かみたま降臨 -神様の卵が降臨、生後30分で侯爵家を追放で生命の危機とか、酷いじゃないですか?-

牛一/冬星明

文字の大きさ
14 / 34

13.町の観光。

しおりを挟む
道具屋を出ると町の中央を目指して扇状の坂を上がった。
両側に土の家が連なり、中流層の家が並ぶ。
中央の向こう側は斜面になっており、そこに上流層の者が住む。
その上に代官の屋敷が見えた。
その上には山々が広がる。
白く染められたアルプスのような山々が美しく、手前の緑に染まって調和していた。
赤茶色の町並みも美しく見えた。
通りを歩く人は皆が小綺麗だ。
そんな中に薄汚れた武具を纏ったイリエ達は少し浮いて見える。

「薄汚れていて悪いかよ」
「悪いとは思わないけど、周りの人の目が気になっただけね」
「知るかよ」
「ここは我々、貧困層の者が来る場所ではありません」
「禁止されているの?」
「そんな訳ないでしょう。でも、私達は道具屋より上には行かないのよ」
「リリーは娼館のお姉さんに会いたくないだけどね」

イリエは悪びれた感じになっていた。
リーダーのヨヌツは余り行きたくない感じだった。
ソリンとリリーは慣れているように思えた。
記憶を読む。

なるほど、ソリンとリリーは月の一度だけ孤児院長から娼館の掃除を言いつけられて通っていた。
娼館の主人がリリーの成長とソリンの様子を見る為だ。
ソリンも肌の色が白い事を除けば、将来は美人の部類に入る。
下級の兵士の給付をさせるなど勿体ないと娼婦のお姉さんらは考えた。
給付はボロ雑巾のような仕事だ。
それに比べれば、娼婦は食う心配はなく、綺麗に着飾れるのだから貧困民にとって天国のような場所だ。
しかも身請けして貰えれば、好きな人と添い遂げる事もできる。
リリーの友人であるソリンへの気遣いだった。
それをリリーは拒絶していた。
給付も娼婦も媚びる事に変わりない。

「リリーはプライドが高いのね」
「悪い?」
「ううん。私はそういうのが好きよ」
「貴方に好かれて何か得な事があるの?」
「口の利き方に気を付けなさい。今はお客様よ」
「あぁ、そうだったわね。すみません」
「私に好かれれば得だと思わない。お金があるのは見ていたでしょう」
「そうね。貴方はお金を持っている」
「気に入られたいと思わない?」
「男に媚びるのと、貴方に媚びるのとどこが違うの?」
「あははは、同じね。失言だったわ。忘れて頂戴」
「別に良いわ」

坂を上り切ると大通りに戻る。
大通りの役所の手前には大公園があり、沢山の露天が並んでいた。
武器や古着、小物などを売る露天が並ぶ。
食べ物屋も立っていた。
肉串の匂いが流れてくるだけでイリエが涎を垂らしており、それをソリンが止めていた。
イリエは「今なら銅貨5枚で簡単に買える」と呟いた。

「イリエ、無駄使いはダメって言っているでしょう」
「そうよ」
「今日だけ、今日だけ、いいだろう」
「その油断が最後に後悔を生むわよ」
「頼む。リリー、ソリン」
「駄目よ」
「イリエ。諦めましょうね」
「頼む」

リーダーのヨヌツはポケットと肉串を何度も交互に見ている。
男共は食欲に負けるのか。
女子組のリリーとソリンは堅実だ。
でも、香ばしい匂いだ。
匂いで涎を垂らしている私を見て、イリエが物干しそうな目を向けた。
食べられるなら私も食べたいよ。
でも、まだ固形物は食べられない。
私が我慢して歩き始めると、イリエががっくりと肩を落とした。
奢りませんよ。

四人が美味しい物を食べているのを見せ付けられるのは我慢できない。
大通りを渡り、反対側の露天に入った。
プ~ンと芋ガレットの香ばしく焼けた匂いが漂ってきた。
涎が垂れる。
芋なら、芋ならいけるかな?
涎を垂らしながら、ガレットを売る屋台を見た。

「おい、俺達に金を払えと言っているのか?」
「お代金をお願いします」
「誰のお陰でこの町で住めていると思っている?」
「兵士様のお陰です。それには感謝しております」
「感謝は形にするモノだろう。あん?」

どこの世界にもこの手の輩が要るモノだ。
ガラの悪い兵士が二人で金も払わず、無銭飲食をしようとする。
芋のガレットをむしゃくしゃと食いながら代金を求める店主を睨み付けた。

「又ね。アイツは太刀が悪いのよ」
「仕方ないよ」
「巡回なのか、タカリ来ているのかどっちかにすればいいのに」
「リリー、声が大きい」

リリーとソリンには当り前の光景だった。
巡回中の腕章が揺れている。
警備するハズの者がタカっているのだ。

「むしろ、もう一枚を差し出すのが筋ってもんだろう」
「そうだ。俺達に食べて頂いてありがとうございます。そう言うのが正しいと思わんか?」
「お許し下さい。物価が上がり、材料費も上がっておりますが、価格を自由に上げられる訳ではございません」
「知るかよ」
「ほら、さっさともう一枚ずつを俺達に差し出せ」

二人の階級を示す肩のバッチは上曹長だ。
巡回中の腕章を付けていた。
このガラの悪さ、上曹長と言う事は春の討伐に参加している傭兵上がりで兵士に違いない。
他にも兵士がチラホラと見えるが、階級は曹長から士長で階級が低い為か、見て見ぬ振りをしていた。

「誰も止める人はいないのね?」
「止められる訳がないでしょう。巡回中の兵士にイチャモンを付ければ問題よ」
「偉い人は、ここより上のお店に行きます」
「つまり、下等な平民の所に降りて来ないのよ」
「上司が居ないので好き勝手しているのね」
「はい、そうなります」

悪代官の手下って所か?
どこの役人も腐っており、袖の下を要求するのが普通のようだ。
大抵の露天主は泣き寝入りだ。
だが、この屋台の店主にも事情がありそうだ。

「申し訳ございません。ウチはカツカツでして、場所代を払うのも困っております。どうかお代金をお願いします」
「はぁ、聞こえんな」
「そんな事は俺達に関係ないだろう」
「そうでございますが・・・・・・・・・・・・」

記憶の端に兵士の愚痴が残っていた。
何でも傭兵から上曹長になると実入りが減る。
倒した獲物は軍で回収されるからだ。
それを袖の下で補っている。
兵士になればなったで大変のようだ。
店主が出て来て縋り付いた。

「お願いします。お代金を」
「五月蠅い」
「俺達に逆らった者がどうなるか、教えてやる?」

上曹長が店主を蹴り飛ばし、剣を抜いて斬り掛かろうとした。
私の側で刃傷沙汰にんじょうざたは止めて欲しい。

魔弾バレット

無詠唱で針のような細い魔弾が振り上げて手の甲を突き刺さった。
痛みで剣がガランと落ちた。
魔弾はすぐに消えるので、手の甲に痛みだけが残ったようで手を包むように庇っていた。
余りにも細い針なので血すら流れていない。

「何をやっている?」
「手が、手が痛い」
「何の冗談だ?」

痛いと言っても感覚的な問題であり、ダメージはほとんどないハズだ。
もう一人の上曹長がつまらないと店主の腹を蹴るつもりなのか、足を大きく引いたので軸足の膝に“魔弾バレット”を打ち込んだ。
膝の皿の外側にある出っ張った骨から、指3本分上にあるくぼみの秘孔ひこう梁丘りょうきゅう』を狙った。 

「痛だぁ、痛だぁ、痛だぁ!」

軸足がブレて尻持ち付き。
膝を押さえた上曹長は激痛でのたうち回った。
あの秘孔ひこうを貫かれると、ダメージ以上の激痛が走るのだ。
のたうち回る姿に辺りの客がクスクスと笑う声が聞こえた。

「誰だ。今笑った奴は!?」

怒りで手の痛みも忘れて、剣を拾った上曹長が周り客に八つ当たりする。
剣を振り回して、周りの客を威嚇する。
見苦しい。
私に襲い掛かって来たら、すれ違い様に呼吸を止める秘孔ひこうに針の魔弾を撃ち込んでやろう。
言っておくが『お前はすでに死んでいる』なんて都合のいい秘孔ひこうは存在しない。
だが、心臓を一時的に止めたり、腕や足を動かなくする事はできる。

気の触れた上曹長が一歩、また一歩と剣を振り回して近づいて来る。
逆に、お客らが遠巻きに引いて行く。
近づいてきたので私はそっとイリエの前に出た。
気の触れた上曹長と私の目が合った。

「邪魔だ。ドケぇ」

『そこで何をしている!』

群衆の中を透き通った声が通り過ぎた。
白馬の王子様ではなく、白馬の御令嬢の登場だ。
群衆が道をさっと空けると、馬を返して近づいて来た。
馬上でリーンと背筋を伸ばした姿も美しく、健康で艶のある褐色の肌に、澄み切った青い目と、夜空のような黒い髪の少女が近づいて来た。
ぶるぶると上曹長達の顔が青ざめていた。

「(聖女アーイシャ様よ。頭を下げなさい)」

微かにリリーの声が聞こえた。
周りの群衆は膝を折って、胸に両手をクロスして頭を下げていた。
慌てて私も見習った。
私の側まで馬が近づいた。

「この騒ぎは何だ?」
「この店主が暴れたので取り押さえようとしておりました」
「そうであるか」
「直ちに捕え、牢に放り込みます」
「そうか。だが、私にはそう見えなかったぞ」
「ですが・・・・・・・・・・・・」
「私に嘘が通じると思っておるのか」

聖女と呼ばれる少女の声が高まった。
上曹長達が萎縮する。
正義の味方の登場に私はチラリと顔を上げる。
少女と目が合った。
なるほど、微かな光が目に見えた。
これは『真実を写す魔眼』だ。

「世話を掛けたね」
「何の事か判りません」
「そうか。ならば、それでよい」

少女はそれ以上の追求はしない。
上曹長達を「捕えよ」と命じると、家臣らがすぐに実行する。
そして、店主の小金貨3枚を投げた。

「店主。迷惑を掛けた。これで許して欲しい」
「いいえ。こんな事をして頂いては・・・・・・・・・・・・」
「皆にも迷惑を掛けたので、これで美味しい物を皆に振る舞って欲しい。頼めるか」
「畏まりました」

私への褒美はガレットらしい。
粋な計らいだ。
栗鼠リスのように少しずつ囓って美味しく頂きました。
感謝、感謝。
こうして私と聖女アーイシャは出会った。
もちろん、互いの運命を知る由もない。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

処理中です...