かみたま降臨 -神様の卵が降臨、生後30分で侯爵家を追放で生命の危機とか、酷いじゃないですか?-

牛一/冬星明

文字の大きさ
17 / 34

16.小さな魔法使い。

しおりを挟む
(冒険者ソリン視点)
怖かった。
戦いが終わって腰が抜けた私はずっとその場に座り続けた。
運ばれている狼の死体を見て助かったと実感した。
城門で言われたリリーの言葉が胸に刺さる。

「ソリンが飛び出してどうするつもり。イリエが襲われるより、弱そうなソリンが襲われる方が先よ」
「だって・・・・・・・・・・・・」
「自分を犠牲にしてイリエらを守るつもりじゃないでしょうね」
「違う」

私は否定した。
自分を犠牲にする気はなかった。
でも、リリーが指摘した通りになった。
群れで襲ってくる狼の前に、私の弓は無力だった。
一本の矢を射た所で取り囲まれた。
私を護ってくれている6人の兵士の援護も出来ない。
大きな狼が回り込んで一番弱そう私を襲ってきた。
抗う事などできなかった。
大きな牙が近づいてきた恐怖で腰が抜けた。
私は死んだと思った。
でも、飛んだ血吹雪は狼の腹を突いた槍のモノだった。

「大丈夫か?」
「・・・・・・・・・・・・」
「無事そうだな」
「・・・・・・・・・・・・」

返事をしようとしたが声が出ない。
どうして生きているの?
確かに私は大きな狼の牙で喉元を噛み切られた。
でも、生きていた。
兵士も腕や足を噛み付かれ、わあぁぁぁと叫んで悲鳴を上げていた。
目を背けたくなる光景だ。
でも、まったく痛くないのに気付いた兵士が槍を手放し、腰の少し短かい剣であるグラディウスで狼の腹を刺した。
そのままで他の狼にも飛び掛かった。
兵士に狼の爪や牙がまったく届いていないのだ。
形勢が逆転した。

私は夢を見ている気分だった。
うおぉぉぉぉと大きな狼が吠えて走り出すと、その途中で狼達がバタリと倒れた。
何が起ったのかも判らず、ずっと呆けていた。
殺された狼の死体が街道の脇に積み上げられて行った。

「わぁ、何だ。これ?」

山の方から光が近づいて来て、イリエの声が聞こえた。
松明の火が明る過ぎて顔が全然見えない。

「イリエ。遅かったじゃない。もっと早く戻ってくると思ったわ」
「リリー、これは何だ?」
「狼よ。見れば、判るじゃない。ちょっと松明をこっちに向けないでよ。眩しいじゃない」
「何を言っているんだ?」
「とにかく、こっちに向けないでよ」
「判った。それでどうして? こんなに狼がいるんだ。それにソリンがいるのは何故だ?」

私は立ち上がろうとするが、まだ腰に力が入らない。
イリエとリリーの声が聞こえるのに・・・・・・・・・・・・顔が眩しくて見えない。
誰かが近づいて来た。
イリエだ。
私はイリエの足に抱き付いた。

「よかった。無事でよかった」
「無事と言われてもな。むしろ、ソリンの方が危なかったじゃないか」
「そうだけど。心配だった」
「お前も無茶するな」
「御免なさい」
「だが、助かった。ジュリを動かしたのはお前だってリリーが言っていたぞ」

私は何もやっていない。
イリエが心配で私は駄々を捏ねただけだ。
ジュリがいたから皆が無事だった。

「あぁ、ジュリは?」
「俺に聞くのか?」
「ジュリなら向こうで幸せそうに寝ているわよ」
「こんな場所でか?」
「今朝、魔の森で野宿していたジュリを見て笑ったけど、ジュリにとって魔の森でも危険じゃないのよ」
「嫌々、それはないだろう」

リリーは首を横に降った。
ちょっと寂しそうな笑顔を浮かべ、空元気で力こぶを作った。

「私、狼を討伐したのよ。凄いでしょう」
「マジか?」
「口を開けて襲い掛かってきた狼の口に目掛けてナイフを突き刺してやったわ」
「おぃ、冗談は寄せ。無事で済まないだろう」
「殺されるくらいなら、片腕くらいくれてやると思ったのよ。でも、この腕を見て、この通りよ」
「うん、大丈夫そうだな。怪我はしてない」
「怪我どころか、服にも傷も付いていないわ。貴族は凄いって言われるけど、いつも後ろで威張っているだけの禄で無しと思っていたわ。でも違った。ジュリがいなかったら死んでいた。貴族がいるかいないかで戦いが変わるのよ。私達では敵わないわ」
「ジュリがいたからか」

勝ち気なリリーが自分から負けを認めた。
イリエがゴクリと唾を飲み込み、積み上げられる狼の死体を見た。
私は後ろに振り返った。
涎を垂らし、すやすやとだらしない顔で寝ていたジュリがいた。
全然、凄そうに見えないよ。

城門へ向かって歩き出す頃になると、再び辺りが暗くなって来た。
ジュリの魔法が切れたようだ。
月が顔を出したので暗闇と言うほどではなく、私達は松明は消した儘で歩いた。
寝ているジュリはヨヌツに、腰が抜けて歩けない私はイリエに背負われている。
兵士は持てるだけの狼の死体を運んでいる。
夜道を歩くのはゆっくりだ。
リリーが門番のダライアスさんに話し掛けていた。

「ダライアスさんはジュリの事を知っていたのですか?」
「門を出る前に火の魔法を見せて貰った」
「それは私も見ていました」
「俺が門番になったのは13年前だ。この町と言うより砦として使われていた。聖碑の結界など無視して、魔物が城門まで押し寄せて来て、何度も死ぬかと思った」
「城門までですか?」
「今では信じられないだろう」
「信じられません」
「アーイシャ様が養女となってからは討伐隊を編成して魔物を狩るようになった。総大将のアーイシャ様は6歳だ」
「6歳って?」
「この子と大して変わらん。だが、アーイシャ様の浄化の魔法があれば、普通の兵でも魔物と互角に戦える。凄い魔法使いは年齢ではないと知らされた」
「ジュリは?」
「貴族が魔の森に同行させた少女だ。何か隠し持っていると思っていたさ。あの強力な防御の付加には驚いたが、これなら俺達でも魔物と互角に戦えるな」
「貴族って、やはり凄いのですね」
「上位の貴族しか、大神の加護は貰えないと言われる。彼女はその一人だな」
「どうして貴族だけ・・・・・・・・・・・・」

リリーが悔しそうに唇を噛みしめる。
だが、門番のダライアスさんはリリーの背中を叩いた。
ははは、豪快に笑う。

「アーイシャ様もそうだが、こんな辺境に来る大貴族様は訳ありが多い。強い力を持ったからと言っても幸せと言う訳ではないようだぞ」
「でも、悔しい」
「なるほど。リリーちゃんは暗殺者に襲われるような生活がしたい訳か」
「暗殺?」
「食事に毒が盛られた事もあったそうだ。そういう生活に憧れるのか」
「憧れないわよ」
「アーイシャ様は中央で殺されかけた。そして、スルパ辺境伯の側に居ては危険とされて、シッパル男爵の養女に出された。本人から聞いたから嘘じゃないぞ。おそらく、この小さなお嬢ちゃんもその口かもしれん」
「ジュリが?」
「もちろん、違うかもしれん」
「どっちなのよ」
「俺は知らん。自分で聞け」

リリーがちょっと元気になった。
このヨヌツの背中でだらしない顔のジュリが大貴族のお嬢様には見えない。
今日一日しか見ていないが、やる事は滅茶苦茶だ。
私も、イリエも、そして、ヨヌツとリリーも生きている。
ジュリのお陰だ。
小さな魔法使いに感謝の言葉を贈った。

「ありがとう」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

処理中です...