところによると、木村は最近オンラインゲームで同県の女の子と知り合い、電話やメールをやり取りしているうちにちょっとその子が気になってしまったらしい。 
 まだ顔も見たことのない相手に好意を寄せるのは危険な気もするが、ニヤニヤと携帯に夢中で文字を打ち込む木村の様子はもっと危険だ。 
 ……しかし、ちょっとうらやましくもある。俺だって数ヶ月前はこの横にいる平井に好意のようなものを寄せ、ワクワクしながら仲良くなれたらいいなあなんて望んでいた。 
 いや、今でもたまに女を感じさせる仕草を見ればドキッとさせられてしまうことはあるが、一緒に遊んでいても基本的に気分は普通だ。最初はお互いの事を訊いたりしていたメッセージのやりとも、『今日もいっていい?』と来れば『えー、まあいいよ。その代わり早めに帰れよ』と返したりと、必要事項しか連絡しない。しょっちゅうツルンでるせいでメッセージでまで喋ることないしね。 

「惚れたのか?顔も見たことないのに!モンスターが来るぞ?」 
「んなわけねーだろ!すげー可愛い声なんだ。後惚れてねぇ!」 

 一瞬鬼の形相になる木村に戦慄を感じながらも、更に詳しく詳細を訊いてみた。 
 曰く、彼女はミホという名前らしい。 
 曰く、彼女はエンジェルのように優しくて愛らしいらしい。 
 曰く、彼女はとてもおもしろいらしい。 
 曰く、彼女の家は近隣の市で、遊びに行こうと思えばすぐにでも行ける距離にあるらしい。 
 曰く、彼女は一つ年上で、包み込んでくれそうなお姉さん具合らしい。 
 曰く、彼女はもう推薦で大学が決まっていて現在は暇らしい。 

「なるほどわかった、『遊ぼう!』って送れ!それでバッチリだ」 

「ちょ、ちょっと待てよ、『こいつチョーがつがつしてるー、なんかキモイんですけど』とか思われたらどうするんだ?あと、『こいつ、もしや、体目当て……キモっ』とか思わたらどうするんだ?どうするんだ!」 

「いやいや、まてよ、エンジェルのように優しくて、お姉さん的な包み込む感があるんじゃなかったのか?『もう、そんなにしたいの?しかたないわねぇ』とか言ってくれるだろ」 

「ミホさんはそんな軽くねぇ!」 
  
 騒がしく言い合う俺たちをよそに、平井は考え込むようにうつむいていた。 

「んー、そんな焦って会おうとしないほうがいいかも……女の子って基本的に会ったことない男の子とかこわいもんだよ?知り合ってすぐ会おう『会いたい』なんて言われたらそれこそ『体目当てだったらどうしよう?怖い』なんて思っちゃうかも……あ、ヤンキーの女の子とかだったらまた違うカモだけど」 

 ふむ、さすが女の意見は違う。俺たちからは想像もつかないような発想だ。そうか、怖いのか、言われてみればそりゃそうか。 

「ん?ヤンキーの女だったらどうなんの?させてくれんの?もしかして狙い目?」 

「……吉田くん食いつきすぎ、ちょっときもい。そーね、カッコイイ男の子だったらさせてもいいかなって思う子もいると思うけど、吉田くんみたいのが来たら『あ、こいつ金取れそう!さっそく彼氏と作戦会議だ!』とか思われちゃったりして。試してみる?紹介しようか?結果教えてね?」 

「え?そんな怖いの?女の子ってそんな怖いの?っていうかお前、俺が金取られるの望んでるの?平井ヤンキーとグルなの?仲介手数料もらえるの?俺たち友達だよね?」 

 うろたえる俺と平井を眺めながら木村はため息をつき、 

「いいなあ、俺もミホさんとお前らのようになりてぇよ……死ねよ」 

 寂しくつぶやいた。力ないその姿は少し不憫さを感じさせる。 

「え?お前ミホさんに美人局野郎に売り飛ばされたいのか?全力で協力しようか?」 

「え?ミホさんに体目当ての人紹介しろってせがまれたいの?木村くんってマゾなの?縄で縛ってあげたほうがいい?」 

「……ハハハ、お前ら仲いいなあ」 

 木村がいつもより小さく見えた。 


 そんなこんなで、あーでもないこーでもないと言い合いながら、木村が結局どうすべきかという結論は中々出なかった。 

時刻は22時を周り、寒さは増し、そろそろ帰りたくなってきた。 

「まあさ、とりあえずゆっくり考えたらいいんじゃないか?」 

 俺が遠回しに帰ろうと意志表示すると、木村は力なく頷いた。平井も先程から自分の身体を抱きしめ小刻みに震えている。 

帰り支度をしていると木村のスマートフォンがメッセージを受信した。 
もちろん俺と平井はそれを覗き込んだ。 

『そうなんだー、木村くんって面白いね。いつか会ってみたいかも』 

木村は驚愕の表情で数秒ほど固まった後、 

「っっしゃああぁぁっ!!」 

 スマートフォンを握りしめたまま飛び上がった。 

 俺は黙って歩き出した。 

ああ、冬の海って風情があるよね。 

明日の昼ごはんは何にしようかな。 

「あはは、よかったね木村くん。吉田くんは何もないね。大丈夫?なでなでしてあげようか?」 

 俺は黙って頷き、頭をなでてもらった。 


 少し涙が出たのは内緒だ。 
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