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一章
悪因悪果
しおりを挟むあれから、モジャの待遇が良くなったかと言われれば、そうでもなく。
盗作の噂で騒ぎたてる生徒たちを何とか宥め、沈静化させた教師側だったが、やはり疑念、動揺は隠しきれなかったらしい。
あれほど厚待遇していたモジャへの対応は、目に見えておざなりに。それを好機とみたのか、モジャを元から気に入らなかったクズ(兄上)親衛隊が地味な嫌がらせを開始したらしい。
バケツの水を一杯くわされように水浸しになったモジャが俯いて、廊下を泣きながら歩く姿を見掛けたときにさりげなくそれを察した僕は、呆れ混じりのため息を吐いた。
「やっぱそうなるか」
読みかけの本を閉じ、机に肘を立てて教室の入り口で親衛隊に囲まれ中傷罵倒を黙って受けているモジャを眺めながら、舌打ちした。
いくら他人事だとはいえ、見ていて気分が悪い。
周囲がそれを黙認しているところが尚更、苛立ちを強くする。
僕はまだ良い。苛立ちしかないから。問題は僕の目の前で親衛隊を静観している馬鹿だ。
「……おい、広太」
「………。」
「…………はぁ」
馬鹿は一切こちらを見ることなくただ黙って親衛隊を、いやモジャを見ていた。
長年一緒にいたから分かる。あ、こいつ完全にキレてるなと。
「……悪い、俺トイレ」
「へいへい、いってら」
スッと静かに立ち上がり、離れていく馬鹿に小さく手を振って、やれやれと肩を竦めた。
ありゃ、影から助けるっー自らの前提を忘れてやがるな。その証拠に。
「ちょっと通りまーす、邪魔なんで退いてくださーい」
「なっ!?」
「……っ」
素知らぬ顔でふてぶてしく親衛隊の真ん中を突っ切り、ちゃっかりモジャの手を引いて去っていく馬鹿の後ろ姿を見送って、微笑む。
――…本当、バカなやつ。
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