かみたま降臨 -神様の卵が降臨、生後30分で侯爵家を追放で生命の危機とか、酷いじゃないですか?-

牛一/冬星明

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12.町の道具屋さん。

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家が日干しのレンガの壁で出来ていた。
北側は揺るやかな斜面が上っており、土の家がせり上がっているように見える。
南の門に近い方が貧困層の家になる。
西の奥が農作地になっており、山の斜面には果実の木が植えられている。
町の者が許可もなく、北の山に入る事は許されない。
山には幾つかの砦があって、見張りを立てていた。
山の幸も領主様のモノだ。
孤児である四人は西の街道沿いの山か、南の森と少し距離のある山で採取をしていた。
町の中央部から東に曲がた。
少し行った所にリリー達が利用する道具屋があった。

「いらっしゃい」
「客を連れてきたわ」
「今日は随分と早いな」
「仕事は中止よ」
「お前さんが・・・・・・・・・・・・珍しい。雪でも降るかもしれないな」
「雪は降らないわ。それ以上に儲かったのよ」
「なるほど」

店主は眼鏡をかけ直して私を見た。
親に捨てられた私は住民登録がないので流れ者であり、孤児と一緒だ。
孤児も流れ者も商業組合や傭兵組合に登録できない。
会員でなければ、組合が出す依頼を受ける事もできない。
また、採って来た薬草などの採取品を売る事もできない。
だから、孤児達は何でも屋の道具屋を利用する。
平台に多くの日曜道具が置かれていた。

「ほぉ、変わった服だな」
「見た事はないかしら?」
「ないな」
「でも、服を売りに来たのではないのよ」
「ははは、そりゃそうだ」

服を売るなら古着屋だ。
道具屋の主人は落ち着いた感じの店であり、店主も落ち着いていた。
髪はほとんど真っ白であり、所々に黒い線が走っている。
その顔は肌色で幾つかの皺があり、苦労した感じが窺える若々しい老人という印象であった。
椅子に腰掛けたままで私を見た。

「何のようかね」
「初めまして。ジュリと申します」
「これは、これは、丁寧な挨拶ですな」
「荷物を買って頂けますか」
「どの品でございますか?」

私は傷回復ポーションをポーチから2本取り出した。
ガラスの瓶に入っていたので店主の顔が少し驚いたようだ。
店の後ろの棚にも回復ポーションが置かれているが、すべてが磁器であり、中身が見えるポーションは1つもない。
魔導板を取り出すと、白い板に一滴だけ垂らして板の上に置く。
両端を持って魔力を通したみたいだ。
すると、その一滴から魔力結晶がキラキラと輝き出す。
店主はそれをじっと見ていた。
リリーも驚いている。
そして、小指を少し付けて舌で確認する。

「間違いなく傷の上物ですな」
「幾らで引き取って貰えますか?」
「商業組合に持って行けば、高値で売れますよ」
「あいにく身分証明書を持っていません」
「なるほど、それでウチに来た訳ですか」

中級の回復ポーションの売り値は小銀貨5枚であり、引き取りは小銀貨3枚だそうだ。
しかし、その半分の小銀貨1枚と銅貨50枚を提示した。
店主に足下を見られたか?

「もう少し何とかなりませんか? 小銀貨2枚と銅貨50枚で」
「話にならん。小銀貨1枚と銅貨70枚だ」
「こちらも困っています。助けて頂けませんか? 小銀貨2枚と銅貨10枚で」
「駄目だ。ウチも商売だ。小銀貨1枚と銅貨80枚だ」

この世界では値切りが普通であり、定価がない。
高く買うのも安く買うのも交渉次第だ。
どちらも的外れの値段から交渉を始める。
リリーの記憶に店主から交渉のやり方を習っている記憶があったので慌てないで対処できた。
3回ほど値切りをして適正価格を見つけるのだ。

「では、小銀貨2枚では」

店主がにやりと笑った。
正解か!?
私が目を輝かせたのを感じたのか、少し首を横に振った。

「惜しかったな。ここは小銀貨2枚と銅貨5枚というべきだった。そうすれば、儂は小銀貨2枚と言ってやった」
「駄目ですか?」
「客から先に当たりを言われては店主も立つ瀬がない。一度で決めたいならば、小銀貨1枚と銅貨90枚と言うべきだが、まだ値引きを要求したいならば、一桁の銅貨を提示しろ。そうすれば、こちらから限界に近い提示額を言ってやる」

なるほど、私は値切り額が甘かったようだ。
交渉を早く終わらせたいならば、一桁の値引きを提示するのが合図らしい。
リリーも初めは何度も値引きをしていたが、そのうちに適正価格を知ってくると、互いに近い額から始めるようだ。
私みたいに初めての客だから、店主も無茶な値段を提示したのだ。
適正価格に気が付いた時は、そこより少し高い値段を言うのが正解だった。

「勉強代を込みで小銀貨1枚と銅貨92枚でどうだ」
「小銀貨1枚と銅貨95枚ならば、お売りします」
「良いだろう。その額で引き取ってやろう」

小銀貨2枚から小銀貨1枚と銅貨95枚が引き取りの適正価格だったようだ。
交渉が終わると店主が説明をしてくれる。
このような小さい店では中級の回復ポーションは売れない。
精々、組合で買えなくなった冒険者が粗悪な初級の回復ポーションを買って行く。
だから、店主はこの上級の回復ポーションを商業組合に売りに行く。
引き取り価格は小銀貨4枚と冒険者より高く買ってくれるらしいが、問題は税金3割だ。
小銀貨4枚で買い取って貰えても、税金の小銀貨1枚と銅貨20枚が小銀貨2枚と銅貨82枚しか残らない。
売り値が小銀貨5枚の上級の回復ポーションならば、売り上げの2割に当たる小銀貨1枚は利益として確保したいらしい。
商売は難しい。

「売り上げ税の他にも地代や組合への加盟費も取られる。暴利に走っているつもりはないが、2割の利益は確保したいのが商人のあり方だ」
「1瓶が小銀貨1枚と銅貨95枚でしたら、利益が小銀貨1枚を切る事になりませんか?」
「問題ない。実際の取引額は1瓶が小銀貨4枚だ。その2割は銅貨80枚だ」
「つまり、私からの引き取り価格は小銀貨2枚から小銀貨1枚と銅貨80枚の間ならば問題なかった訳ですね」
「そう言う事だな」

つまりこうだ。
私が店主に1瓶を小銀貨1枚と銅貨95枚で売る。
店主が組合に1瓶を小銀貨4枚で売る。
差額の利益は小銀貨2枚と銅貨5枚となる。

小銀貨4枚 - 小銀貨1枚と銅貨95枚 = 小銀貨2枚と銅貨5枚

小銀貨4枚には2割の取引税が掛かり、小銀貨1枚と銅貨20枚が引かれる
税引きの利益は銅貨85枚となる。

小銀貨2枚と銅貨5枚 - 小銀貨1枚と銅貨20枚 = 銅貨85枚

実際に組合で得た金額は小銀貨4枚なので、その2割が銅貨80枚と考えれば、銅貨85枚は十分に儲かっている事になる。

「納得しました。店主は十分に儲かっている訳ですね」
「そういう事になるな」
「では、50本を引き取って貰えますか?」
「お嬢ちゃん。そのポーチは魔法付加の収納ポーチだったのか?」
「はい」

私は50本の傷回復ポーションを台の上に出すと、孤児らも4本を出して来た。
店主は参ったと大声で笑った。
こうして、私は銀貨9枚、小銀貨7枚、銅貨50枚を受け取った。
イリエ達が騒いでいた。

「俺達のお金だ!」
「こんなに貰っていいのか」
「小銀貨だ」

1瓶 (小銀貨1枚と銅貨95枚)でも過分な報酬だった。
リリーが胸を張って「私の言う通りにすれば、間違いなのよ」と自慢していた。
そして、ミスリルの針を溶かした塊を置くと店主が固まった。
金貨12枚 (1億2千万円)をゲットだ。

■通貨
1黄金貨(オリハルコン)=10白銀貨=100,000,000,000円(1000億円)
1白銀貨(ミスリム)=100金貨=1000,000,000円(10億円)(ラガ)
(金剛石1粒=2金貨=2000,000円(200万円)(ラガ))
1金貨=10小金貨=10,000,000円(1000万円)(ラガ)
1小金貨=10銀貨=1000,000円(100万円)(ラガ)
1銀貨=10小銀貨=100,000円(10万円)(ラガ)
1小銀貨=100銅貨=10,000円(1万円)(ラガ)
1銅貨=100鉄貨=100円(ラガ)
1鉄貨=1円 (ラガ)
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