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15.簡単なお仕事。
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この領地は地平線の森から太陽が上がるが、夕暮れはレバント大山脈に沈んで行く。
日が傾き始めると、あっという間に山に太陽が掛かった。
夕焼けが門に差し込み、世界が真っ赤に染まっていった。
もうすぐ、すべてを覆い込む闇が走る。
月の出はもう少し後のようだ。
夜行性の狼らは暗闇を物ともしない。
狼の群れは建設現場から西へ、つまり、この町、ウエアンの方へ去って行ったと言う。
作業員も一団となり、周囲を警戒して帰ってきた。
イリエらはまだその事を知らない。
まだ若い冒険者見習いとヨボヨボの婆さんなら狼にとってご馳走だろう。
「お願いします」
「駄目だ。危険と判って出せる訳がない」
「ソリン。落ち着きなさい」
「でも、イリエとヨヌツが・・・・・・・・・・・・」
「ええ、そうよ。孤児を助けようという奴はいないわ」
「だから、私達が助けに行かなくちゃ」
「私らが行っても逆に足で纏うになるだけよ。冷静になりなさい」
「でも・・・・・・・・・・・・」
「二人は見捨てられても産婆のダリル婆さんは市民よ。簡単に見捨てないわ」
私が門に到着すると取り乱しながら兵士に頼むソリンと正論を吐くリリーがいた。
日が暮れると門を閉める。
町長から産婆を迎えに行っているので夜中でも通用門を開く事が決まったらしいが、狼の群れが建築現場を襲ったと知らせを聞いたのは先ほど知ったらしい。
「私がこの子らを守るので通してくれませんか?」
私がそう声を掛けると兵士が嫌そうな顔をした。
近寄ってきた兵士に入城時に渡された木札を見せている所だった。
私はこの領地の住民ではない。
流れ者なので城壁から出る事を拒絶できないようだ。
汚れ1つない服を着ているので他領の貴族と思われているようだ。
惜しい。
森に捨てられた元貴族だ。
兵士と士長が小言で話していた。
「他領の貴族令嬢に何かあれば、問題にならないですか?」
「だが、拒絶もできん」
「分隊長殿に相談に行って来い。その間、足止めをしておく」
「判りました」
兵士が詰め所の方に走って行った。
ソリンはまだ食い縋っていた。
「おぃ、何を騒いでいる」
「これは兵長殿」
門番の隊長である士長が敬礼をする。
後ろを振り返ると、昼間の門番が立っていた。
どうやら昼間の門番さんの方が偉いらしい。
その兵長を見つけて、私服の兵がゾロゾロと詰め所からやって来た。
「兵長。遅いですよ」
「待ちくたびれました」
「馬鹿野郎。こっちも色々とややこしい事に巻き込まれたんだ」
「そんな事はどうでもいいです。早く行きましょう」
「ちょっと待て」
どうやら門番さんは私に話しがあるらしいが、その前に狼と産婆の話を士長から聞いていた。
話を聞き終わると、「今日は厄日か」と呟いて門番さんは頭を掻いた。
「野郎共。武器を取って来い。産婆の婆さんを迎えに行く」
「兵長殿。そんな勝手な事をすれば、分隊長に叱られます」
「責任は俺が取ってやる。あの婆さんには俺を取り上げられた口だ。見捨てる訳にいかん。それにこのお嬢ちゃんは待ってくれんぞ」
「しかし・・・・・・・・・・・・」
「お嬢ちゃん。少し力を見せてくれないか」
士長を静止して、門番さんがニヤリと白い歯を零しながら要求した。
私の何を知っているのだろう?
「力とは何でするか?」
「いくら馬鹿な貴族様でも、まったく力のないお嬢ちゃんを連れて出歩かないだろう」
「なるほど。狼を対処する力ですね」
私は門の外側に手を翳すと、『火の精霊よ。汝の力をここに示せ。火の玉』と短文詠唱を読み上げた。
5つの火の弾が飛び出して、ズゴゴゴンと大きな爆発が辺り一面に広がった。
「ははは、こりゃ凄い」
「・・・・・・・・・・・・」、「・・・・・・・・・・・・」、「・・・・・・・・・・・・」、「・・・・・・・・・・・・」
「何ぃ。今の何よ」
「ははは、お嬢ちゃんの魔法だよ。一分隊を動かすより強力だ」
一分隊は30人であり、この門を守っている総数だ。
笑っているのは門番さんのみであり、他の兵は絶句していた。
ソリンも固まった。
リリーは驚きながら声を上げた。
門番さんの部下が武器を持ってきた。
「野郎共。タダ酒は明日だ」
「隊長。酷いですよ」
「産婆の婆さんを助けに行く。明日は一杯と言わずに浴びるほど飲ませてやる」
うおおおぉ、現金なモノだ。
酒の量が増えただけで不満だらけの部下達が「付いて行きます」と手の平を返した。
ソリンとリリーの同行も許された。
「ありがとうございます」
「ちょっと待ちなさい」
「野郎共。急ぐぞ」
「うおぉぉぉぉぉ」
ソリンはそう言うと走り出した。
速い。
リリーも速い。
野郎共も付いて行く。
私だけ出遅れた。
「お嬢ちゃん。悪いな」
私のトテトテとした歩きでは付いて行けない。
そう思われたのか。
門番さんが私を腕に抱きかかえて走り出した。
「ありがとうございます」
「気にするな。伝言が帰ってくれば、同じ命令をされる」
「そう言うモノですか」
「俺ら下っ端は取り敢えず対応しましたという言い訳に使われる」
「大変ですね」
「そうでもない。俺の親は副町長も務めた事もある。そのお陰で前線には出されないで済んでいる。お得だろう」
門番も危険な仕事には変わらない。
しかし、使い捨ての兵に比べると命の危険は少ないそうだ。
城壁を走っている間に日が暮れた。
ソリンとリリーの足も鈍った。
私は門番さんの片腕に抱えられているので楽なモノだ。
あぁ、私は小さく声を上げた。
「どうかしたか?」
「狼が30頭ほど平原から山沿いに走り出しました」
「見えるのか?」
「まだ見えません。『暗視』 あっちです」
私は門番さんに目がよく見える魔法を掛けると狼の方を指差した。
門番さんは少し驚いたが、すぐに適応してくれた。
「昼間と変わらん。気持ち悪いが便利だな」
「灰色の世界は我慢して下さい」
「これに色が付いていれば、もっと戸惑った」
「見えました」
門番さんも見つけた。
城壁を通り過ぎると一度山に入る。
ソリンとリリーは町から漏れる微かな光を頼りに街道を走った。
町から遠ざかるほど暗闇が増して走る速度が落ちていた。
右手には農地が広がり、ポツリポツリと民家の明かりが見えているが、足下を照らす光とはならない。
兵士の一人が松明の火を灯して足下を照らした。
ソリンの歩みは門を飛び出した半分くらいまで落ちていた。
狼と私らの距離が縮んで来た。
狭くなる山道に入った辺りで横から襲うつもりなのだろう。
狭い山道なら逃げ道も塞ぎ易い。
暗闇を得意とする狼らしい戦術だ。
「お嬢ちゃん。全員にコレはできるか?」
「始めからそのつもりです」
「ならば、狼の逃げ道を塞ぐ意味でも山道の手前で待ち構えるか」
「それが良いと思います」
山道に入るとこちらの身動きが取れない。
入る手前で松明の火を消すと、全員に『暗視』を掛けた。
私とソリンとリリーを中心に陣形が組まれた。
門番さんが中央の先頭に陣取る。
予想外の対応に狼も慌てたが、すぐに対応してきた。
山側から下手側に反包囲を敷いて、まず距離がある下手側から姿を現した。
「ソリン、外すなよ」
「リリーこそ外さないでよ」
ソリンの矢とリリーの投擲が二匹の狼に命中した。
お見事。
だがしかし、狼は二匹ではない。
その上、その二匹も致命傷とはいかない。
行き足を止めた程度だ。
時間があれば、リリーが罠を仕掛けていたのだろうが、今回はそんな余裕はない。
兵士達が腰を屈めて槍を狼に向けた。
『掛かれ!』
門番さんの声で槍が一斉に狼を突き出された。
門番さんの一撃は先頭を走る狼の首元を捉えたが、次の狼が先頭を追い越して門番さんを襲った。
抜いた槍を往なして側面を叩いて狼を払い除けた。
門番さんの槍捌きは中々のモノだった。
山側から出てきた狼が配置した二人の兵士の陣形を崩していた。
兵士は門番さんほど槍を巧く使えていない。
二匹、三匹に囲まれると狼狽する。
そこで大きな狼が山側から現れて、兵士を避けてソリンに襲い掛かった。
「いやぁぁぁぁ」
鋭い牙がソリンの喉元を噛み切ろうとする。
「間に合え!」
門番さんも気が付いたのか。
振り返って飛び込んでくるが、大きな狼の方が圧倒的に速い。
間に合わない。
「ソリン!?」
リリーが泣きそうな悲鳴を上げた。
ガキン?
ソリンの喉元を噛み切ったと思った大きな狼が違和感を覚えた。
柔らかい肌に突き刺さる肉感がない。
岩に噛み付いた感覚だろう。
こんな事もあろうかと、クゥちゃんに命じて全員の結界を張らせていた。
魔の森の魔物やワイバーンの爪には無力な結界だったが、クゥちゃんの結界はその辺りの獣の牙で破れるほど安物ではない。
倒れたソリンの首元をガリガリと噛み切ろうとしている脇腹に門番さんの槍が刺さった。
群れのリーダーなのか?
体を巧く回して致命傷を避けた大きな狼が引いた。
「大丈夫か?」
「えっ・・・・・・・・・・・・と、大丈夫みたいです」
「そんな感じなだ」
兵士達も噛み付かれても痛くないので落ち着いてきた。
そうなると反撃が出来るようになって、次々と狼を倒して行く。
形勢が不利だと悟った大きな狼が、『ワオオオゥー』と吠える。
生き残った狼が引き始める。
馬鹿じゃない。
逃がす訳がないでしょう。
『はい、魔弾』
生き残っている12匹の狼の心臓を狙って射貫いた。
簡単なお仕事だ。
でも、分け前を貰えるかな?
◆階級(軍職・役職)
<将官>(男爵以上の貴族)
元帥(総司令)?師団
大将
中将(師団長)師団〔3旗団(384分隊)、12000名〕
少将(旗団長)旗団〔4連隊(128分隊)、4000名〕
准将
<左官>(騎士)
大佐(連隊長)連隊〔4大隊(32分隊)、1000名(指揮官・副官40人と960人)〕
中佐
小左(大隊長)大隊〔2中隊(8分隊)、240名〕
<助官>(戦士)
大尉(中隊長)中隊〔2小隊(4分隊)、120名〕
中尉(小隊長)小隊〔2分隊、60名〕
少尉
准尉
<士官>(兵)
上曹長(分隊長)一分隊〔5班、30名〕
曹長
軍曹
伍長
兵長
<軍兵>(兵)
士長(班長)1班〔6名〕
巡長(1名)
上等兵(1名)
等兵(4名)
兵士見習い長
兵士見習い
日が傾き始めると、あっという間に山に太陽が掛かった。
夕焼けが門に差し込み、世界が真っ赤に染まっていった。
もうすぐ、すべてを覆い込む闇が走る。
月の出はもう少し後のようだ。
夜行性の狼らは暗闇を物ともしない。
狼の群れは建設現場から西へ、つまり、この町、ウエアンの方へ去って行ったと言う。
作業員も一団となり、周囲を警戒して帰ってきた。
イリエらはまだその事を知らない。
まだ若い冒険者見習いとヨボヨボの婆さんなら狼にとってご馳走だろう。
「お願いします」
「駄目だ。危険と判って出せる訳がない」
「ソリン。落ち着きなさい」
「でも、イリエとヨヌツが・・・・・・・・・・・・」
「ええ、そうよ。孤児を助けようという奴はいないわ」
「だから、私達が助けに行かなくちゃ」
「私らが行っても逆に足で纏うになるだけよ。冷静になりなさい」
「でも・・・・・・・・・・・・」
「二人は見捨てられても産婆のダリル婆さんは市民よ。簡単に見捨てないわ」
私が門に到着すると取り乱しながら兵士に頼むソリンと正論を吐くリリーがいた。
日が暮れると門を閉める。
町長から産婆を迎えに行っているので夜中でも通用門を開く事が決まったらしいが、狼の群れが建築現場を襲ったと知らせを聞いたのは先ほど知ったらしい。
「私がこの子らを守るので通してくれませんか?」
私がそう声を掛けると兵士が嫌そうな顔をした。
近寄ってきた兵士に入城時に渡された木札を見せている所だった。
私はこの領地の住民ではない。
流れ者なので城壁から出る事を拒絶できないようだ。
汚れ1つない服を着ているので他領の貴族と思われているようだ。
惜しい。
森に捨てられた元貴族だ。
兵士と士長が小言で話していた。
「他領の貴族令嬢に何かあれば、問題にならないですか?」
「だが、拒絶もできん」
「分隊長殿に相談に行って来い。その間、足止めをしておく」
「判りました」
兵士が詰め所の方に走って行った。
ソリンはまだ食い縋っていた。
「おぃ、何を騒いでいる」
「これは兵長殿」
門番の隊長である士長が敬礼をする。
後ろを振り返ると、昼間の門番が立っていた。
どうやら昼間の門番さんの方が偉いらしい。
その兵長を見つけて、私服の兵がゾロゾロと詰め所からやって来た。
「兵長。遅いですよ」
「待ちくたびれました」
「馬鹿野郎。こっちも色々とややこしい事に巻き込まれたんだ」
「そんな事はどうでもいいです。早く行きましょう」
「ちょっと待て」
どうやら門番さんは私に話しがあるらしいが、その前に狼と産婆の話を士長から聞いていた。
話を聞き終わると、「今日は厄日か」と呟いて門番さんは頭を掻いた。
「野郎共。武器を取って来い。産婆の婆さんを迎えに行く」
「兵長殿。そんな勝手な事をすれば、分隊長に叱られます」
「責任は俺が取ってやる。あの婆さんには俺を取り上げられた口だ。見捨てる訳にいかん。それにこのお嬢ちゃんは待ってくれんぞ」
「しかし・・・・・・・・・・・・」
「お嬢ちゃん。少し力を見せてくれないか」
士長を静止して、門番さんがニヤリと白い歯を零しながら要求した。
私の何を知っているのだろう?
「力とは何でするか?」
「いくら馬鹿な貴族様でも、まったく力のないお嬢ちゃんを連れて出歩かないだろう」
「なるほど。狼を対処する力ですね」
私は門の外側に手を翳すと、『火の精霊よ。汝の力をここに示せ。火の玉』と短文詠唱を読み上げた。
5つの火の弾が飛び出して、ズゴゴゴンと大きな爆発が辺り一面に広がった。
「ははは、こりゃ凄い」
「・・・・・・・・・・・・」、「・・・・・・・・・・・・」、「・・・・・・・・・・・・」、「・・・・・・・・・・・・」
「何ぃ。今の何よ」
「ははは、お嬢ちゃんの魔法だよ。一分隊を動かすより強力だ」
一分隊は30人であり、この門を守っている総数だ。
笑っているのは門番さんのみであり、他の兵は絶句していた。
ソリンも固まった。
リリーは驚きながら声を上げた。
門番さんの部下が武器を持ってきた。
「野郎共。タダ酒は明日だ」
「隊長。酷いですよ」
「産婆の婆さんを助けに行く。明日は一杯と言わずに浴びるほど飲ませてやる」
うおおおぉ、現金なモノだ。
酒の量が増えただけで不満だらけの部下達が「付いて行きます」と手の平を返した。
ソリンとリリーの同行も許された。
「ありがとうございます」
「ちょっと待ちなさい」
「野郎共。急ぐぞ」
「うおぉぉぉぉぉ」
ソリンはそう言うと走り出した。
速い。
リリーも速い。
野郎共も付いて行く。
私だけ出遅れた。
「お嬢ちゃん。悪いな」
私のトテトテとした歩きでは付いて行けない。
そう思われたのか。
門番さんが私を腕に抱きかかえて走り出した。
「ありがとうございます」
「気にするな。伝言が帰ってくれば、同じ命令をされる」
「そう言うモノですか」
「俺ら下っ端は取り敢えず対応しましたという言い訳に使われる」
「大変ですね」
「そうでもない。俺の親は副町長も務めた事もある。そのお陰で前線には出されないで済んでいる。お得だろう」
門番も危険な仕事には変わらない。
しかし、使い捨ての兵に比べると命の危険は少ないそうだ。
城壁を走っている間に日が暮れた。
ソリンとリリーの足も鈍った。
私は門番さんの片腕に抱えられているので楽なモノだ。
あぁ、私は小さく声を上げた。
「どうかしたか?」
「狼が30頭ほど平原から山沿いに走り出しました」
「見えるのか?」
「まだ見えません。『暗視』 あっちです」
私は門番さんに目がよく見える魔法を掛けると狼の方を指差した。
門番さんは少し驚いたが、すぐに適応してくれた。
「昼間と変わらん。気持ち悪いが便利だな」
「灰色の世界は我慢して下さい」
「これに色が付いていれば、もっと戸惑った」
「見えました」
門番さんも見つけた。
城壁を通り過ぎると一度山に入る。
ソリンとリリーは町から漏れる微かな光を頼りに街道を走った。
町から遠ざかるほど暗闇が増して走る速度が落ちていた。
右手には農地が広がり、ポツリポツリと民家の明かりが見えているが、足下を照らす光とはならない。
兵士の一人が松明の火を灯して足下を照らした。
ソリンの歩みは門を飛び出した半分くらいまで落ちていた。
狼と私らの距離が縮んで来た。
狭くなる山道に入った辺りで横から襲うつもりなのだろう。
狭い山道なら逃げ道も塞ぎ易い。
暗闇を得意とする狼らしい戦術だ。
「お嬢ちゃん。全員にコレはできるか?」
「始めからそのつもりです」
「ならば、狼の逃げ道を塞ぐ意味でも山道の手前で待ち構えるか」
「それが良いと思います」
山道に入るとこちらの身動きが取れない。
入る手前で松明の火を消すと、全員に『暗視』を掛けた。
私とソリンとリリーを中心に陣形が組まれた。
門番さんが中央の先頭に陣取る。
予想外の対応に狼も慌てたが、すぐに対応してきた。
山側から下手側に反包囲を敷いて、まず距離がある下手側から姿を現した。
「ソリン、外すなよ」
「リリーこそ外さないでよ」
ソリンの矢とリリーの投擲が二匹の狼に命中した。
お見事。
だがしかし、狼は二匹ではない。
その上、その二匹も致命傷とはいかない。
行き足を止めた程度だ。
時間があれば、リリーが罠を仕掛けていたのだろうが、今回はそんな余裕はない。
兵士達が腰を屈めて槍を狼に向けた。
『掛かれ!』
門番さんの声で槍が一斉に狼を突き出された。
門番さんの一撃は先頭を走る狼の首元を捉えたが、次の狼が先頭を追い越して門番さんを襲った。
抜いた槍を往なして側面を叩いて狼を払い除けた。
門番さんの槍捌きは中々のモノだった。
山側から出てきた狼が配置した二人の兵士の陣形を崩していた。
兵士は門番さんほど槍を巧く使えていない。
二匹、三匹に囲まれると狼狽する。
そこで大きな狼が山側から現れて、兵士を避けてソリンに襲い掛かった。
「いやぁぁぁぁ」
鋭い牙がソリンの喉元を噛み切ろうとする。
「間に合え!」
門番さんも気が付いたのか。
振り返って飛び込んでくるが、大きな狼の方が圧倒的に速い。
間に合わない。
「ソリン!?」
リリーが泣きそうな悲鳴を上げた。
ガキン?
ソリンの喉元を噛み切ったと思った大きな狼が違和感を覚えた。
柔らかい肌に突き刺さる肉感がない。
岩に噛み付いた感覚だろう。
こんな事もあろうかと、クゥちゃんに命じて全員の結界を張らせていた。
魔の森の魔物やワイバーンの爪には無力な結界だったが、クゥちゃんの結界はその辺りの獣の牙で破れるほど安物ではない。
倒れたソリンの首元をガリガリと噛み切ろうとしている脇腹に門番さんの槍が刺さった。
群れのリーダーなのか?
体を巧く回して致命傷を避けた大きな狼が引いた。
「大丈夫か?」
「えっ・・・・・・・・・・・・と、大丈夫みたいです」
「そんな感じなだ」
兵士達も噛み付かれても痛くないので落ち着いてきた。
そうなると反撃が出来るようになって、次々と狼を倒して行く。
形勢が不利だと悟った大きな狼が、『ワオオオゥー』と吠える。
生き残った狼が引き始める。
馬鹿じゃない。
逃がす訳がないでしょう。
『はい、魔弾』
生き残っている12匹の狼の心臓を狙って射貫いた。
簡単なお仕事だ。
でも、分け前を貰えるかな?
◆階級(軍職・役職)
<将官>(男爵以上の貴族)
元帥(総司令)?師団
大将
中将(師団長)師団〔3旗団(384分隊)、12000名〕
少将(旗団長)旗団〔4連隊(128分隊)、4000名〕
准将
<左官>(騎士)
大佐(連隊長)連隊〔4大隊(32分隊)、1000名(指揮官・副官40人と960人)〕
中佐
小左(大隊長)大隊〔2中隊(8分隊)、240名〕
<助官>(戦士)
大尉(中隊長)中隊〔2小隊(4分隊)、120名〕
中尉(小隊長)小隊〔2分隊、60名〕
少尉
准尉
<士官>(兵)
上曹長(分隊長)一分隊〔5班、30名〕
曹長
軍曹
伍長
兵長
<軍兵>(兵)
士長(班長)1班〔6名〕
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等兵(4名)
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