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10.孤児達との遭遇。
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金髪の少年が『◎$♪×△!¥●&#$?』と何を言っているのか判らない言葉で声を掛けて来ていた。
私はこの世界の言葉を初めて聞いたのだ。
という訳で、いつものように時間を止めて額に触れて記憶を読む。
記憶を読む場合は、知覚時間だけ加速魔法を二重掛けして時間を確保した。
動く速度は1,000倍だ。
軽く音速を超えており、物理法則に従えば、音速の壁を越えた衝撃波で周囲が大変な事になる。
神の奇跡に感謝だ。
こっそり近づいて頭にタッチする。
相手に少しだけ触れるだけで記憶を丸々複写して自分のモノにする。
これで記憶と一緒に技能やスキルなどを盗む事もできる。
スキルとは、何か?
スキルは体を動かす技法と神の奇跡によって造られている祝福だ。
スキルを発動すると、技法を読み取り、体が勝手に動く。
これが神の奇跡だ。
他の神の祝福を複写できない。
自分の体の中に遺物を放り込むような危険な行為だ。
だから、複写するのは技法のみとなる。
私は読み解いた技法を訓練して模倣する事で体得する。
神のほんとどは体得していない。
神の奇跡は、体得する事が条件ではない。
スキルとして与える事ができるから自分で体得する少数派らしい。
私は少数派だ。
この思考を読む魔法を考えたのも人間らしい。
事前に相手が何を考えているかが判るので交渉の時にも重宝する魔法だった。
人の魔法を神が使うとチートになる。
この魔法によって技法をコピーしてスキルの概念が生まれたのだ。
私は言語習得に使った
圧縮データーを超早回しで見る感じで眺めながら会話を獲得すると、同時にこの世界の常識も学んだ。
彼らが住んでいる町はシッパル男爵領の町の1つで『ウェアン』と呼ぶ。
その東に新しい町を造っており、森を燃やしたのは新しい町と森の緩衝地帯を作る為だった。
毎年、春と秋に討伐隊が編成されて森の魔物を駆除する。
領主は少しずつ緩衝地帯を広げていた。
春の種捲きの前に農民も後方支援として駆り出される。
そして、稲刈りの前にもう一度だ。
農作業をしている間に魔物が徘徊しないようにする為だ。
だから、この時期は森の周辺で魔物が狩られて居なくなっているので、森の薬草を採りに来たようだ。
四人は孤児院で暮らしている。
親が亡くなって教会に入れられた者、捨てられた者、預けられた者と様々だが、領主は教会に孤児院を併設して支援を行っている。
もちろん善意ではなく、10歳になると兵士見習いや下働きとして引き取られる。
例外がある。
10歳までに、一日10鉄貨を教会に納められる者は14歳まで免除される。
自分で稼げる者は色々と教える手間が省けるからだ。
それでも14歳までに金貨1枚を貯めて自分を買い戻さないと20歳まで強制的に働かされる。
男の子は粗末な装備で兵として魔物と戦わされ、その期間に半数が亡くなるらしい。
孤児以外にも領内の次男や三男なども追加の税が払わないと強制される。
人頭税はそれほど高くない。
貧しい農家以外は労働力として確保される事が多いらしい。
また、20歳まで生き残っても貰えるモノは何もないので、商家などに奉公に出した方がお得な様だ。
奉公となれば、少ないながらも月々の賃金が支払われる。
息子が死んだという報告を聞く事もない。
人頭税を払って奉公に出すのが普通らしいが、孤児にその人頭税を払う保護者はいない。
20歳まで生き残った者は戦う事に特化しており、傭兵になるか、兵として働く者も多い。
傭兵の報酬が高いが危険も多い。
正式な兵は新米兵を鼓舞する者に変わり、戦士、騎士へと昇格する道が生まれる。
月々の給与が貰え、妻を娶って家が持てる。
騎士は貴族であり、少年達の憧れだ。
だがしかし、兵士から騎士を目指すのは難しい。
兵から戦士になるには傭兵以上に強くなる必要があった。
装備品から違うのだ。
一度は傭兵になり、装備を揃えてから戻ってくる者が多かった。
さらに言えば、自由民になって兵の公募に応じて、そこで一番になると戦士から始められる。
騎士を目指す者は大抵がこちらの道を進み、そのまま戦士で終わる。
最も貴重な20代を傭兵として過ごす。
孤児の少年は、まず自由民にならないと始まらない。
さて、女の子は別の意味で悲惨だ。
14歳から兵の慰み者として給仕をさせられ、そこで子ができると、その子は孤児院に入れられる。
孤児だった子が孤児を作るという理不尽な話だ。
こちらも20歳まで働く義務であり、それから先は自由民になれる。
他で働く事もできるが仕事は多くなく、給仕を続ける者が多いらしい。
給与を貯めてから独立するか、兵士で金を貯めて新しい農地を買った者の嫁になるのが多い。
だから、兵舎の中の恋物語は多い。
この春と秋は、約束した兵士が亡くなったと聞いて涙を流す給仕の多い季節なのだ。
また、見立ての良い娘は娼婦に売られる事もある。
娼婦は割と贅沢な暮らしができる。
美味しい物を与えられ、美しい貴金属などが下げ渡される。
美しく着飾って、良いパトロンを探せという訳である。
一度娼婦になると普通の暮らしができないようだ。
孤児院に寄付を持って来た娼婦がそう言っており、孤児に文字や数字を教えている教師役をする者もいた。
娼婦は自分の子も預けているのだ。
10歳になると教会に小金貨を寄付して、自分の子を引き取って商家の奉公を決めてくる者も珍しくない。
後ろの小柄な女の子は、その母親の提案を断っていた。
少年と少女は必死にお金を貯めて、自分らを買い戻そうとしていた。
山の薬草と違って、森の薬草は高値で売れる。
年長のリーダーは12歳であり、あと1年半で金貨1枚を貯めなければならない。
子供らには少し焦りがあるように思えた。
無音。
音を遮断して、あぁ、あぁ、あいうえおと音のない世界で私は発声をし、この世界の言葉をしゃべれるように練習した。
他の記憶を詳しく精査する気はない。
こんな感じかな?
私は無音を閉じて、時間停止も止めた。
「お前、誰だ! こんな所で何をしている?」
「人に名前を聞く前に自分から名乗りなさい」
「なっ・・・・・・・・・・・・⁉」
うん、伝わったようだ。
四人の記憶を読んだ後は最初の位置に戻っていたので、私が移動した事に気が付いている様子もない。
返事に驚いたのか?
金髪の少年がびっくりした顔になった。
何でこんなチビに反論しれたのかと慌てている様子だ。
銀に近い薄い金髪で藍色の瞳を持つ、おっとりとした少女が反応する。
「イリエ。名前を聞かれているよ」
「判っている」
「名前はないの?」
「・・・・・・・・・・・・俺の名前はイリエだ」
うん、知っていた。
勝ち気な薄汚れた金髪の少年が偉そうに答えた。
後ろで少女がオタオタとしている。
「変な格好だ」
「あんたは汚いわね」
「五月蠅い。俺の勝手だ」
「私も勝手よ」
「・・・・・・・・・・・・」
迷彩服のワンピースが珍しいようだ。
しかも、どうしてこんな所でいるのかが気になって仕方ない。
何度か声を掛けても動かないので死んでいるかとも思っていたようだ。
「どうして、こんな場所にいる?」
「居ちゃいけない理由があるかしら」
「変だ」
「それは理由にならないわよ。他の子は自己紹介しないの?」
何だこいつ?
そんな感じで金髪のイリエが薄緑の目は瞬きをする。
黒い髪に茶色な瞳を持ち、この孤児達で最年長者のリーダーをしている丸い盾と槍を持っている背の高い子が「俺はヨヌイだ」と答えた。
イリエと同じ金髪だが少し色が薄く銀色に近いのが弓を持ったおっとりとした少女でソリンと言う。
この中で一番白い肌色だ。
警戒心が高く、抱っこ紐を廻して投石できる体勢を取っているのが、こげ茶色の髪に深緑の瞳で睨んでいるのがリリーだった。
「リリーよ」
この辺りでは褐色に近いほど美人とされ、褐色の肌に近い肌色のリリーは美人候補だ。
教会に預けられた娼婦の娘であり、勉強を教えに来ているお姉さんらから色々な知識を得ていた。
このまま娼館に買われる運命に抗っていた。
リリーは機転が利くというのか、悪知恵が働く。
武器を調達したのもリリーだった。
一番年下だが他の三人に指示を出す事が度々あった。
但し、その命令を常に聞く訳でもない。
実際、リリーは私に声を掛けるのは反対だったようだが、イリエの好奇心が上回って声を掛けてきた。
「私はジュリアー・・・・・・・・・・・・」
ジュリアーナ・マジク・アラルンガルと名乗り掛けて途中で止めた。
そうだ。私はアラルンガル侯爵家には捨てられた。
私はこの子らと同じ孤児だ。
「ジュリ、ジュリと呼んで」
「ジュリか、判った。どうしてここに居るんだよ。何をしていた?」
「寝ていた」
「そういう意味じゃない」
森を抜けて来たと、正直に答えても信じてくれない気がする。
彼ら彼女らにとって森は恐ろしい場所だ。
今は少しだけ安全という程度であり、森の奥を抜けるなどあり得ないのだ。
判る気がする。
私も索敵で魔物が消える不思議な現象がなければ、森を抜けようと思わない。
生まれてすぐに死んでいた。
クゥちゃんも敵わない、それほど危険な魔物が多いのだ。
イリエ達は理解が追い付かず、興味を持ち、リリーはこんな場所で寝ている私をお化けか、魔物の類いと思っていた。
どうしようか?
私の見た目が可愛いので警戒が薄い。
警戒しているのは、投石をいつでも放てるように抱っこ紐(吊り紐)を廻して攻撃態勢のリリーのみだ。
私はリリーに声を掛けた。
「ねぇ、私が魔物に見えるかしら?」
「変な服を着ている」
「森の草に紛れるのに便利な服と思わない?」
「・・・・・・・・・・・・かもしれないわね」
「そうでしょう。便利な服よ」
イリエが私のワンピースをじっと凝視して考えている。
頭は良いが、意外と単純な子だった。
木の根元で寝ている私に気が付いたのはソリンだけだ。
私の白銀の髪が日の光を反射したので気付いたと言う。
魔力ではなった。
三角帽子からはみ出た髪が反射したのだ。
小さな光だ。
ソリンも最初は珍しい花かと思ったと言った。
魔眼を使いこなせていない?
まぁ、いいか。
そんな事は後に回した。
「町に行きたいの。連れて行ってくれないかしら?」
「そんな事。できる訳がないでしょう。私達は忙しいのよ」
「声を掛けてくれた仲じゃない。もちろん、無償とは言わないわよ」
「いくら?」
町に入るのに道案内がいる方が警戒されない。
森の方角から来た奇妙な少女だ。
リリーが警戒して当然だ。
今回は買い物だけを済ませて家に帰ろう。
町にはミルクがあった。
孤児院ではお祝いの日にしか出て来ない贅沢品のようだが、牛か、山羊がいるのは確定だ。
買って帰ろう。
麦や野菜も沢山あるようだ。
まだ、考えているイリエを無視して、孤児達に提案した。
「お金はないのでポーションを一人一本提供します」
「嘘ぉ、そんなの信じられない」
「これを見ても?」
私はポーチから傷回復ポーションを1つ取り出して、リリーの方に放り投げた。
リリーは抱っこ紐から慌てて手を放し、ポーションの瓶を受け取った。
ガラスのポーション瓶は珍しいのか、道具屋の店主から聞いた話を思い出しながら「まさか、まさか、まさか」と声を上げる。
リリーは鑑定スキルを持っておらず、魔力調整もできないので瓶の中身を確かめる事はできない。
でも、日の光に晒して色と艶を確認して、ポーションでないかと当たりを付けているのが判る。
森の薬草は高価らしいが、ポーションの価格とは比較にならない。
当り前だ。
薬草から作られるのがポーションであり、完成品の方が絶対に高い。
「これなら幾らになるのかしら?」
リリーが一人言でぶつぶつと呟く。
山の薬草一房で銅貨3枚に対して、森の薬草の引き取り価格は銅貨10枚になる。
森の薬草も中々見つかるモノではなく、一日で10房も見つけられると成功らしい。
四人で小銀貨1枚にしかならない。
索敵魔法が使える私からすると凄く効率が悪い。
10分も歩けば、30房が集まるわよね。
対して、回復ポーションは小銀貨1枚で売られていたのをリリーは覚えていた。
引き取り値が半値としても銅貨50枚は固い。
一人1個と言っているので、今日の稼ぎが小銀貨2枚を超える。
「前払いなら受けてもいいわ」
「前金で払いましょう」
「案内を引き受けるわよ」
「おい、リリー。勝手に決めるなよ」
「こっちの方が儲かるのよ。邪魔をしないで」
傷回復ポーションの瓶を一人一人に投げていった。
リリーが「やったわ」と叫んだ。
リーダーのヨヌツとソリンの二人が「仕方ない。帰るか」と声を重ねた。
納得行かないのは、イリエだけだった。
「どこに行きたいの? どこでも案内するわ」
「俺たちの話を聞け」
「うるさいわね。これは儲け話よ。黙っていて」
「いつも、いつも勝手に決めるな」
「私の言う通りにすれば、儲かるのよ。従いなさい」
「俺がリーダーだよな」
「リーダー。こいつを抑えなさい」
ソリンはリリーと二人の間に入って「イリエ。怒っちゃ駄目よ。リリーもちゃんと説明して」と仲を取り持とうとしていた。
四人は凸凹だが、中々良いパーティーだと思えた。
【通貨】
1黄金貨(オリハルコン)=10白銀貨=100,000,000,000円(1000億円)
1白銀貨(ミスリム)=100金貨=1000,000,000円(10億円)(ラガ)
(金剛石1粒=2金貨=2000,000円(200万円)(ラガ))
1金貨=10小金貨=10,000,000円(1000万円)(ラガ)
1小金貨=10銀貨=1000,000円(100万円)(ラガ)
1銀貨=10小銀貨=100,000円(10万円)(ラガ)
1小銀貨=100銅貨=10,000円(1万円)(ラガ)
1銅貨=100鉄貨=100円(ラガ)
1鉄貨=1円 (ラガ)
私はこの世界の言葉を初めて聞いたのだ。
という訳で、いつものように時間を止めて額に触れて記憶を読む。
記憶を読む場合は、知覚時間だけ加速魔法を二重掛けして時間を確保した。
動く速度は1,000倍だ。
軽く音速を超えており、物理法則に従えば、音速の壁を越えた衝撃波で周囲が大変な事になる。
神の奇跡に感謝だ。
こっそり近づいて頭にタッチする。
相手に少しだけ触れるだけで記憶を丸々複写して自分のモノにする。
これで記憶と一緒に技能やスキルなどを盗む事もできる。
スキルとは、何か?
スキルは体を動かす技法と神の奇跡によって造られている祝福だ。
スキルを発動すると、技法を読み取り、体が勝手に動く。
これが神の奇跡だ。
他の神の祝福を複写できない。
自分の体の中に遺物を放り込むような危険な行為だ。
だから、複写するのは技法のみとなる。
私は読み解いた技法を訓練して模倣する事で体得する。
神のほんとどは体得していない。
神の奇跡は、体得する事が条件ではない。
スキルとして与える事ができるから自分で体得する少数派らしい。
私は少数派だ。
この思考を読む魔法を考えたのも人間らしい。
事前に相手が何を考えているかが判るので交渉の時にも重宝する魔法だった。
人の魔法を神が使うとチートになる。
この魔法によって技法をコピーしてスキルの概念が生まれたのだ。
私は言語習得に使った
圧縮データーを超早回しで見る感じで眺めながら会話を獲得すると、同時にこの世界の常識も学んだ。
彼らが住んでいる町はシッパル男爵領の町の1つで『ウェアン』と呼ぶ。
その東に新しい町を造っており、森を燃やしたのは新しい町と森の緩衝地帯を作る為だった。
毎年、春と秋に討伐隊が編成されて森の魔物を駆除する。
領主は少しずつ緩衝地帯を広げていた。
春の種捲きの前に農民も後方支援として駆り出される。
そして、稲刈りの前にもう一度だ。
農作業をしている間に魔物が徘徊しないようにする為だ。
だから、この時期は森の周辺で魔物が狩られて居なくなっているので、森の薬草を採りに来たようだ。
四人は孤児院で暮らしている。
親が亡くなって教会に入れられた者、捨てられた者、預けられた者と様々だが、領主は教会に孤児院を併設して支援を行っている。
もちろん善意ではなく、10歳になると兵士見習いや下働きとして引き取られる。
例外がある。
10歳までに、一日10鉄貨を教会に納められる者は14歳まで免除される。
自分で稼げる者は色々と教える手間が省けるからだ。
それでも14歳までに金貨1枚を貯めて自分を買い戻さないと20歳まで強制的に働かされる。
男の子は粗末な装備で兵として魔物と戦わされ、その期間に半数が亡くなるらしい。
孤児以外にも領内の次男や三男なども追加の税が払わないと強制される。
人頭税はそれほど高くない。
貧しい農家以外は労働力として確保される事が多いらしい。
また、20歳まで生き残っても貰えるモノは何もないので、商家などに奉公に出した方がお得な様だ。
奉公となれば、少ないながらも月々の賃金が支払われる。
息子が死んだという報告を聞く事もない。
人頭税を払って奉公に出すのが普通らしいが、孤児にその人頭税を払う保護者はいない。
20歳まで生き残った者は戦う事に特化しており、傭兵になるか、兵として働く者も多い。
傭兵の報酬が高いが危険も多い。
正式な兵は新米兵を鼓舞する者に変わり、戦士、騎士へと昇格する道が生まれる。
月々の給与が貰え、妻を娶って家が持てる。
騎士は貴族であり、少年達の憧れだ。
だがしかし、兵士から騎士を目指すのは難しい。
兵から戦士になるには傭兵以上に強くなる必要があった。
装備品から違うのだ。
一度は傭兵になり、装備を揃えてから戻ってくる者が多かった。
さらに言えば、自由民になって兵の公募に応じて、そこで一番になると戦士から始められる。
騎士を目指す者は大抵がこちらの道を進み、そのまま戦士で終わる。
最も貴重な20代を傭兵として過ごす。
孤児の少年は、まず自由民にならないと始まらない。
さて、女の子は別の意味で悲惨だ。
14歳から兵の慰み者として給仕をさせられ、そこで子ができると、その子は孤児院に入れられる。
孤児だった子が孤児を作るという理不尽な話だ。
こちらも20歳まで働く義務であり、それから先は自由民になれる。
他で働く事もできるが仕事は多くなく、給仕を続ける者が多いらしい。
給与を貯めてから独立するか、兵士で金を貯めて新しい農地を買った者の嫁になるのが多い。
だから、兵舎の中の恋物語は多い。
この春と秋は、約束した兵士が亡くなったと聞いて涙を流す給仕の多い季節なのだ。
また、見立ての良い娘は娼婦に売られる事もある。
娼婦は割と贅沢な暮らしができる。
美味しい物を与えられ、美しい貴金属などが下げ渡される。
美しく着飾って、良いパトロンを探せという訳である。
一度娼婦になると普通の暮らしができないようだ。
孤児院に寄付を持って来た娼婦がそう言っており、孤児に文字や数字を教えている教師役をする者もいた。
娼婦は自分の子も預けているのだ。
10歳になると教会に小金貨を寄付して、自分の子を引き取って商家の奉公を決めてくる者も珍しくない。
後ろの小柄な女の子は、その母親の提案を断っていた。
少年と少女は必死にお金を貯めて、自分らを買い戻そうとしていた。
山の薬草と違って、森の薬草は高値で売れる。
年長のリーダーは12歳であり、あと1年半で金貨1枚を貯めなければならない。
子供らには少し焦りがあるように思えた。
無音。
音を遮断して、あぁ、あぁ、あいうえおと音のない世界で私は発声をし、この世界の言葉をしゃべれるように練習した。
他の記憶を詳しく精査する気はない。
こんな感じかな?
私は無音を閉じて、時間停止も止めた。
「お前、誰だ! こんな所で何をしている?」
「人に名前を聞く前に自分から名乗りなさい」
「なっ・・・・・・・・・・・・⁉」
うん、伝わったようだ。
四人の記憶を読んだ後は最初の位置に戻っていたので、私が移動した事に気が付いている様子もない。
返事に驚いたのか?
金髪の少年がびっくりした顔になった。
何でこんなチビに反論しれたのかと慌てている様子だ。
銀に近い薄い金髪で藍色の瞳を持つ、おっとりとした少女が反応する。
「イリエ。名前を聞かれているよ」
「判っている」
「名前はないの?」
「・・・・・・・・・・・・俺の名前はイリエだ」
うん、知っていた。
勝ち気な薄汚れた金髪の少年が偉そうに答えた。
後ろで少女がオタオタとしている。
「変な格好だ」
「あんたは汚いわね」
「五月蠅い。俺の勝手だ」
「私も勝手よ」
「・・・・・・・・・・・・」
迷彩服のワンピースが珍しいようだ。
しかも、どうしてこんな所でいるのかが気になって仕方ない。
何度か声を掛けても動かないので死んでいるかとも思っていたようだ。
「どうして、こんな場所にいる?」
「居ちゃいけない理由があるかしら」
「変だ」
「それは理由にならないわよ。他の子は自己紹介しないの?」
何だこいつ?
そんな感じで金髪のイリエが薄緑の目は瞬きをする。
黒い髪に茶色な瞳を持ち、この孤児達で最年長者のリーダーをしている丸い盾と槍を持っている背の高い子が「俺はヨヌイだ」と答えた。
イリエと同じ金髪だが少し色が薄く銀色に近いのが弓を持ったおっとりとした少女でソリンと言う。
この中で一番白い肌色だ。
警戒心が高く、抱っこ紐を廻して投石できる体勢を取っているのが、こげ茶色の髪に深緑の瞳で睨んでいるのがリリーだった。
「リリーよ」
この辺りでは褐色に近いほど美人とされ、褐色の肌に近い肌色のリリーは美人候補だ。
教会に預けられた娼婦の娘であり、勉強を教えに来ているお姉さんらから色々な知識を得ていた。
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リリーは機転が利くというのか、悪知恵が働く。
武器を調達したのもリリーだった。
一番年下だが他の三人に指示を出す事が度々あった。
但し、その命令を常に聞く訳でもない。
実際、リリーは私に声を掛けるのは反対だったようだが、イリエの好奇心が上回って声を掛けてきた。
「私はジュリアー・・・・・・・・・・・・」
ジュリアーナ・マジク・アラルンガルと名乗り掛けて途中で止めた。
そうだ。私はアラルンガル侯爵家には捨てられた。
私はこの子らと同じ孤児だ。
「ジュリ、ジュリと呼んで」
「ジュリか、判った。どうしてここに居るんだよ。何をしていた?」
「寝ていた」
「そういう意味じゃない」
森を抜けて来たと、正直に答えても信じてくれない気がする。
彼ら彼女らにとって森は恐ろしい場所だ。
今は少しだけ安全という程度であり、森の奥を抜けるなどあり得ないのだ。
判る気がする。
私も索敵で魔物が消える不思議な現象がなければ、森を抜けようと思わない。
生まれてすぐに死んでいた。
クゥちゃんも敵わない、それほど危険な魔物が多いのだ。
イリエ達は理解が追い付かず、興味を持ち、リリーはこんな場所で寝ている私をお化けか、魔物の類いと思っていた。
どうしようか?
私の見た目が可愛いので警戒が薄い。
警戒しているのは、投石をいつでも放てるように抱っこ紐(吊り紐)を廻して攻撃態勢のリリーのみだ。
私はリリーに声を掛けた。
「ねぇ、私が魔物に見えるかしら?」
「変な服を着ている」
「森の草に紛れるのに便利な服と思わない?」
「・・・・・・・・・・・・かもしれないわね」
「そうでしょう。便利な服よ」
イリエが私のワンピースをじっと凝視して考えている。
頭は良いが、意外と単純な子だった。
木の根元で寝ている私に気が付いたのはソリンだけだ。
私の白銀の髪が日の光を反射したので気付いたと言う。
魔力ではなった。
三角帽子からはみ出た髪が反射したのだ。
小さな光だ。
ソリンも最初は珍しい花かと思ったと言った。
魔眼を使いこなせていない?
まぁ、いいか。
そんな事は後に回した。
「町に行きたいの。連れて行ってくれないかしら?」
「そんな事。できる訳がないでしょう。私達は忙しいのよ」
「声を掛けてくれた仲じゃない。もちろん、無償とは言わないわよ」
「いくら?」
町に入るのに道案内がいる方が警戒されない。
森の方角から来た奇妙な少女だ。
リリーが警戒して当然だ。
今回は買い物だけを済ませて家に帰ろう。
町にはミルクがあった。
孤児院ではお祝いの日にしか出て来ない贅沢品のようだが、牛か、山羊がいるのは確定だ。
買って帰ろう。
麦や野菜も沢山あるようだ。
まだ、考えているイリエを無視して、孤児達に提案した。
「お金はないのでポーションを一人一本提供します」
「嘘ぉ、そんなの信じられない」
「これを見ても?」
私はポーチから傷回復ポーションを1つ取り出して、リリーの方に放り投げた。
リリーは抱っこ紐から慌てて手を放し、ポーションの瓶を受け取った。
ガラスのポーション瓶は珍しいのか、道具屋の店主から聞いた話を思い出しながら「まさか、まさか、まさか」と声を上げる。
リリーは鑑定スキルを持っておらず、魔力調整もできないので瓶の中身を確かめる事はできない。
でも、日の光に晒して色と艶を確認して、ポーションでないかと当たりを付けているのが判る。
森の薬草は高価らしいが、ポーションの価格とは比較にならない。
当り前だ。
薬草から作られるのがポーションであり、完成品の方が絶対に高い。
「これなら幾らになるのかしら?」
リリーが一人言でぶつぶつと呟く。
山の薬草一房で銅貨3枚に対して、森の薬草の引き取り価格は銅貨10枚になる。
森の薬草も中々見つかるモノではなく、一日で10房も見つけられると成功らしい。
四人で小銀貨1枚にしかならない。
索敵魔法が使える私からすると凄く効率が悪い。
10分も歩けば、30房が集まるわよね。
対して、回復ポーションは小銀貨1枚で売られていたのをリリーは覚えていた。
引き取り値が半値としても銅貨50枚は固い。
一人1個と言っているので、今日の稼ぎが小銀貨2枚を超える。
「前払いなら受けてもいいわ」
「前金で払いましょう」
「案内を引き受けるわよ」
「おい、リリー。勝手に決めるなよ」
「こっちの方が儲かるのよ。邪魔をしないで」
傷回復ポーションの瓶を一人一人に投げていった。
リリーが「やったわ」と叫んだ。
リーダーのヨヌツとソリンの二人が「仕方ない。帰るか」と声を重ねた。
納得行かないのは、イリエだけだった。
「どこに行きたいの? どこでも案内するわ」
「俺たちの話を聞け」
「うるさいわね。これは儲け話よ。黙っていて」
「いつも、いつも勝手に決めるな」
「私の言う通りにすれば、儲かるのよ。従いなさい」
「俺がリーダーだよな」
「リーダー。こいつを抑えなさい」
ソリンはリリーと二人の間に入って「イリエ。怒っちゃ駄目よ。リリーもちゃんと説明して」と仲を取り持とうとしていた。
四人は凸凹だが、中々良いパーティーだと思えた。
【通貨】
1黄金貨(オリハルコン)=10白銀貨=100,000,000,000円(1000億円)
1白銀貨(ミスリム)=100金貨=1000,000,000円(10億円)(ラガ)
(金剛石1粒=2金貨=2000,000円(200万円)(ラガ))
1金貨=10小金貨=10,000,000円(1000万円)(ラガ)
1小金貨=10銀貨=1000,000円(100万円)(ラガ)
1銀貨=10小銀貨=100,000円(10万円)(ラガ)
1小銀貨=100銅貨=10,000円(1万円)(ラガ)
1銅貨=100鉄貨=100円(ラガ)
1鉄貨=1円 (ラガ)
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それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。
派手な奇跡は起こらない。
けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。
――その役目を、誰一人として理解しないまま。
奇跡が少なくなった。
役に立たない聖女はいらない。
そう言われ、私は静かに国を追放された。
もう、祈る理由はない。
邪気を生み出す原因に目を向けず、
後始末だけを押し付ける国を守る理由も。
聖女がいなくなった国で、
少しずつ異変が起こり始める。
けれど彼らは、最後まで気づかなかった。
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