19 / 34
18.小さな薬師様。
しおりを挟む
ガヤガヤと辺りが騒がしくなり、微睡みが薄くなっていたのか意識が浮上して目が覚めた。
窓の外から人の声が聞こえる。
私は起き上がって窓の方に足を向けた。
大勢の人が大通りに集めっていた。
朝かと思っていたが、西向きの窓に日が差しているので昼過ぎだ。
「来たぞ」
大衆が一斉に道を開けて坂の上に視線を移した。
二頭の馬を先頭に四列横隊の30人が続き、それが四隊も通り過ぎた。
その後ろに騎士団が続く。
「聖女様、万歳」
「聖女様、万歳」
「聖女様、万歳」
「聖女様、どうぞご無事で」
「アーイシャ様。素敵です」
「結婚して」
・
・
・
昨日の少女が白い馬に乗って鎧姿で現れた。
彼女の名はアーイシャ・シッパルと言う。
この領地の領主の養女でお姫様だ。
但し、私の鑑定ではアーイシャの下にサーラ・タージョと表示される。
アーイシャは周りの民衆に手を振って答えていた。
聖女様は皆さんの人気があるようだ。
総勢150人の一団が門の外に出ると、皆が帰って大通りに人が消えた。
私はベッドに寝転がってクゥちゃんに話し掛けた。
「クゥちゃん。今の解析を見せて」
「くぅ」
私が造ったクゥちゃんは大聖獣だ。
世界を支える大精霊や四大聖獣と同格だ。
神々が世界を支える為に大精霊を創造し、世界の支柱として四大聖獣を産み出す。
管理者の代理人として天使を造り、世話役にエルフなどを造る。
そして、農作業や果実の管理に人間を造る。
造られたモノは創造者に似る。
創造者である神々も色々だ。
戦好きの神も入れば、恋愛馬鹿や悪戯を生き甲斐にする神もいる。
必ず仲が良い訳でもなく、仲違いから喧嘩になる。
マジで殺し合いだ。
神様は簡単に死なないけどね。
周りに仕えている者は軽く数万単位で命を失う。
一番酷かったのはクピド神から喧嘩の代理人にされた事だ。
世界大戦だ。
「この世界の五柱、クピドが命ずる。ゴルゴ帝国を滅ぼせ」
「ちょっとクピド。本気で言っているの?」
「信託の巫女。神に対して無礼であろう」
「主神に言い付けるわよ。理由を言いなさい」
「エロスの野郎が俺の悪戯に怒って槍を投げて来た。俺の頬が斬られた。報復するのは当然だろう」
「そんな事は天界でやって」
「アイツが大事にしているゴルゴ帝国を滅ぼす事に意味がある」
「主神は知っているのでしょうね?」
「この世界は俺らが造った世界だ。主神は関係ない。この世界に寄生しているお前にとやかく言われる筋もない」
「私は受けないからね」
「ならば、他の者を信託の巫女にして命じるだけだ」
「もう、判ったよ。でも、戦争はしても滅ぼさないからね」
「奴が大事にしている第3王女を人質にしろ。それで許してやる」
「まったく」
世界を分ける二大帝国の戦いが信託で始まり、敵に私がいると知っているエロス神が天使を援軍に送ると、クピド神も天使を送った。
天空で天使達が争うと、戦い好きのデーヴァ神族がそれぞれの陣営に加わって戦った。
もう滅茶苦茶だ。
天空の争いで地上の天候は荒れて戦争維持など出来ない。
シヴァ神が放ったインドラの矢が地上に着弾すると、私の体も目出度く余波で消滅した。
眷属神の一部が殺された事で主神が介入し、兄弟の大神が仲裁に入って戦争は終結した。
仲裁という名のお仕置きだ。
その世界の人類は9割を失うという被害を出した。
帝国は崩壊し、死んだ私は神託の巫女という役職から解放された。
下手に偉くなるモノじゃない。
私は再び転生した。
そのとき、主神に叱られ、迷惑を掛けられたクピド神からお詫びに神力を貰ってクゥちゃんを創造した。
大精霊や四大聖獣と同格と言っても僅かな神力で創造したクゥちゃんにはまったく攻撃力がない極振りだ。
従えている精霊や獣魔もいない。
総合力は中級精霊並だ。
だから、最強の結界でも上位種の魔物には簡単に破られてしまう。
「くぅ」
俺の所為じゃないと文句を言った。
別に責めた訳じゃない。
私がちゃんと造れなかったからだね。
「くぅ」
もっと強化しろ。
さらにクゥちゃんが苦情を言うが、その希望は簡単じゃない。
そもそも神力が余っていません。
霊体でありながら意思を持ち、記憶を保存し、無限に魔力が湧いてくる。
そんな怪物を簡単に造れる訳がない。
もう、その話は終わりだ。
この世界での仕事をしろと命ずる。
「クゥちゃん。レベル精霊はいないのね」
「くぅ」
この世界では感じないらしい。
レベル精霊はステータス画面に数字を刻む精霊であり、鑑定と解析の能力を持つ。
経験値が貯まった事をレベル神に知らせ、種族のレベルアップを助ける。
そのレベル精霊がいない。
つまり、レベル神によるレベルアップはない事になる。
「くぅ、くぅ。くぅ」
訓練をすれば成長するし、魔物などを倒せば魂が膨れる。
レベル精霊が居なくともレベルは上がると言う。
その通りだ。
人も死ねば、肉体と魂を結ぶ絆が崩壊し、そのエネルギーは周りの物質に吸収される。
魔物も同じだ。
生物より魔物の崩壊エネルギーが大きい。
魔物を倒すとステータスが伸びる。
これは神力でも同じであり、神々が入浴した残り香の付くお湯をレベル神に渡し、その一滴をレベルアップした冒険者に与えると、ステータスが異常に伸びる。
捨てるお湯を使った再利用術だ。
廃品で信者獲得できるので神様もウハウハだ。
私は魔物を倒してもステータスは伸びない。
伸びる余地がない。
すでに自分の神力で限界まで上がっている。
「くぅ、くぅ。くぅ」
そんな事はないと、クゥちゃんが二つのステータス画面を呼び出した。
産まれて間もない私の数値と今の私だ。
すべての能力値が倍近く伸びていた。
3ヶ月で倍なら悪くない数字だ。
成長すれば、その分だけステータスは伸びてくれる。
「くぅ」
クゥちゃんの意地悪。
その横にリリーのステータス画面が出ると落ち込んだ。
体力と魔力量を除くと、私のステータスはリリーの半分くらいだった。
神力ドーピングしてもリリーの半分か。
落ち込むな。
実際は足の裏で魔弾を撃つように魔力を爆発させる事で瞬発力を作り、神力を這わせた剣は聖剣並の威力を持つ。
攻撃力は比較にならないが、土台となる基礎力はリリー以下なのだ。
「くぅ、くぅ。くぅ」
そんな事よりこっちが重大だと言う。
アーイシャを始め、騎士達のステータス画面をずらりと並べた。
皆、化け物だ。
この世界の加護を得る儀式は残り湯を与えるような紛い物ではなく、わずかだが神力を与える儀式らしい。
あの強力な魔物と戦えるステータスになっている。
加護がない貴族はあの魔物と戦えない。
私は戦えないと思われた。
アラルンガル侯爵の恥とされて捨てられた訳だよ。
せめて家臣に預けて欲しかった。
分析を終えた私は部屋を出た。
食事を取って少しでも成長させよう。
今日は露天で芋ガレットでも買って食べようと階段を降りた。
玄関のカウンターに店主がいる。
「おはよう。小さな薬師様」
薬師?
店主は私の事を薬師と呼んだ。
「その薬師って、何ですか?」
「町長のアンドレイが朝にコレを持って来た」
店主から小さな袋を手渡された。
中に銀貨5枚が入っていた。
「ポーションの代金はまだ払えないが、手間賃として受け取って欲しいそうだ」
「勝手にやっただけで手間賃なんて要りません」
「嫁と子供が助かったのだ。気持ちと思って受け取ってやってくれ」
「別に構いませんが・・・・・・・・・・・・」
「食事ならすぐに暖めさせる」
店長が大声で台所の奥さんに声を掛けた。
そして、私は酒場のカウンターに座らされた。
後ろでは昼間から大勢の客がエールを飲んでいた。
『赤子の無事に乾杯だ』
『乾杯』
『乾杯。赤子に幸あらん事を』
エールの杯を叩き合って『乾杯』と叫ぶ。
だが、何か奇妙だ。
あぁ、誰も酒に口を付けていない。
乾杯と叫ぶだけだ。
「五月蠅いが許してやっておくれよ。この町は誰もが仲間みたいに思っている」
「別に気になりません」
「そうかい?」
「何か奇妙な気がしただけです」
「ははは、そうだろうね」
意味深に笑いながら奥さんが温め直したスープを置いて来てくれた。
友達のような目で酔っ払いを見ている。
小さな町ならそんなモノだろう。
町が大きくなるほど他人に無関心になってゆく。
私はこういう町が嫌いではない。
「乾杯って言うなら、お代わりしておくれよ。朝からエール一杯で居坐れたら商売が上がったりだわ」
あっ、なるほど。
これが奇妙な原因だ。
乾杯と言っているが、誰も器を口に付けていない。
エールを飲んでいないのだ。
「金がないんだ。仕方ないだろう」
「なら、他でやっておくれ」
「そういうな。狼のお陰で仕事もない。手当もない。金もない」
「まったく」
奥さんは怒っているように言っているが、本気で怒っている訳ではないようだ。
虚しい酒盛りだ。
それはさておき、置かれたスープから湯気が湧いていた。
匙で啜って口に入れると美味しさに感動する。
この味は私には出せない。
その横に小さなガレットが出された。
「お嬢ちゃんが救ってくれた彼女は私の同期さね。ありがとうよ。ガレットなら食べられると餓鬼らから聞いた」
「ありがとうございます。イリエらが来たのですか?」
「昼前に来た。何でも道具屋の爺が呼んでいるらしい。まだ疲れているなら明日にでもすればいい」
「そうします」
小さなガレットは砂糖を使っているようで甘かった。
奥さんはウインクをして人差し指を口の前に立てた。
黙っておけ。
そういう事らしい。
甘いガレットを流し込む為にホットミルクに手を掛けた。
ごくりと飲んで目を見開いた。
美味しい。
ミルクって、こんなに美味しかった?
本当に美味しいのだ。
私はコレをずっと求めていた。
体がそう感じた。
ミルクだ。
やはり赤子の体にはミルクが一番だ。
この世界にこんな美味しいモノがあったとは知らなかった。
初体験だ。
ミルクを一気飲みしてゲップが出る。
「奥さん。このミルクはいつも用意できますか?」
「毎朝届くから用意できるよ」
「必ず付けて下さい」
「あいよ。承知した」
気分が良くなった私は貰った小袋をカウンターに置いた。
銀貨5枚が入っている。
「貰い物ですが、これでエールを奢ってやって下さい」
「いいのか?」
「ガレットのお礼と言っても受け取ってくれないでしょう」
「あいよ。気の利くお嬢ちゃんだね」
微笑みながら奥さんが大声で叫んだ。
『この小さな薬師様が子供の無事を祝って奢ってくれるってさ。しっかり感謝しな』
降って湧いてきたタダ酒に酔っ払いらが歓喜した。
器を上げて感謝の言葉を上げた。
「小さな薬師様、ありがとう」
「小さな薬師様に感謝を」
「小さな薬師様に感謝を」
酔っ払いは大喜びだ。
酒場も儲かって奥さんも喜ぶ。
私の心証を良くなる。
三者三得だ。
私は二階に戻ってもう一度寝る事にした。
赤子の仕事は寝る事だ。
しばらくゆっくりしよう思った。
部屋に入っても『薬師様に感謝を』の声が床の下からいつでも聞こえる。
こそばゆい感じで中々寝付けなかった。
窓の外から人の声が聞こえる。
私は起き上がって窓の方に足を向けた。
大勢の人が大通りに集めっていた。
朝かと思っていたが、西向きの窓に日が差しているので昼過ぎだ。
「来たぞ」
大衆が一斉に道を開けて坂の上に視線を移した。
二頭の馬を先頭に四列横隊の30人が続き、それが四隊も通り過ぎた。
その後ろに騎士団が続く。
「聖女様、万歳」
「聖女様、万歳」
「聖女様、万歳」
「聖女様、どうぞご無事で」
「アーイシャ様。素敵です」
「結婚して」
・
・
・
昨日の少女が白い馬に乗って鎧姿で現れた。
彼女の名はアーイシャ・シッパルと言う。
この領地の領主の養女でお姫様だ。
但し、私の鑑定ではアーイシャの下にサーラ・タージョと表示される。
アーイシャは周りの民衆に手を振って答えていた。
聖女様は皆さんの人気があるようだ。
総勢150人の一団が門の外に出ると、皆が帰って大通りに人が消えた。
私はベッドに寝転がってクゥちゃんに話し掛けた。
「クゥちゃん。今の解析を見せて」
「くぅ」
私が造ったクゥちゃんは大聖獣だ。
世界を支える大精霊や四大聖獣と同格だ。
神々が世界を支える為に大精霊を創造し、世界の支柱として四大聖獣を産み出す。
管理者の代理人として天使を造り、世話役にエルフなどを造る。
そして、農作業や果実の管理に人間を造る。
造られたモノは創造者に似る。
創造者である神々も色々だ。
戦好きの神も入れば、恋愛馬鹿や悪戯を生き甲斐にする神もいる。
必ず仲が良い訳でもなく、仲違いから喧嘩になる。
マジで殺し合いだ。
神様は簡単に死なないけどね。
周りに仕えている者は軽く数万単位で命を失う。
一番酷かったのはクピド神から喧嘩の代理人にされた事だ。
世界大戦だ。
「この世界の五柱、クピドが命ずる。ゴルゴ帝国を滅ぼせ」
「ちょっとクピド。本気で言っているの?」
「信託の巫女。神に対して無礼であろう」
「主神に言い付けるわよ。理由を言いなさい」
「エロスの野郎が俺の悪戯に怒って槍を投げて来た。俺の頬が斬られた。報復するのは当然だろう」
「そんな事は天界でやって」
「アイツが大事にしているゴルゴ帝国を滅ぼす事に意味がある」
「主神は知っているのでしょうね?」
「この世界は俺らが造った世界だ。主神は関係ない。この世界に寄生しているお前にとやかく言われる筋もない」
「私は受けないからね」
「ならば、他の者を信託の巫女にして命じるだけだ」
「もう、判ったよ。でも、戦争はしても滅ぼさないからね」
「奴が大事にしている第3王女を人質にしろ。それで許してやる」
「まったく」
世界を分ける二大帝国の戦いが信託で始まり、敵に私がいると知っているエロス神が天使を援軍に送ると、クピド神も天使を送った。
天空で天使達が争うと、戦い好きのデーヴァ神族がそれぞれの陣営に加わって戦った。
もう滅茶苦茶だ。
天空の争いで地上の天候は荒れて戦争維持など出来ない。
シヴァ神が放ったインドラの矢が地上に着弾すると、私の体も目出度く余波で消滅した。
眷属神の一部が殺された事で主神が介入し、兄弟の大神が仲裁に入って戦争は終結した。
仲裁という名のお仕置きだ。
その世界の人類は9割を失うという被害を出した。
帝国は崩壊し、死んだ私は神託の巫女という役職から解放された。
下手に偉くなるモノじゃない。
私は再び転生した。
そのとき、主神に叱られ、迷惑を掛けられたクピド神からお詫びに神力を貰ってクゥちゃんを創造した。
大精霊や四大聖獣と同格と言っても僅かな神力で創造したクゥちゃんにはまったく攻撃力がない極振りだ。
従えている精霊や獣魔もいない。
総合力は中級精霊並だ。
だから、最強の結界でも上位種の魔物には簡単に破られてしまう。
「くぅ」
俺の所為じゃないと文句を言った。
別に責めた訳じゃない。
私がちゃんと造れなかったからだね。
「くぅ」
もっと強化しろ。
さらにクゥちゃんが苦情を言うが、その希望は簡単じゃない。
そもそも神力が余っていません。
霊体でありながら意思を持ち、記憶を保存し、無限に魔力が湧いてくる。
そんな怪物を簡単に造れる訳がない。
もう、その話は終わりだ。
この世界での仕事をしろと命ずる。
「クゥちゃん。レベル精霊はいないのね」
「くぅ」
この世界では感じないらしい。
レベル精霊はステータス画面に数字を刻む精霊であり、鑑定と解析の能力を持つ。
経験値が貯まった事をレベル神に知らせ、種族のレベルアップを助ける。
そのレベル精霊がいない。
つまり、レベル神によるレベルアップはない事になる。
「くぅ、くぅ。くぅ」
訓練をすれば成長するし、魔物などを倒せば魂が膨れる。
レベル精霊が居なくともレベルは上がると言う。
その通りだ。
人も死ねば、肉体と魂を結ぶ絆が崩壊し、そのエネルギーは周りの物質に吸収される。
魔物も同じだ。
生物より魔物の崩壊エネルギーが大きい。
魔物を倒すとステータスが伸びる。
これは神力でも同じであり、神々が入浴した残り香の付くお湯をレベル神に渡し、その一滴をレベルアップした冒険者に与えると、ステータスが異常に伸びる。
捨てるお湯を使った再利用術だ。
廃品で信者獲得できるので神様もウハウハだ。
私は魔物を倒してもステータスは伸びない。
伸びる余地がない。
すでに自分の神力で限界まで上がっている。
「くぅ、くぅ。くぅ」
そんな事はないと、クゥちゃんが二つのステータス画面を呼び出した。
産まれて間もない私の数値と今の私だ。
すべての能力値が倍近く伸びていた。
3ヶ月で倍なら悪くない数字だ。
成長すれば、その分だけステータスは伸びてくれる。
「くぅ」
クゥちゃんの意地悪。
その横にリリーのステータス画面が出ると落ち込んだ。
体力と魔力量を除くと、私のステータスはリリーの半分くらいだった。
神力ドーピングしてもリリーの半分か。
落ち込むな。
実際は足の裏で魔弾を撃つように魔力を爆発させる事で瞬発力を作り、神力を這わせた剣は聖剣並の威力を持つ。
攻撃力は比較にならないが、土台となる基礎力はリリー以下なのだ。
「くぅ、くぅ。くぅ」
そんな事よりこっちが重大だと言う。
アーイシャを始め、騎士達のステータス画面をずらりと並べた。
皆、化け物だ。
この世界の加護を得る儀式は残り湯を与えるような紛い物ではなく、わずかだが神力を与える儀式らしい。
あの強力な魔物と戦えるステータスになっている。
加護がない貴族はあの魔物と戦えない。
私は戦えないと思われた。
アラルンガル侯爵の恥とされて捨てられた訳だよ。
せめて家臣に預けて欲しかった。
分析を終えた私は部屋を出た。
食事を取って少しでも成長させよう。
今日は露天で芋ガレットでも買って食べようと階段を降りた。
玄関のカウンターに店主がいる。
「おはよう。小さな薬師様」
薬師?
店主は私の事を薬師と呼んだ。
「その薬師って、何ですか?」
「町長のアンドレイが朝にコレを持って来た」
店主から小さな袋を手渡された。
中に銀貨5枚が入っていた。
「ポーションの代金はまだ払えないが、手間賃として受け取って欲しいそうだ」
「勝手にやっただけで手間賃なんて要りません」
「嫁と子供が助かったのだ。気持ちと思って受け取ってやってくれ」
「別に構いませんが・・・・・・・・・・・・」
「食事ならすぐに暖めさせる」
店長が大声で台所の奥さんに声を掛けた。
そして、私は酒場のカウンターに座らされた。
後ろでは昼間から大勢の客がエールを飲んでいた。
『赤子の無事に乾杯だ』
『乾杯』
『乾杯。赤子に幸あらん事を』
エールの杯を叩き合って『乾杯』と叫ぶ。
だが、何か奇妙だ。
あぁ、誰も酒に口を付けていない。
乾杯と叫ぶだけだ。
「五月蠅いが許してやっておくれよ。この町は誰もが仲間みたいに思っている」
「別に気になりません」
「そうかい?」
「何か奇妙な気がしただけです」
「ははは、そうだろうね」
意味深に笑いながら奥さんが温め直したスープを置いて来てくれた。
友達のような目で酔っ払いを見ている。
小さな町ならそんなモノだろう。
町が大きくなるほど他人に無関心になってゆく。
私はこういう町が嫌いではない。
「乾杯って言うなら、お代わりしておくれよ。朝からエール一杯で居坐れたら商売が上がったりだわ」
あっ、なるほど。
これが奇妙な原因だ。
乾杯と言っているが、誰も器を口に付けていない。
エールを飲んでいないのだ。
「金がないんだ。仕方ないだろう」
「なら、他でやっておくれ」
「そういうな。狼のお陰で仕事もない。手当もない。金もない」
「まったく」
奥さんは怒っているように言っているが、本気で怒っている訳ではないようだ。
虚しい酒盛りだ。
それはさておき、置かれたスープから湯気が湧いていた。
匙で啜って口に入れると美味しさに感動する。
この味は私には出せない。
その横に小さなガレットが出された。
「お嬢ちゃんが救ってくれた彼女は私の同期さね。ありがとうよ。ガレットなら食べられると餓鬼らから聞いた」
「ありがとうございます。イリエらが来たのですか?」
「昼前に来た。何でも道具屋の爺が呼んでいるらしい。まだ疲れているなら明日にでもすればいい」
「そうします」
小さなガレットは砂糖を使っているようで甘かった。
奥さんはウインクをして人差し指を口の前に立てた。
黙っておけ。
そういう事らしい。
甘いガレットを流し込む為にホットミルクに手を掛けた。
ごくりと飲んで目を見開いた。
美味しい。
ミルクって、こんなに美味しかった?
本当に美味しいのだ。
私はコレをずっと求めていた。
体がそう感じた。
ミルクだ。
やはり赤子の体にはミルクが一番だ。
この世界にこんな美味しいモノがあったとは知らなかった。
初体験だ。
ミルクを一気飲みしてゲップが出る。
「奥さん。このミルクはいつも用意できますか?」
「毎朝届くから用意できるよ」
「必ず付けて下さい」
「あいよ。承知した」
気分が良くなった私は貰った小袋をカウンターに置いた。
銀貨5枚が入っている。
「貰い物ですが、これでエールを奢ってやって下さい」
「いいのか?」
「ガレットのお礼と言っても受け取ってくれないでしょう」
「あいよ。気の利くお嬢ちゃんだね」
微笑みながら奥さんが大声で叫んだ。
『この小さな薬師様が子供の無事を祝って奢ってくれるってさ。しっかり感謝しな』
降って湧いてきたタダ酒に酔っ払いらが歓喜した。
器を上げて感謝の言葉を上げた。
「小さな薬師様、ありがとう」
「小さな薬師様に感謝を」
「小さな薬師様に感謝を」
酔っ払いは大喜びだ。
酒場も儲かって奥さんも喜ぶ。
私の心証を良くなる。
三者三得だ。
私は二階に戻ってもう一度寝る事にした。
赤子の仕事は寝る事だ。
しばらくゆっくりしよう思った。
部屋に入っても『薬師様に感謝を』の声が床の下からいつでも聞こえる。
こそばゆい感じで中々寝付けなかった。
10
あなたにおすすめの小説
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした
藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると
土地を蝕む邪気となって現れる。
それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。
派手な奇跡は起こらない。
けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。
――その役目を、誰一人として理解しないまま。
奇跡が少なくなった。
役に立たない聖女はいらない。
そう言われ、私は静かに国を追放された。
もう、祈る理由はない。
邪気を生み出す原因に目を向けず、
後始末だけを押し付ける国を守る理由も。
聖女がいなくなった国で、
少しずつ異変が起こり始める。
けれど彼らは、最後まで気づかなかった。
私がなぜ祈らなくなったのかを。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜
みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。
…しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた!
「元気に育ってねぇクロウ」
(…クロウ…ってまさか!?)
そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム
「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ
そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが
「クロウ•チューリア」だ
ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う
運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる
"バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う
「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と!
その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ
剣ぺろと言う「バグ技」は
"剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ
この物語は
剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語
(自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!)
しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる