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14.爆買と狼の来襲。

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白菜、椎茸、にん~じん、季節のお野菜いかがです。
脳内で変なミュージックが流れていた。
騒ぎの後に場所を移して爆買だ。
創造魔法で野菜や果物の種が作れない以上、どこかで買うしかない。
おぉ、小松菜だ。
こっちは真っ白いアスパラガスだ。
キャベツもあった。
形が違うが、これはネギか?

「店主、これを下さい」
「このナベト (白いアスパラガス)か。いくらいる?」
「全部です」
「・・・・・・・・・・・・」
「ここからここまで全部です」

イリエ達が呆れていて、ちょっと大人買いをしただけですよ。
春なので種類が少ない。
隣の露天で小麦、芋を袋ごと買った。
少量だがアワキビ、タマネギを手に入れた。
アサ、エゴマ、ひまわり、カボジャ、にんじん、トマト、きゅうり、リンゴ、柿、葡萄、蜜柑などの種が手に入った。
マンゴはないか、メロンはないか、スイカはないか?
トウモロコシでもいい。
うりがあれば、メロンやスイカ擬きに品種改良すればいい。
元々糖度を作る遺伝子があるので簡単だ。
あぁ、夢が広がる。
あれもこれも・・・・・・・・・・・・爆買いだ。
金貨1枚分 (100万円)がぶっ飛びました。

「ジュリ。そんな買って、どうするの?」
「育てます」
「どうやって?」
「ゴーレムを使えば簡単です」

リリーは難しい顔をされた。
どうやら理解して出来なかったようだ。
海の家の周辺の森を燃やせば、畑はいくらでもある。
管理は精霊にお願いし、手入れはゴーレムを使えば問題ない。
私は準備をするだけだ。

「なぁ、そのポーチって、どれくらいの物が入るんだ?」
「まだまだ入りますよ」
「凄いな」

嘘です。
このポーチはリュック1つ分の荷物しか入りません。
ポーチに入れているように見せて影に収納していた。

「叔父さん。牛や山羊は手に入りませんか?」
「馬ならあっちあるが、牛が欲しいなら農家に行け。ここで売っている者はおらん」
「そうですか」

買ったとしても持ち帰る方法がない。
影は生き物も入れる事ができるが、取り出した後にすぐに死ぬ。
影の中はほとんど時間が経っていないが、知覚時間になると逆に伸びる。
近距離をショートカットする影渡りという魔法があるが、影を通過する時間は一瞬なのだが、影に入って出るまで数時間の感覚に襲われる。
遠い距離を渡ろうとすると、意識が持って行かれて帰って来られない。
神力で解決できるが、大量の神力を消耗するので無理なのだ。
おそらく、4日も影に収納すると一万年以上も経過した感覚に襲われて精神的に持たない。
魔の森を数頭の牛を連れて歩くのも現実的ではない。
しばらく保留だ。

買い物を終えると少し日が傾いて来たので門前宿に向かう事にした。
今度は大通りの坂を下りて行く。
すると、横道が走ってくる男が声を掛けて来た。

「ヨヌツ、イリエ。良い所に居た」
「済まん。産婆を呼んで来て欲しい」
「産婆ならすぐ其処じゃないか?」
「ダリル婆さんはタリに行った。婆の親戚が亡くなったらしい。婆さんはタリの町の葬儀に行っている。迎えに行かないと明後日まで帰って来ない。そこでお前らに迎えに行って欲しい」
「えっ、もうすぐ日が暮れるぞ」
「お前らなら問題ないだろう。門番には話を通しておく」

かなり無茶な話だ。
この世界は街灯もなく、月明かりだけで夜の街道を歩くのはかなり危険だ。
魔物は来ないとしても獣は徘徊している。
安全とは言い難い。

「銀貨3枚出す」
「請け負ったわ」
「おい、リリー。勝手に受けるな」
「俺達は依頼を受けている最中だ」
「こんな美味しい話を余所にやる手はないわよ。ジュリを門前宿に送るだけなら、私とソリンで十分よ」

中東なかひがし3番区の町長アンドレイがリリーに銀貨3枚を手渡した。
もう断れないとリーダーのヨヌツが溜息を吐いた。

「で、アンドレイさん。奥さんの症状はどうですか?」
「それが急に腹を抱えて痛み出して、産まれるのとはちょっと違うみたいだ」
「産み月は?」
「今月だが・・・・・・・・・・・・婆さんはまだ4、5日の余裕があると言っていた。頼む。急いで呼んで来てくれ」

ヨヌツが「済まない」と頭を下げて、イリエと一緒に走り出した。
ソリンが凄く心配そうな顔をして見送っていた。
すぐにでも追い掛けて行きたいという顔だった。

「リリー。本当に大丈夫なの?」
「私達は冒険者を目指しているのよ。魔物の森は無理でも、夜道くらいは歩ける技量は必要だわ」
「そうだけど」
「ジュリ。門前宿に案内するわ」

案内と行っても門前宿は正門のすぐ近くだ。
イリエとヨヌツが門から出て行くのが見えていた。
門前宿の一泊は銅貨50枚だ。
一食は銅貨10枚するが、朝・夕の食事付きで銅貨60枚になると言う。
酒は別料金だ。

「パンとスープと一品が付いて銅貨60枚よ。しかも体を拭くお湯も付いてくるわ」
「つまり、食事付きの方が得なのね」
「そう言う事」
「泊まりだけね。芋のガレットくらいは食べられたけど、まだ肉とかは食べられないのよ」
「嘘ぉ」
「私が嘘なんて言ってどうするの?」
「判った。私が交渉して上げる」

門前宿に入るとリリーが主人と交渉を始めた。
スープの具と一品を削って、幾ら安くなるのか?
あるいは、泊まりのみと食費別途でパンと具なしスープで幾らか?
リリーは粘り強く交渉した。

「商売でしょう。少しは折れなさいよ」
「そう言っても、具なし・一品なしは客の希望だ。値下げをする理由にならん」
「具なし・一品なしでは、銅貨10枚は取り過ぎでしょう」
「客の希望だ。朝・夕の二食で銅貨10枚は十分に安い」
「1枚でも安くしなさい」
「出来ん。値段を下げるのは承知できない」

同じ会話がループした。
結局、具なしスープと一品を削るのは客の希望であり、店としてはそれ以上の譲歩は出来ないと蹴った。

「一品とエール一杯の交換なら受けてやる」
「5歳の子供に酒を飲ます気なの? 蜂蜜水にしなさい」
「ワインより高く付くではないか」

蜂蜜酒やワインはエールよりかなり高い酒らしい。
甘みは高く付くのであろう。
まだ、リリーは強請る。

「エールの代わりにミルクにしなさい」
「う~ん。そうだな、何泊の予定だ?」
「ジュリ。何日くらいはここにいるかしら」

リリーがこちらを見て瞬きを5回した。
おそらく、5日以上の日程を言えと合図したのだろう。
すぐに出て行く客にサービルをする気はない。
主人はそう言いたいのだろう。

「とりあえず10日です。場合によっては長くなるかもしれません」
「10日で銀貨6枚だ」

私はポケットから銀貨6枚を取り出してカウンターに置いた。
主人はそれを確認してから言った。

「良いだろう。希望通りの料理にミルク一杯も付けてやる」
「流石、ご主人。ありがとうございます」
「リリー。客を連れてくるのは嬉しいが、こう言うのは止めてくれ」
「無茶な事を言っていないハズですが」
「可愛く首を捻っても駄目だ。家は料理が命だ。その料理がいらんと言われては困るのだ」
「そう言わずに」
「まったく」

泊まり客が少ないので門前宿は食堂として頑張っているそうだ。
その料理が要らない言う客を連れて来た。
主人からすれば、最悪の客であった。
ちゃりんと主人がリリーに銅貨10枚を渡していた。
リリーは客引き代もキチンと儲けた。
あぁ、なるほど。
食事付きの客でないと駄賃が貰えないのか。
バタン、後ろで扉が開く音がする。

「あぁ、酷い目にあった」

交渉が巧くまとまった所で酒場に何人か入って来た。
その一人がソリンを見つけて頭を撫でた。

「ソリン。今日も元気か?」
「はい」
「リリ助。今日も悪毒あくどく儲けたみたいだな。今日の犠牲はこのお嬢ちゃんか」
「変な言い掛かりは止めてよ」
「お嬢ちゃん。気を付けなよ。こいつは金が掛からない事でも金を取ろうする守銭奴だからな」

リリーは方々に声を掛けて金を稼いでいる。
効用のない傷塗り薬を自作して作業員に売りつけるとか、採取から手伝いまで手広く仕事を受けていた。
先ほどの町長もリリーを見つけて声を掛けたように、リリー達は冒険ギルドを通さない潜りの何でも屋をやっている。

「だが、今日は早く帰って正解だったな」
「何かありましたか?」
「腹を空かした狼の群れが襲って来た。昼からその対応で仕事にならなかった。だから、リリ助の利かない塗り薬を使う羽目になった訳だ」
「狼が出たのですか?」
「50頭はいたな。かなり大きな群れだ」
「倒したのですか?」
「無茶を言うな。追い払うだけで精一杯だ。明日でも騎士様に山狩りをやって貰う事になる。それが終わるまで作業は中止だ」
「情報をありがとうございました。失礼します」

ソリンが礼を言って走り出し、リリーも頭を下げて出て行った。
どこに走り出したのかはすぐに判った。
だが、ソリンはリリーが止めてくれるだろう。
問題は明日の朝に街道で子供らと婆の死体が見つかりましたと聞く私を想像した。
ソリンやリリーが暗い顔をしている未来が見える。
これは私の想像であって何も起らないかもしれない。
だが、悪い予想は当たるモノだ。

「ご主人。今日の夕食は用意しなくて結構です。帰りも遅くなるかもしれません」
「判った。これを持って行け。部屋のカードだ」
「部屋番と日付が書いてありますね」
「カウンターに出せば、部屋の鍵と交換する」
「判りました」

私はカードを懐に入れると門前宿の扉を開けて出た。
ほら、門でソリンが止められている。
でも、泣く子には勝てない。
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