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1.産まれて30分で捨てられて絶体絶命ってないでしょう。

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私は神様に気に入れられて眷属にされた。
断ったのに無理矢理だ。
神様って、人の話を聞いてくれない。
実に迷惑だ。

私は主神から貰った体と元々の人の魂を持つ。
人として転生を繰り返す。
神の体と魂は常に結ばれており、ポタポタと神の力が真新しい人の体に落ちてくる。
ちょっとチートな人間の完成だ。
50億年もすれば気が変わるだろう主神からと放置されている。
このまま忘れてほしい。

今回もまた絶体絶命の危機で目が覚めた。
転生を繰り返すとすぐに気が付く。
前世の記憶は邪魔だ。
普通に暮らしたいならば、記憶を封印した方がいいのだ。
だがしかし。
理不尽に殺されるのも嫌じゃない。
だから、どうしようもない場合は前世の記憶が蘇るようにしてみた。
今回はどんなピンチなのだろうか?
ゆっくりと眠りから目を覚ます感覚で意識が浮上していった。

 ◇◇◇

刹那!?
長い牙を持つ大きな虎が高速で迫っていた。
私の守りに配置した守護霊獣のクーちゃんが作る結界壁をモノとせずに突っ込んで来ていた。
私は慌てずに『加速装備かそくぞうび』と心で唱えた。
奥歯をカチャリと噛みしめて速く動けるようになる『加速装置』ではない。
間違って貰っては困る。
加速装備かそくぞうびだ。

神の力で物理法則を無視して、自分だけの相対速度のみ1,000倍する加速魔法だ。
私は音速を超えて動ける。
普通に考えると、その衝撃波で周辺には大変な大惨事が起きる。
それらの物理法則を無視して普通に動けるのだ。
私に襲い掛かってきた大虎も止まったようなスローモーションの世界に取り残された。

神力1滴で1秒間のみ世界を止めて自由に動ける。
私の知覚時間では16分と40秒だ。
短いようにも思えるが、マラソンの選手ならば3kmは走れる。
この力を使えば、大抵の事は何とかなる。
えっ、なる・・・・・・・・・・・・よね?

体が動かない。それ処か、目も見えないのに一瞬焦った。
自分の記憶を覗くと何もない。
あるのは、“お腹減った”だ。
守護霊獣のクーちゃんが見たモノを覗いた。
私、赤子だ。
体が自由に動かないのも納得だ。
目は心眼を開くと解決する。それよりも魔力が少ない。
私、何ができるの?
産まれて30分で捨てられて絶体絶命って!
それはないでしょう?
運命の女神モイラに苦情を入れたい。

 ◇◇◇

手をにぎにぎとして魔力の残量を確認する。
加速の魔法で半分をもぎ取られた。
マジで魔力が少ない。
神力を出し惜しんだ事は何度もあったが、魔力が足りないという事態はなかった。
私の体は魔力が溢れる。
多すぎる魔力は災いの種になるので、守護霊獣クーちゃんに『擬装の魔法』で私を護って貰った。
MPがゼロになると魔力枯渇で意識を失うのだが、ステータス画面でMPがマイナス一万を越えた記憶もある。
あの当時はマイナスMPって何だと首を捻った。
『なんて非常識な!?』

女教官がキンキン声で吠えており、私は「どうして出来るかなんて説明できません。出来るモノはできるのです」と答えた。
今回は偽装ではなく、紛れもなく魔力がない。
生まれて30分ならこんなモノか。

 ◇◇◇

私が悩んでいるウチに長い牙を持つ大きな虎がまた1歩前に進んだ。
数秒後には、あの大きな牙に体が裂かれているのだろう。
足をバタバタさせるのが精一杯であり、逃げる事もできない。
魔力も魔弾バレットを数発分しか残っていない。
近づいてくる魔物の体は一戸建て家のようなに大きく、この手に魔物はランスクラスの魔法で倒す。
魔弾バレットなど威嚇でしかない。
しかし、私はその魔弾バレットに賭けるしかない。
数発の魔弾バレットを二発に集約し、魔弾バレットの弾を魔力圧縮で針のように強化する。
魔弾バレットの表面に神力を這わせる事で聖剣並の貫通力を持たせると、魔石の一転突破に賭ける?
賭けようと、心眼を凝らすが魔石の位置が見えない。

魔石の位置を隠すほどの魔物となると、かなりの強敵だ。
広域魔法で弱らせてからランスで止めを刺すパターンだ。
この手の魔物は勘が良い。
完全に詰んでいると思えた。

生後30分、短かったな、私の人生。

神力を帯びた私を喰った魔物がどんな進化を遂げるのか?
最悪の化け物が誕生しそうだ。
世界が破滅するような事はないだろうが、天災と同じような被害を齎す事は想像できた。
魔王は誕生しないけど、神獣クラスの魔獣の誕生だ。
この世界はどうなるのか?



しかし、良く考えてみると私はこの世界の未練がない。
産まれて30分ですからね。

腹を括ると落ち着いてきた。
私は「ばぶぅ」(勝負)と声を上げた。
巨大な虎の魔物に対して手を翳す。
まず頭を狙う。
恐らく、頭を潰されたくらいでは死なないだろう。
痛みで立ち上がった所を心臓にもう一発だ。
そこに魔石がなければ、私の負けだ。

『ばぶぅ! (イッケぇ!)』

魔弾バレットを撃ち出した瞬間に魔弾バレットが止まる。
正確には止まっていない。
私が触れていないモノは通常の速度に落ちる。
魔弾バレットはスローモーションで魔物に近づいて行く。
ゆっくりと、ゆっくりと、近づいて行く。
ヤバい。
虎の魔物が避ける素振りもなく向かってくる。
のし掛かられるだけで助からない。
万事休す。



加速の魔法で止めた1秒が終わり、世界に色と音が戻ってきた。

魔弾の針が脳天に突き刺さり、魔物が黒い霧のように霧消した。
はぁ???
あり得ない光景であった。
幽霊を除霊したような消え方に似ていた。
魔石を持たない魔物などあるのだろうか?
私の中の常識がまた1つ崩れた。


私は『ばぶぅ』(助かったらしい)と息を吐く。
緊張が解けた。
すると、ぎゅるるるぅとお腹の音がする。
あぁ、お腹が空いた。
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