乙女ゲームの強制力を舐めていました。このまま立派な悪役令息になってしまいそうです。

棚から現ナマ

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番外編 乙女ゲームの日常(前編)

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「きやあっ!」
俺の目の前でユリアナが盛大に転んだ。
スカートがめくれて見えそうになっている。何が見えそうかになっているのかは言及しないが、俺はとっさに反対方向へと顔をそむける。

入学式から数日が経った。
明るく楽しい学園生活を送っているはずなのだが、俺の周りは平穏とは言い難い。
それもこれも、全ては乙女ゲームの強制力呪いのせいだ。

俺とユリアナは同じクラスだった。1年B組だ。
因みに攻略対象者である騎士団団長の息子ギィル=ハリーと、宰相の孫エルナード=ワッツとも同じクラスだ。

分かっちゃいたよ。
この学園が、どんな基準を持ってクラス分けをしているのかは分からないけど、予想はしていた。
ゲーム関係者が同じクラスだと、イベントは発生し放題だよね。ストーリーがサクサク進むってぇもんだよ。
ゲームの強制力、恐るべし。

「もう、なんで転んじゃったのかしら? 何も無い所で転ぶなんて、おかしいわ?」
転んだままユリアナが頭を捻っている。

椅子に座っている俺の横を通りすぎようとして、ユリアナは転んでしまった。
悪役令息な俺だが、ユリアナに足をかけたり、突き飛ばしたりなんかしていない。ユリアナの方から、ぶつかって来てもいない。
俺とユリアナの間には50センチほどの距離があった。
接触などしていなかったのに、ユリアナは盛大に転んでしまったのだ。

実は、こんなことが入学式以来、何度も起こっている。
俺の近くにいる時に限って、ユリアナはつまずいたり転んだりする。本人も不思議がっているから、乙女ゲームの強制力と言わざるを得ない。
同じ教室にいるのが致命的だ。
気にかけていても、無意識のうちに近づいてしまうことがある。避けられないのだ。

神に誓って俺は何もしていないのだが、周りから見れば、俺が意地悪をしているように見えているはずだ。
今だってそうだ。横から見れば俺とユリアナが接触していないことは分かるのだが、背後にいた人や、その場を見ていなかった人達からすれば、俺がユリアナを突き飛ばしたと思うだろう。
きっと俺がユリアナに虐めをしていると噂が立っているはずだ。悪役令息ポイントが日々溜まっていっている。

「あの、大丈夫?」
それでも自分の横で転んでいるユリアナを、そのままにしておくわけにもいかない。
俺はユリアナへと手を伸ば……そうとして、慌てて引っ込めた。

ここでユリアナに少しでも関われば、光の速さよりも先にアルバンに連絡が行く。
いったい誰が告げ口をしているのか分からないが、俺の行動はアルバンに筒抜けだ。
ユリアナ関連に対して、アルバンの心は狭い。
でも横で女の子が倒れているのに放置するなんて、そんなこと出来ない。
俺はどうしたらいい?
手を伸ばそうとしたり引っ込めたりと、挙動不審になってしまった。

「ユリアナぁ、大丈夫か? さあ俺の手を取って立ち上がるんだ!」
「えっ、やだ、ギィルじゃない。うっとぉしいから近づかないでよ。暑苦しいわよ」
逡巡している間に、近くにいたのだろうギィルが、ユリアナに手を貸そうとしている。
よかった。ほっと息を吐く。

「さあさあ、二人の間に遠慮なんて必要ないぜ! 俺が保健室へとエスコートするぜぇ」
「ちょっと、ヤダって言っているでしょう。触らないでよ!」
ユリアナの手を取り、グイグイと立たせようとしている。

「待ちたまえ! ユリアナが嫌がっているだろう。その手を放せっ」
「げっ、インテリメガネまで来た。こっちにこなくていいわよ」
ユリアナがなかなか立ち上がらないからなのか、エルナードがやって来た。
銀縁眼鏡をクイッと押し上げているエルナードに、ユリアナはシッシッと空いている手を振っている。

二人共にユリアナの所に駆け付けるなんて、やっぱり攻略対象者はヒロインのことを気にかけているんだな。
俺に乙女ゲームの記憶があるとはいえ、細かいイベントまでは憶えていない。きっと俺が気づいていないだけで、ゲームは進んでいっているのだろう。

俺は楽しそうにしている3人を、ただ見ているだけだった。
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