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しおりを挟むあれから1年。
今日は俺の17歳の誕生日だ。
そして、俺と高橋の結婚式予定の日。
俺はフッと、遠い目をする。
この1年、徐々にだが高橋が暴走していった。
高橋の望みは俺と正式に最速で結婚すること。一切の妥協は許さない。
それなのに結婚が1年後になったのは、高橋が法を変えるのに時間がかかったから。
いや、たったの1年で法が変わる方が恐ろしいのだが。
この国は、同性婚は元から認められていた。
魔族の人達は魔力を持っており、その魔力の相性によって結婚を決めるからだ。人族の一部の人達がHの相性で結婚を決めるようなものなのだろうか? 魔力の相性が良ければ性別に関係無く惹かれ合うのだそうだ。
魔力の無い俺にはピンとこないけど。
高橋が法の改正をしようとしたのは、魔族と人族の婚姻だ。
今までも魔族と人族が結ばれることは多々あったらしいが、人族を正式な伴侶にすることはできなかった。
人族の身分が低いから正式な伴侶にはできず、妾にすることしかできなかったのだ。
高橋は俺を正妃にしようと頑張った。
俺は妾でいいって言ったのだが、高橋は受け入れてはくれなかった。
正妃って……。俺には無理だと思う。
もともと魔族の中にも人族と正式に結婚したいという者たちは多くいたようで、法案改正への声は上がっていたそうだ。
だが、そう簡単に改正はできない……。はずなのだが。
ええ、王様って凄いんですね。
政治とか法律とか、俺には分からないから、ただ流されていただけですけどね。
何だか王宮で出くわすお偉いさん達に、いっつも凄い顔でにらまれていましたよ。護衛の壁越しですから、チラリとしか見えませんでしたけどね。
高橋曰く、人の意志を無視して勝手に国王にしたんだから、もてる権力を使って何が悪い。だそうです。黒い顔で笑っていました。
俺が何か言えるとでも。命は惜しいです。
法が改正されたら、すぐに結婚するつもりの高橋が、俺の誕生日がその頃だから、せっかくなら誕生日の日に結婚式を挙げようと言い出した。17歳の誕生日だ。
高橋と出会った時に15歳だった俺は、賭けのゴタゴタの間に16歳の誕生日を迎えていた。後で知った高橋が大騒ぎだった。
「何で言わないんだよっ。誕生日だって何で教えてくれないんだよっ。ビックイベントじゃないか。一年で一番の盛り上がりの日じゃないか。あああ、何で俺は気付かなかったんだ……」
誕生日が過ぎていたと知った時の高橋はリアルortになっていた。
高橋が煩い。
陽キャのイベントへの情熱は半端ないな。
だいたい貧乏な家は子どもの誕生日なんか祝わない。生まれて1度もお祝いなんてされたことはないわ。
俺の言葉に高橋は何だか真面目な顔になって、『来年の結婚式は盛大に……次からは……』と、ぶつぶつ言っていたけど、知らんがな。
そして高橋は恐ろしいことを言い出した。無理難題を押し付けてきたのだ。
俺と高橋のファーストコンタクトは強姦という恐ろしいものだったから、俺は高橋に接触禁止令を出していた。高橋は聞いちゃいなかったが。それでも性的な接触は一切なかった。いつの間にかタブーになっていた。
それを結婚式までに改善していこうと、ゴリ押ししてきたのだ。
ようするに俺に高橋からのセクハラに耐えろということだ。高橋のやりたい放題を許せということだ。
食事(膝抱っこ、アーン付き)が一緒はもとより、部屋も一緒にする。とどめに同じベッドで寝ようとほざきやがった。逃げる俺を捕獲して、毎日ベッドに引きずり込む。最後まで抵抗しているのだが、この頃はお風呂も一緒に入ろうと狙っている。
ほっぺや額にしていたチューを唇にもするようになった。ディープなやつは拒否しているが。
そんな悪戦苦闘の日々を過ごして迎えた結婚式予定の日だったが……。
結婚式は行われない。予定は実行されなかった。
高橋は、俺の誕生日に結婚することに拘っていたけど……。だめだった。
どうやら今日は、この国の忌み日らしい。
人族にはよく分からないが、縁起の悪い日らしくて、結婚式を挙げるのはダメだと周りの人達から大反対を受けた。
なんと、アルバンさんからも止めたがいいと言われたぐらいだから、忌み日はこの国の人にとっては、お祝い事をしてはいけない日なのだろう。
前世でいう “仏滅” みたいなものなのかな?
忌み日が明ける5日後まで、結婚式は延期になった。
でも今日は、俺の誕生日なわけで……。
前世持ちの高橋と俺には、忌み日はピンとこない。高橋は今日結婚すると息巻いていたわけで、そのために俺は心づもりをしていたわけだ。
「伊織、呼んだか。」
高橋がノックもせずに、部屋へと入ってきた。
いつものことだが、こいつは俺がパンツ1枚とかだったらどうするつもりなんだ。
今の高橋は、結婚した後に休みを取るため、仕事を前倒しで頑張っている。そのため12時を回った夜も遅い時間だけど部屋へと戻ってこない。アルバンさんに部屋へ来るように頼んだ。
「っ!!」
高橋は俺を一目見るなりビックリして言葉をなくしたけど、すぐに蕩けるように微笑んでくれた。
「ああ、やっぱり良く似合う」
俺をギュウと抱きしめる。
凄いよ。俺が今着ている衣装。
高橋が妥協を一切許さず、1年の歳月をかけ作り上げた婚礼衣装だ。
タキシードの上下に、頭からすっぽり長ーいベールを被っている。でも顔はちゃんと出ているから邪魔ってほどでもない。
純白のタキシードに、これまた白い絹糸で、この国に伝わる瑞祥の図柄がこれでもかと刺繍され、光の加減できらきらと輝く。
ベールも純白だが、裾の方に行くほどに、淡い黄色からオレンジへと刺繍が施され、それと共に、凄い数の宝石が散りばめられている。
いくら小さな宝石とはいっても、値段も凄かろうし、重さも結構ある。
図柄の1つ1つにまでこだわった、高橋渾身の超豪華婚礼衣装だ。
それほどまでに俺の衣装には力を注いだ高橋だが、自分が結婚式に着る衣装は、王族男性の伝統衣装とやらで、黒い軍服っぽいやつだ。
俺も見せてもらったけど、イケメンの高橋にはメチャクチャ似合っている。
凄く似合っているけど、あれって新年の祝賀行事の時にも着ていたよね。
なに、自分の分は手抜きしてんだよ。
俺だけ、こんな派手な衣装を着せて。恥ずかしいわ。
「ああなんで、ここにスマホが無いんだ。こんな可愛い伊織の姿を待ち受けに出来ないなんて」
1人で高橋は悶えている。
いや、俺としては写真の無い世界でよかったよ。
結婚式後のパレードでは国民の皆さんに、この姿をお披露目とか、ちょっとした拷問だよ。
抱きしめられたまま高橋を仰ぎ見る。
この一年、いっつも一緒。いっつもベタベタ。
それなのに、高橋は最後の一線は越えない。あれだけセクハラをしておいて、結婚するまで我慢するという。
もう1回やっちゃっているのにね。逆にあの1回が高橋的にはトラウマになっているのかもしれない。自分でしたくせに。
俺的には、ここまでベタベタするのなら、もういいかなって思うんだけど。
高橋は俺に甘すぎだ。
この一年、俺のことをそれはそれは大切にしてくれた。
俺は頭もよくないし、顔やスタイルも平凡。んー平凡よりもちょい下?
こんな俺だから、王様の高橋の隣にいるのは正直場違いだ。
高橋には、家柄が良くて美人で人柄まで完璧な女性が隣に立つべきなんだろうなぁ。とは思うけど。
『俺って、ワガママなんだよな』
俺は、もう高橋から離れることはできないから。
「どうして婚礼衣装を着ているんだ?」
高橋が不思議そうに聞いてくる。
本当なら5日後が結婚式。それまでこの衣装は着ないはずなんだけどね。
「今日は俺の誕生日じゃん」
「ああ日付がかわっているな。おめでとう。今日はパーティーをやろうな」
高橋は俺の誕生日パーティーを盛大にしてくれようとしたけど、忌み日だからパーティーを表向きにはできない。俺と高橋の二人だけでパーティーをする予定だ。
「でさ、本当は今日結婚するはずだったじゃん」
「そうだな。残念だ」
「だから……」
「うん?」
ああ、恥ずかしい。だんだんと顔が赤くなってくるのが分かる。
でも、自分で決めたことだ。ガンバレ俺。
「今日、結婚しよう」
俺は高橋に、そう告げたのだった。
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