かみたま降臨 -神様の卵が降臨、生後30分で侯爵家を追放で生命の危機とか、酷いじゃないですか?-

牛一/冬星明

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13.町の観光。

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道具屋を出ると町の中央を目指して扇状の坂を上がった。
両側に土の家が連なり、中流層の家が並ぶ。
中央の向こう側は斜面になっており、そこに上流層の者が住む。
その上に代官の屋敷が見えた。
その上には山々が広がる。
白く染められたアルプスのような山々が美しく、手前の緑に染まって調和していた。
赤茶色の町並みも美しく見えた。
通りを歩く人は皆が小綺麗だ。
そんな中に薄汚れた武具を纏ったイリエ達は少し浮いて見える。

「薄汚れていて悪いかよ」
「悪いとは思わないけど、周りの人の目が気になっただけね」
「知るかよ」
「ここは我々、貧困層の者が来る場所ではありません」
「禁止されているの?」
「そんな訳ないでしょう。でも、私達は道具屋より上には行かないのよ」
「リリーは娼館のお姉さんに会いたくないだけどね」

イリエは悪びれた感じになっていた。
リーダーのヨヌツは余り行きたくない感じだった。
ソリンとリリーは慣れているように思えた。
記憶を読む。

なるほど、ソリンとリリーは月の一度だけ孤児院長から娼館の掃除を言いつけられて通っていた。
娼館の主人がリリーの成長とソリンの様子を見る為だ。
ソリンも肌の色が白い事を除けば、将来は美人の部類に入る。
下級の兵士の給付をさせるなど勿体ないと娼婦のお姉さんらは考えた。
給付はボロ雑巾のような仕事だ。
それに比べれば、娼婦は食う心配はなく、綺麗に着飾れるのだから貧困民にとって天国のような場所だ。
しかも身請けして貰えれば、好きな人と添い遂げる事もできる。
リリーの友人であるソリンへの気遣いだった。
それをリリーは拒絶していた。
給付も娼婦も媚びる事に変わりない。

「リリーはプライドが高いのね」
「悪い?」
「ううん。私はそういうのが好きよ」
「貴方に好かれて何か得な事があるの?」
「口の利き方に気を付けなさい。今はお客様よ」
「あぁ、そうだったわね。すみません」
「私に好かれれば得だと思わない。お金があるのは見ていたでしょう」
「そうね。貴方はお金を持っている」
「気に入られたいと思わない?」
「男に媚びるのと、貴方に媚びるのとどこが違うの?」
「あははは、同じね。失言だったわ。忘れて頂戴」
「別に良いわ」

坂を上り切ると大通りに戻る。
大通りの役所の手前には大公園があり、沢山の露天が並んでいた。
武器や古着、小物などを売る露天が並ぶ。
食べ物屋も立っていた。
肉串の匂いが流れてくるだけでイリエが涎を垂らしており、それをソリンが止めていた。
イリエは「今なら銅貨5枚で簡単に買える」と呟いた。

「イリエ、無駄使いはダメって言っているでしょう」
「そうよ」
「今日だけ、今日だけ、いいだろう」
「その油断が最後に後悔を生むわよ」
「頼む。リリー、ソリン」
「駄目よ」
「イリエ。諦めましょうね」
「頼む」

リーダーのヨヌツはポケットと肉串を何度も交互に見ている。
男共は食欲に負けるのか。
女子組のリリーとソリンは堅実だ。
でも、香ばしい匂いだ。
匂いで涎を垂らしている私を見て、イリエが物干しそうな目を向けた。
食べられるなら私も食べたいよ。
でも、まだ固形物は食べられない。
私が我慢して歩き始めると、イリエががっくりと肩を落とした。
奢りませんよ。

四人が美味しい物を食べているのを見せ付けられるのは我慢できない。
大通りを渡り、反対側の露天に入った。
プ~ンと芋ガレットの香ばしく焼けた匂いが漂ってきた。
涎が垂れる。
芋なら、芋ならいけるかな?
涎を垂らしながら、ガレットを売る屋台を見た。

「おい、俺達に金を払えと言っているのか?」
「お代金をお願いします」
「誰のお陰でこの町で住めていると思っている?」
「兵士様のお陰です。それには感謝しております」
「感謝は形にするモノだろう。あん?」

どこの世界にもこの手の輩が要るモノだ。
ガラの悪い兵士が二人で金も払わず、無銭飲食をしようとする。
芋のガレットをむしゃくしゃと食いながら代金を求める店主を睨み付けた。

「又ね。アイツは太刀が悪いのよ」
「仕方ないよ」
「巡回なのか、タカリ来ているのかどっちかにすればいいのに」
「リリー、声が大きい」

リリーとソリンには当り前の光景だった。
巡回中の腕章が揺れている。
警備するハズの者がタカっているのだ。

「むしろ、もう一枚を差し出すのが筋ってもんだろう」
「そうだ。俺達に食べて頂いてありがとうございます。そう言うのが正しいと思わんか?」
「お許し下さい。物価が上がり、材料費も上がっておりますが、価格を自由に上げられる訳ではございません」
「知るかよ」
「ほら、さっさともう一枚ずつを俺達に差し出せ」

二人の階級を示す肩のバッチは上曹長だ。
巡回中の腕章を付けていた。
このガラの悪さ、上曹長と言う事は春の討伐に参加している傭兵上がりで兵士に違いない。
他にも兵士がチラホラと見えるが、階級は曹長から士長で階級が低い為か、見て見ぬ振りをしていた。

「誰も止める人はいないのね?」
「止められる訳がないでしょう。巡回中の兵士にイチャモンを付ければ問題よ」
「偉い人は、ここより上のお店に行きます」
「つまり、下等な平民の所に降りて来ないのよ」
「上司が居ないので好き勝手しているのね」
「はい、そうなります」

悪代官の手下って所か?
どこの役人も腐っており、袖の下を要求するのが普通のようだ。
大抵の露天主は泣き寝入りだ。
だが、この屋台の店主にも事情がありそうだ。

「申し訳ございません。ウチはカツカツでして、場所代を払うのも困っております。どうかお代金をお願いします」
「はぁ、聞こえんな」
「そんな事は俺達に関係ないだろう」
「そうでございますが・・・・・・・・・・・・」

記憶の端に兵士の愚痴が残っていた。
何でも傭兵から上曹長になると実入りが減る。
倒した獲物は軍で回収されるからだ。
それを袖の下で補っている。
兵士になればなったで大変のようだ。
店主が出て来て縋り付いた。

「お願いします。お代金を」
「五月蠅い」
「俺達に逆らった者がどうなるか、教えてやる?」

上曹長が店主を蹴り飛ばし、剣を抜いて斬り掛かろうとした。
私の側で刃傷沙汰にんじょうざたは止めて欲しい。

魔弾バレット

無詠唱で針のような細い魔弾が振り上げて手の甲を突き刺さった。
痛みで剣がガランと落ちた。
魔弾はすぐに消えるので、手の甲に痛みだけが残ったようで手を包むように庇っていた。
余りにも細い針なので血すら流れていない。

「何をやっている?」
「手が、手が痛い」
「何の冗談だ?」

痛いと言っても感覚的な問題であり、ダメージはほとんどないハズだ。
もう一人の上曹長がつまらないと店主の腹を蹴るつもりなのか、足を大きく引いたので軸足の膝に“魔弾バレット”を打ち込んだ。
膝の皿の外側にある出っ張った骨から、指3本分上にあるくぼみの秘孔ひこう梁丘りょうきゅう』を狙った。 

「痛だぁ、痛だぁ、痛だぁ!」

軸足がブレて尻持ち付き。
膝を押さえた上曹長は激痛でのたうち回った。
あの秘孔ひこうを貫かれると、ダメージ以上の激痛が走るのだ。
のたうち回る姿に辺りの客がクスクスと笑う声が聞こえた。

「誰だ。今笑った奴は!?」

怒りで手の痛みも忘れて、剣を拾った上曹長が周り客に八つ当たりする。
剣を振り回して、周りの客を威嚇する。
見苦しい。
私に襲い掛かって来たら、すれ違い様に呼吸を止める秘孔ひこうに針の魔弾を撃ち込んでやろう。
言っておくが『お前はすでに死んでいる』なんて都合のいい秘孔ひこうは存在しない。
だが、心臓を一時的に止めたり、腕や足を動かなくする事はできる。

気の触れた上曹長が一歩、また一歩と剣を振り回して近づいて来る。
逆に、お客らが遠巻きに引いて行く。
近づいてきたので私はそっとイリエの前に出た。
気の触れた上曹長と私の目が合った。

「邪魔だ。ドケぇ」

『そこで何をしている!』

群衆の中を透き通った声が通り過ぎた。
白馬の王子様ではなく、白馬の御令嬢の登場だ。
群衆が道をさっと空けると、馬を返して近づいて来た。
馬上でリーンと背筋を伸ばした姿も美しく、健康で艶のある褐色の肌に、澄み切った青い目と、夜空のような黒い髪の少女が近づいて来た。
ぶるぶると上曹長達の顔が青ざめていた。

「(聖女アーイシャ様よ。頭を下げなさい)」

微かにリリーの声が聞こえた。
周りの群衆は膝を折って、胸に両手をクロスして頭を下げていた。
慌てて私も見習った。
私の側まで馬が近づいた。

「この騒ぎは何だ?」
「この店主が暴れたので取り押さえようとしておりました」
「そうであるか」
「直ちに捕え、牢に放り込みます」
「そうか。だが、私にはそう見えなかったぞ」
「ですが・・・・・・・・・・・・」
「私に嘘が通じると思っておるのか」

聖女と呼ばれる少女の声が高まった。
上曹長達が萎縮する。
正義の味方の登場に私はチラリと顔を上げる。
少女と目が合った。
なるほど、微かな光が目に見えた。
これは『真実を写す魔眼』だ。

「世話を掛けたね」
「何の事か判りません」
「そうか。ならば、それでよい」

少女はそれ以上の追求はしない。
上曹長達を「捕えよ」と命じると、家臣らがすぐに実行する。
そして、店主の小金貨3枚を投げた。

「店主。迷惑を掛けた。これで許して欲しい」
「いいえ。こんな事をして頂いては・・・・・・・・・・・・」
「皆にも迷惑を掛けたので、これで美味しい物を皆に振る舞って欲しい。頼めるか」
「畏まりました」

私への褒美はガレットらしい。
粋な計らいだ。
栗鼠リスのように少しずつ囓って美味しく頂きました。
感謝、感謝。
こうして私と聖女アーイシャは出会った。
もちろん、互いの運命を知る由もない。
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