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連載
50. 授業・お茶会にて②
しおりを挟むアイリーン=レイル侯爵令嬢。
うーん、なんだか記憶にある。
クレアは考える。今生ではない、前世でおばちゃんがやっていた乙女ゲームの中でだ。
たしか攻略対象者、ジェイナイド=ライウスの婚約者。
乙女ゲームのストーリーでは、図書館でヒロインがジェイナイドとのイベント『図書館の天使』をクリアした後に出てくるキャラだ。
ジェイナイドが図書館での出来事が忘れられず、ヒロインに魅かれていくのを間近で見たアイリーンは、何とかしなければと焦ってしまう。
アイリーンは政略結婚の相手であるジェイナイドのことを小さな頃から好きだったのだ。
困っているアイリーンに悪役令嬢であるジュリエッタが声をかける。
男爵令嬢という低い身分のくせに、人の婚約者にちょっかいをかけるようなヒロインは身の程知らずなうえに、破廉恥であり、非常識だと。
皆の前で、少し恥をかかせるぐらいしないと、自分の立場が判らないのだと。
その言葉は、アイリーンの胸の中に消えることの無いシミのよう残ってしまう。
そして、お茶会の授業で、何の因果か、憎いヒロインや悪役令嬢と同じテーブルになってしまうのだ。
悪役令嬢に唆されたとはいえ、アイリーンは、人に害を与えるような令嬢では無い。
迷い、逡巡する。
そんなアイリーンを見て、悪役令嬢はまたも囁く、そんなことでは婚約者はヒロインを選んでしまうわよ、と。
で、お茶会での紅茶バシャーになるのだが…
ん?
んん?
なんだかおかしくないか。まるで私がヒロインポジションにいるようではないか。
まさかねー。
クレアは否定する。
だって、悪役令嬢ジュリエッタは、あのお茶会では全然関与していなかった。
アイリーンと挨拶すらまともに交わしてはいなかった。
それに、クレアはなんの関係もないモブですらない立ち位置のはずだ。
この紅茶バシャーのイベントは、ヒロインがイベント『図書館の天使』をクリアして、ジェイナイドのヒロインへの好感度が、ある程度上がらなければ発生しないものなのだ。
ヒロインがジェイナイドと図書館で言い争いをして、女性蔑視の考えを持つジェイナイドを言い負かさなければならない。
……あれ、なんだか身に覚えがあるような気がする。
違うよね。関係ないよね。
まさか自分が乙女ゲームに参加?
自分の考えにクレアは失笑を漏らす。なんて身の程知らずな勘違いだろう。
アイリーンの言葉が思い出される。
― ブサイク ―
自分のことは、自分が一番よく解っている。
あのキラキラ集団の乙女ゲームに参加するなんて、ブサイクのクレアには、しようと思っても出来るものでは無い。
乙女ゲームでは、この後、婚約者の所業を聞き付けたジェイナイドがヒロインへ、お詫びのドレスをプレゼントする。
そして次の日、ジェイナイドの瞳の色である水色のドレスを身に纏ったヒロインが教室に現れるのだ。
乙女ゲームをやっている時は、何も考えずにやっていたけれど、現実になって考えてみると、ヒロイン……酷くないか?
婚約者のいる男性から貰ったドレス。
それも、その男性の瞳の色のドレスを身に纏って、その婚約者がいる(ヒロインとアイリーンはクラスメート)教室に現れるなんて……
いや、ドレスを贈る男も男だ。
自分の瞳の色を贈るということは、相手に対して、自分が好意を持っていると、意思表示するということなのだ。
だから贈られた相手は、その品物を身に付けるのは、相手の好意を受け入れた時。
相手へ自分も、あなたに好意を持っていますと伝える時なのだ。
ジェイナイド・ルートのイベントだ。
コンコンコン。
ドアのノックの音にクレアは考えを中断させられる。
部屋を開けると、寮監のスナオ夫人が立っていた。
手に何だか大きな箱を持って……
まさか、まさか、まさか。
いやいやいや。
今、乙女ゲームを否定したばかりなのに。
違うしっ。これは違う荷物のはず。ジェイナイドからのプレゼントでは絶対無いはずっ。
私関係ないしっ。
「クレア=ハートレイ、荷物が届いています」
スナオ夫人はそれだけ言うと箱をクレアに押し付け去って行った。
クレアの手には、大きな箱と、カードが1枚。
検閲の為、開封された封筒の中のカードには、ジェイナイドの直筆で、自分の婚約者が誤解して、クレアに暴挙を働いたことを詫び、その謝罪の意として、ドレスを送るとある。
そして、箱の中には、見事な水色のドレスが入っていた。
なぜにー。
がっくりと膝を付くクレア。
乙女ゲームはどうなったのだろう。イベントはどうなったのだろう。
まさか『入学式の天使』どころか『図書館の天使』のイベントまで、邪魔してしまったのだろうか?
おーい、パトリシア仕事しろ。
悪い噂ばかり振りまいてないで、イベント回収しろよ。
目の前にいない妹に悪態をつく。
これ、着なくてもいいよね。
高級そうなドレスを手に途方に暮れるクレアだった。
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