かみたま降臨 -神様の卵が降臨、生後30分で侯爵家を追放で生命の危機とか、酷いじゃないですか?-

牛一/冬星明

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26.シークとアーヘラ。

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ロミオ、ロミオ、どうして貴方はロミオなの。
うわぁ、伯爵家の恋物語だ。
褐色の超美形の青年と美少女が並ぶ。
アーヘラはこの地域を束ねるスハイブ・タージョ・スルパ辺境伯の姪っ子であり、美しい顔立ちに燃えるような赤い髪と空を映したような青い瞳を持つ少女だ。
とある舞踏会で疲れた所を介護したのが、シークであった。
シークは騎士見習いで舞踏会の警護をしていた。
甘いマスクに優しげな目で語り掛けるシークに私も思わずうっとりとしてしまう。
天然の女たらしだ。
少し細身の守って上げたくなるような感じがぐっと来る。
出会った瞬間に二人は恋に落ちた。

見掛けと違って、シークは剣の腕も一流らしい。
討伐隊の班長として何度も討伐に加わっており、無事に生還している。
騎士見習いから騎士に昇進した。
シークの叔父この領地の領軍の軍団長らしい。
武闘派の家に生まれたシークは幼い頃から剣術を学ばれ、ひ弱な見た目と裏腹に一流の剣の腕も持っていた。
辺境伯、伯爵令嬢と騎士の隠れた恋が密かに愛を育んだ。

「シーク。シーク。どうして貴方はシークなの」
「アーヘラ。どうして君はアーヘラなんだ」

そう呼び合ったのかは知らない。
シークは手柄を立てて、その成果で結婚を申し込むつもりだった。
だが、無理をした結果、逆に深手を負って戻って来た。
傷ついたシークを見舞った事で二人の関係が明るみとなり、辺境伯はアーヘラに見合った相手を選らんだのだが、シークとアーヘラは領地を飛び出し、この領地の軍団長を頼った。

「何故、もっと早く相談に来なかった」
「アーヘラが遠くに行かないで欲しいと懇願されたからです」
「シークと何年も離れて暮らすなど耐えられません」
「アーヘラにそう言われて決断できませんでした」
「いつでも一緒に居たいのです」

我が儘なお嬢様の気持ちも判る。
遠く離れれば、シークに近寄る女が現れる。
この手の男は放置すると、現地妻が幾人も出来そうだ。
奪われたくないという気持ちが勝った。

この領地の軍団長は準男爵の地位を持っており、貴族に数えられる。
しかも、このシッパル男爵領の領地拡大が成功した後に男爵は子爵に昇進し、準男爵は男爵になる事が決まっていた。
この叔父の養子となれば、格式の釣り合いは取れていないが、最低の形式を整えて事ができる。
しかも聖女様が居られた。
聖女様は辺境伯の娘と公式にはなっているがスルパ一族の本家の令嬢であり、辺境伯の上位に位置する。
シークが聖女様を説得できれば、不可能ではなかった。
不可能ではないが、シークが聖女様に奪われる危険性を考え、アーヘラはシークを止めた。
シークはそれに従った。

「スルパ辺境伯様はアーヘラ様の婚約者を決めてしまった。これに刃向かえば、シッパル男爵様にご迷惑を掛ける。そのような願いは聞けません。申し訳ございません。お前は直ちに領地に帰れ、そして、刑に服せ」
「叔父上様」
「叔父上!?」
「今日より俺はお前の叔父でも何でもない。この恥さらしが」

唯一の頼りとした叔父に叱られたシークはアーヘラと共に逃走するしかない。
南のアラルンガル公爵家を越えれば中央があり、辺境伯の力は中央まで及ばない。
だが、1度は西に戻り、それから南下しなければならない。
南は魔の森が遮っていた。
辺境伯領に戻れば、シークはアーヘラを攫った罪で死罪となる。
シークとアーヘラは手を取って、魔の森を抜けて南に向かう決意をした。
そこに昔の学友が声を掛けて来た。

「シーク。久しぶりだな」
「貴族学校以来だな」
「話は聞いている。どうするつもりだ」
「戻る事はできない。南へ・・・・・・・・・・・・」
「二人なら怖くありません」
「無茶だ」
「判っているが、他に方法がない」
「いいか、よく聞け。その方法だが1つだけある。これは俺の一人言だ。この領地にはアラルンガル公爵家令嬢が滞在している」
「アラルンガル公爵家令嬢? どうやって? スルパ辺境伯様の宿敵ではないか? 男爵様が滞在を許可しているのか?」
「まさか」

ちょっと、ちょっと、ちょっと待って。
シークとアーヘラの話を聞いていた私が思わず声を上げた。

「アラルンガル公爵令嬢って、私の事?」
「はい。同期がそう教えてくれました。どうやって来たのかも不明だが、秘密の道があるのだろうと。そして、同期はアラルンガル公爵令嬢と貴族らがトラブルを起こさないように処理するのに苦労していると嘆いておりました」
「もう一度聞くけど・・・・・・・・・・・・私の事ね」
「お願いします。アラルンガル公爵令嬢様。どうか南に行く道をお教え下さい」
「道なんてないわ。私も森を抜けて来ただけよ」
「それでは私らと一緒に南へ」
「それはもっと無理。戻りたくないわ」

殺した赤子が生きていて喜ぶだろうか?
それはない。
赤子に見えないので見つかるとは限らないが、見つかったら殺される。
そんな危険な場所に戻りたくない。
もちろん、私も死にたくないので抵抗する。
無用の殺生が起る。
そんな未来は遠慮する。

「改めてもう一度聞くけれど、この領地の役人は私をアラルンガル公爵令嬢として見ているのね」
「それは間違いありません。この領地の貴族とトラブルを起こさないように気遣っていると申しておりました」
「これはもう時間の問題ね」
「何がですか?」
「こっちの都合よ」

このシッパル男爵の親分であるスルパ辺境伯とアラルンガル公爵家は宿敵らしい。
どういう経緯で宿敵になったのか知らないが協力する事はなさそうだ。
だからと言って、私の生存がアラルンガル公爵家にバレないとは限らない。
私が紛争の火種になるか、あるいは、引き渡される交渉材料にされるか?
裏で面倒臭い事になって行きそうだ。

「いいわ、助けましょう」
「ありがとうございます」
「但し、南ではなく、誰も知らない楽園よ。召使いもいない無人の砂浜しかない土地よ。それでもいいならば、連れて行ってあげるわ」
「二人が一緒に幸せに暮らせるならば、どんな場所でも構いません」
「アラルンガル公爵令嬢様。ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「その呼び方は止めてくれる。ジュリと気軽に言って頂戴」

私は二人を連れて東の外れに作った風車小屋に行った。
施錠もない扉を開くと、風車の外周を回っている裏側の階段を降りて地下室に入り、隠し扉を開いて、隠し部屋に二人を置いた。

「ここを離れる準備をするから、10日ほどここで過ごして貰うわ」
「解りました」
「食事は持って来させるわ」
「承知しました」

予定が狂った。
まさか、私の正体がバレていると思わなかった。
私はやり過ぎた。
貴族とトラブルになるのは想定済みだ。
一人で出て行く事になるが、孤児らを引き取って出て行くかは決めていない。
ケースバイケースだ。
2~3年も隠遁いんとんできれば、牛の他に豚などを飼って世話役の二人くらいを引き取りたいと考えていたが予定変更だ。
皆、進路を決めるにはまだ幼い。
丁度良い世話役が手に入ったと考えよう。

ピクニックに行った時にこの辺りの景色を確認した。
シッパル男爵領を流れるシッパル川を下れば、大河に合流している。
船で下れば、牛や豚を連れ帰る事ができる。
子供らにお別れを言おう。
泣く姿を見るのが辛い。
少しでも良い思い出を作ろう。
隠れスキルを1つずつ上げるのもいいか。

「お帰りなさいませ」
「ご主人。今日来た二人の事は秘密にして下さい」
「承知しました。他ならぬ聖樹の薬師様のお願いです。只、絶対とは申せません」
「そうですね。嘘を見抜く魔眼を持つ方もいますからね」
「ですから、宿に一度顔を出したが、それからどこに行ったかは知らないと答えさせて貰います。実際にどこに行かれたかは知りません」
「それでお願いします」

流石、宿屋の主人だ。
対処の仕方を心得ている。
風車小屋を調べても隠し部屋は簡単に見つからない。
教会と風車小屋に隠し通路がある事もシスターとイリエ達しか教えない。
そして、二人の名前を教えないでおこう。
誰かに聞かれたら、「どんな名前ですか?」、「そんな名前を知りません」と答えさせよう。
これで真実になる。

長居は無用だ。
私だけなら、また戻ってくればいい。
魔法の指導も切り上げて課題を出そう。
あのワイバーンのうろこを使って、子供らの防具など残して行こう。
冷蔵庫に鯨の肉も入れておくか。
薬草作りは終えて、買い出しを中心に予定を立てる。
しばらく、忙しくなるな。
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