かみたま降臨 -神様の卵が降臨、生後30分で侯爵家を追放で生命の危機とか、酷いじゃないですか?-

牛一/冬星明

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18.小さな薬師様。

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ガヤガヤと辺りが騒がしくなり、微睡まどろみが薄くなっていたのか意識が浮上して目が覚めた。
窓の外から人の声が聞こえる。
私は起き上がって窓の方に足を向けた。
大勢の人が大通りに集めっていた。
朝かと思っていたが、西向きの窓に日が差しているので昼過ぎだ。

「来たぞ」

大衆が一斉に道を開けて坂の上に視線を移した。
二頭の馬を先頭に四列横隊の30人が続き、それが四隊も通り過ぎた。
その後ろに騎士団が続く。

「聖女様、万歳」
「聖女様、万歳」
「聖女様、万歳」
「聖女様、どうぞご無事で」
「アーイシャ様。素敵です」
「結婚して」



昨日の少女が白い馬に乗って鎧姿で現れた。
彼女の名はアーイシャ・シッパルと言う。
この領地の領主の養女でお姫様だ。
但し、私の鑑定ではアーイシャの下にサーラ・タージョと表示される。
アーイシャは周りの民衆に手を振って答えていた。
聖女様は皆さんの人気があるようだ。

総勢150人の一団が門の外に出ると、皆が帰って大通りに人が消えた。
私はベッドに寝転がってクゥちゃんに話し掛けた。

「クゥちゃん。今の解析を見せて」
「くぅ」

私が造ったクゥちゃんは大聖獣だ。
世界を支える大精霊や四大聖獣と同格だ。
神々が世界を支える為に大精霊を創造し、世界の支柱として四大聖獣を産み出す。
管理者の代理人として天使を造り、世話役にエルフなどを造る。
そして、農作業や果実の管理に人間を造る。
造られたモノは創造者に似る。

創造者である神々も色々だ。
戦好きの神も入れば、恋愛馬鹿や悪戯を生き甲斐にする神もいる。
必ず仲が良い訳でもなく、仲違なかたがいから喧嘩になる。
マジで殺し合いだ。
神様は簡単に死なないけどね。
周りに仕えている者は軽く数万単位で命を失う。
一番酷かったのはクピド神から喧嘩の代理人にされた事だ。
世界大戦だ。

「この世界の五柱、クピドが命ずる。ゴルゴ帝国を滅ぼせ」
「ちょっとクピド。本気で言っているの?」
「信託の巫女。神に対して無礼であろう」
「主神に言い付けるわよ。理由を言いなさい」
「エロスの野郎が俺の悪戯に怒って槍を投げて来た。俺の頬が斬られた。報復するのは当然だろう」
「そんな事は天界でやって」
「アイツが大事にしているゴルゴ帝国を滅ぼす事に意味がある」
「主神は知っているのでしょうね?」
「この世界は俺らが造った世界だ。主神は関係ない。この世界に寄生しているお前にとやかく言われる筋もない」
「私は受けないからね」
「ならば、他の者を信託の巫女にして命じるだけだ」
「もう、判ったよ。でも、戦争はしても滅ぼさないからね」
「奴が大事にしている第3王女を人質にしろ。それで許してやる」
「まったく」

世界を分ける二大帝国の戦いが信託で始まり、敵に私がいると知っているエロス神が天使を援軍に送ると、クピド神も天使を送った。
天空で天使達が争うと、戦い好きのデーヴァ神族がそれぞれの陣営に加わって戦った。
もう滅茶苦茶だ。
天空の争いで地上の天候は荒れて戦争維持など出来ない。
シヴァ神が放ったインドラの矢が地上に着弾すると、私の体も目出度く余波で消滅した。
眷属神の一部が殺された事で主神が介入し、兄弟の大神が仲裁に入って戦争は終結した。
仲裁という名のお仕置きだ。
その世界の人類は9割を失うという被害を出した。
帝国は崩壊し、死んだ私は神託の巫女という役職から解放された。
下手に偉くなるモノじゃない。
私は再び転生した。
そのとき、主神に叱られ、迷惑を掛けられたクピド神からお詫びに神力を貰ってクゥちゃんを創造した。

大精霊や四大聖獣と同格と言っても僅かな神力で創造したクゥちゃんにはまったく攻撃力がない極振りだ。
従えている精霊や獣魔もいない。
総合力は中級精霊並だ。
だから、最強の結界でも上位種の魔物には簡単に破られてしまう。

「くぅ」

俺の所為じゃないと文句を言った。
別に責めた訳じゃない。
私がちゃんと造れなかったからだね。

「くぅ」

もっと強化しろ。
さらにクゥちゃんが苦情を言うが、その希望は簡単じゃない。
そもそも神力が余っていません。
霊体でありながら意思を持ち、記憶を保存し、無限に魔力が湧いてくる。
そんな怪物を簡単に造れる訳がない。
もう、その話は終わりだ。
この世界での仕事をしろと命ずる。

「クゥちゃん。レベル精霊はいないのね」
「くぅ」

この世界では感じないらしい。
レベル精霊はステータス画面に数字を刻む精霊であり、鑑定と解析の能力を持つ。
経験値が貯まった事をレベル神に知らせ、種族のレベルアップを助ける。
そのレベル精霊がいない。
つまり、レベル神によるレベルアップはない事になる。

「くぅ、くぅ。くぅ」

訓練をすれば成長するし、魔物などを倒せば魂が膨れる。
レベル精霊が居なくともレベルは上がると言う。
その通りだ。
人も死ねば、肉体と魂を結ぶきずなが崩壊し、そのエネルギーは周りの物質に吸収される。
魔物も同じだ。
生物より魔物の崩壊エネルギーが大きい。
魔物を倒すとステータスが伸びる。
これは神力でも同じであり、神々が入浴した残り香の付くお湯をレベル神に渡し、その一滴をレベルアップした冒険者に与えると、ステータスが異常に伸びる。
捨てるお湯を使った再利用術だ。
廃品で信者獲得できるので神様もウハウハだ。

私は魔物を倒してもステータスは伸びない。
伸びる余地がない。
すでに自分の神力で限界まで上がっている。

「くぅ、くぅ。くぅ」

そんな事はないと、クゥちゃんが二つのステータス画面を呼び出した。
産まれて間もない私の数値と今の私だ。
すべての能力値が倍近く伸びていた。
3ヶ月で倍なら悪くない数字だ。
成長すれば、その分だけステータスは伸びてくれる。

「くぅ」

クゥちゃんの意地悪。
その横にリリーのステータス画面が出ると落ち込んだ。
体力と魔力量を除くと、私のステータスはリリーの半分くらいだった。
神力ドーピングしてもリリーの半分か。
落ち込むな。
実際は足の裏で魔弾を撃つように魔力を爆発させる事で瞬発力を作り、神力を這わせた剣は聖剣並の威力を持つ。
攻撃力は比較にならないが、土台となる基礎力はリリー以下なのだ。

「くぅ、くぅ。くぅ」

そんな事よりこっちが重大だと言う。
アーイシャを始め、騎士達のステータス画面をずらりと並べた。
皆、化け物だ。
この世界の加護を得る儀式は残り湯を与えるような紛い物ではなく、わずかだが神力を与える儀式らしい。
あの強力な魔物と戦えるステータスになっている。

加護がない貴族はあの魔物と戦えない。
私は戦えないと思われた。
アラルンガル侯爵の恥とされて捨てられた訳だよ。
せめて家臣に預けて欲しかった。

分析を終えた私は部屋を出た。
食事を取って少しでも成長させよう。
今日は露天で芋ガレットでも買って食べようと階段を降りた。
玄関のカウンターに店主がいる。

「おはよう。小さな薬師様」

薬師?
店主は私の事を薬師と呼んだ。

「その薬師って、何ですか?」
「町長のアンドレイが朝にコレを持って来た」

店主から小さな袋を手渡された。
中に銀貨5枚が入っていた。

「ポーションの代金はまだ払えないが、手間賃として受け取って欲しいそうだ」
「勝手にやっただけで手間賃なんて要りません」
「嫁と子供が助かったのだ。気持ちと思って受け取ってやってくれ」
「別に構いませんが・・・・・・・・・・・・」
「食事ならすぐに暖めさせる」

店長が大声で台所の奥さんに声を掛けた。
そして、私は酒場のカウンターに座らされた。
後ろでは昼間から大勢の客がエールを飲んでいた。

『赤子の無事に乾杯だ』
『乾杯』
『乾杯。赤子に幸あらん事を』

エールの杯を叩き合って『乾杯』と叫ぶ。
だが、何か奇妙だ。
あぁ、誰も酒に口を付けていない。
乾杯と叫ぶだけだ。

「五月蠅いが許してやっておくれよ。この町は誰もが仲間みたいに思っている」
「別に気になりません」
「そうかい?」
「何か奇妙な気がしただけです」
「ははは、そうだろうね」

意味深に笑いながら奥さんが温め直したスープを置いて来てくれた。
友達のような目で酔っ払いを見ている。
小さな町ならそんなモノだろう。
町が大きくなるほど他人に無関心になってゆく。
私はこういう町が嫌いではない。

「乾杯って言うなら、お代わりしておくれよ。朝からエール一杯で居坐いすわれたら商売が上がったりだわ」

あっ、なるほど。
これが奇妙な原因だ。
乾杯と言っているが、誰も器を口に付けていない。
エールを飲んでいないのだ。

「金がないんだ。仕方ないだろう」
「なら、他でやっておくれ」
「そういうな。狼のお陰で仕事もない。手当もない。金もない」
「まったく」

奥さんは怒っているように言っているが、本気で怒っている訳ではないようだ。
虚しい酒盛りだ。
それはさておき、置かれたスープから湯気が湧いていた。
匙で啜って口に入れると美味しさに感動する。
この味は私には出せない。
その横に小さなガレットが出された。

「お嬢ちゃんが救ってくれた彼女は私の同期さね。ありがとうよ。ガレットなら食べられると餓鬼らから聞いた」
「ありがとうございます。イリエらが来たのですか?」
「昼前に来た。何でも道具屋の爺が呼んでいるらしい。まだ疲れているなら明日にでもすればいい」
「そうします」

小さなガレットは砂糖を使っているようで甘かった。
奥さんはウインクをして人差し指を口の前に立てた。
黙っておけ。
そういう事らしい。

甘いガレットを流し込む為にホットミルクに手を掛けた。
ごくりと飲んで目を見開いた。
美味しい。
ミルクって、こんなに美味しかった?
本当に美味しいのだ。

私はコレをずっと求めていた。
体がそう感じた。
ミルクだ。
やはり赤子の体にはミルクが一番だ。
この世界にこんな美味しいモノがあったとは知らなかった。
初体験だ。
ミルクを一気飲みしてゲップが出る。

「奥さん。このミルクはいつも用意できますか?」
「毎朝届くから用意できるよ」
「必ず付けて下さい」
「あいよ。承知した」

気分が良くなった私は貰った小袋をカウンターに置いた。
銀貨5枚が入っている。

「貰い物ですが、これでエールを奢ってやって下さい」
「いいのか?」
「ガレットのお礼と言っても受け取ってくれないでしょう」
「あいよ。気の利くお嬢ちゃんだね」

微笑みながら奥さんが大声で叫んだ。

『この小さな薬師様が子供の無事を祝って奢ってくれるってさ。しっかり感謝しな』

降って湧いてきたタダ酒に酔っ払いらが歓喜した。
器を上げて感謝の言葉を上げた。

「小さな薬師様、ありがとう」
「小さな薬師様に感謝を」
「小さな薬師様に感謝を」

酔っ払いは大喜びだ。
酒場も儲かって奥さんも喜ぶ。
私の心証を良くなる。
三者三得だ。

私は二階に戻ってもう一度寝る事にした。
赤子の仕事は寝る事だ。
しばらくゆっくりしよう思った。
部屋に入っても『薬師様に感謝を』の声が床の下からいつでも聞こえる。
こそばゆい感じで中々寝付けなかった。
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