鉄の城に砂の唄が呻く

でぃ.

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母さんが死んだ。

今日までそれなりに、決して恵まれているとは言えなかったけれど自分なりに楽しく人生を送ってきたと思っていた。豊かではなくても、でもそれなりに、俺は幸せだった。

幸せだったと、言いたかった。

色々な不幸の極めつけみたいに母さんが死んで、とにかく。
まともな葬式なんかできなかったからただ形式的に手続きだけを淡々と踏んで、手元に遺骨が残るのも正直困ったから、葬儀屋の勧めで大半を供養に出して、ほんの一粒、喉仏だけを受け取ることにしてそれの手のひらに乗せて眺めていたら、そこで初めて少しだけ涙が出た。
遺灰でダイヤモンドを作る、みたいなキザでかっこいい台詞が不意に頭を過って、泣き笑いの歪んだ顔になるのを止められなかったけれど。

「…ッ、…ふ…うッ」

ギシギシと、規則的に軋むスプリングの音の中で、薄汚れたクッションに顔を埋めた俺は必死で下唇を噛みしめていた。
感情も痛みも快楽も、色んなものを外に向けて逃がそうと躍起になりながら、あの日の事を思い出す。思い出して、誤魔化す。
母さんが死ぬ少し前に、俺がいつもつるんでいた地元のツレが居なくなった。幼馴染なんて言ってそれが女だったらどれほどありがたい青春話になってもおかしくなかったけれど、残念な願望のそれは露か霞か分からないそれに消えてしまって、まぁ。

「い、ッ…!!」

後頭部を掴まれて引かれる。顔をクッションから剝がされて、淀んだ新鮮な空気とかいう矛盾の塊が一気に喉になだれ込んでむせそうになった。反射的に後ろを振り返って背後を睨む。俺の、軽率な行動のせいで、自業自得だからと言って。それでも。

「こっわ」

ヘラヘラ笑って歪む、知らない誰かの口許に余計に眉根が寄って、俺の肩を掴んでいた相手の手首に噛みつこうとしたけれど寸前で避けられて身体がバランスを失った。
無事な方の右側の肘をソファの肘掛けについて身体を支えたけれど、今にも痛みで意識がぶっ飛びそう。多分、左側はどっかが折れている。

「もうちょっとやった方が良いんじゃねぇの?こっちが怪我しそうでチンコ萎えるわ」

「んぐ…ぅ、う、ッ」

後頭部をまた掴まれて例の綿の塊に押し付けられた。視界一杯が真っ暗になってまた、呼吸も苦しくなる。逃れようと多少腰を捻ってみたけれど、どうにもならなかった。

「死なれちゃ困るってもなぁ、加減とかわかんねぇしな」

どこの誰とも知れない誰かの会話が頭上から降ってきて、残酷な現実に視界は真っ暗でも眩暈がするのを感じた。

ツレが居なくなって、まぁそれでもそのうち帰ってくるだろなんて思っていたら、口約束で知り合いから借りていた金を急に返せとか言われて、飛ぶしかないかもなんて冗談みたいなことやっていたら、急に母さんが死んで気づいたら葬式挙げて、それで、何がどうなったのかは分からないけど、結果がコレ。

「んッ、ぐ…ふ…ぁ…」

めちゃくちゃだった。
ソファの上がやりにくかったのだろう、脇腹を蹴って転げ落とされた。その衝撃と痛みで指が真っ白になるほどクッションを握り締めて、その上に散らばる赤黒い血がより鮮明に際立った。
呻き声と一緒に丸まってとにかく、防衛本能でうずくまるしかない俺を更に数回横から蹴って転がして、殆ど仰向けに転がされた視線の向こうの人影は天井からの逆光で表情一つ読み取れなかったけれど。俺の事を囲んでいるのは影の数と会話からして二人で間違いなさそうだった。

「口開けろよ」

「んぐぅ、ッ…ふ…!!」

身体が回転するたびに左側のどこかが軋んで激痛が走る。
クッションを取り上げられてうつ伏せの顎を乱暴に掴まれた。顔を無理やり上げさせられたら、眼前に凶悪なディティールを突き出されてそれが何かを考える間もなく咥内に突っ込まれた。生臭いような嫌なにおいが鼻に抜けて口を閉じられなくなって、無理やり喉の奥を突かれて、えづいてせき込みそう。

「新しい扉開きそう」

「な、これやべぇわ」

蹴り落されるときにずるりと抜けて一度楽になったと思った双丘の間をまた鷲掴みにされて拡げられたと思ったら、さっきより明らかに質量の多くなったソレを躊躇なく打ち込まれて、一瞬息が止まる。視界がばちばちと明滅して、脳みそが痺れた。

「ん、ん…んッ…ん」

腰を掴まれて規則的なリズムで突かれたら、連動して口の中も同じリズムで犯された。
今この口の中のモノを思いっきりひと噛みしてやったらもしかして、などと思わない訳じゃないけれど、正直怖気づいて出来なかった。自分の弱さもそうだし、同じ男ならコレを噛まれるなんて、想像もしたくないそれだったし。痛いし苦しいし屈辱ではあったけれど、半分、色んな事を諦めた自分が居るのも事実だった。

俺にもう家族は居ないし、幼馴染のツレも黙ってどっか行ったし、特に大事にするようなプライドも尊厳も、俺にはもう、何も残っていない。だから。

だから、何も要らない、軽い気持ちで作った借金だけ義理で返そうと思って、だから割のいい話に飛びついた。誰かの変わり身になって、そしたら俺の借金肩代わりしてやるってそんな虫のいい話が虫のいいタイミングで飛び込んできてそれにまんまと飛びついて。それだけ。

「や、べ…出そう」

「俺も」

「んぐ、…んッ、う…ッ!!」

後ろはどうか知らないけれど、一旦前、口の中だけは、生で突っ込まれて口の中に出された。初めて味わう生臭い味に眉根が寄って、早く吐き出したい、早く抜け、って思ってそれと同時に、突然思い浮かんだ世の女の子達に変な同情をした。
後ろが、俺の身体の中でどくどくと脈打つのが解る。解りたくないのに解った。腰が勝手にビクビク跳ねて、逃げ出そうとするのにその腰を掴まれて一番奥で揺すられた。ずるりと音を立ててそれが抜かれて、圧迫感からの解放に息を吐き出したのと同時に口の中からも異物感が抜けていった。すげぇ小汚い死にかけの犬みたい、口から精液と唾液と一緒くたに垂れ流して、でも口からぼたぼた零れるそれを上手く吐き出す気力が湧かなかった。
必死で身体を支えていた右腕の力も限界で、ずるずる地面に横たわるしか無い。誤魔化されていた左半身の痛みがジワジワ広がって、痛いのは解る、でも感覚はどんどん鈍くなっていった。

「――――――」

「――――――」

知らない誰か達の会話の内容も聞き取れなくなっていく。視界はぼやけてピントが合わない。どこの工場の倉庫に連れ込まれたのかは未だに分からないし、視界の端に移るのはどこかのゴミ置き場から拾ってきたらしい小汚いソファと、俺から引っぺがされたクッションと、眼前にぼとりと落ちてきた使用直後のコンドーム。
トタンの所々が錆びて鉄臭いな、なんて他人事みたいに思っていたけれど、その実切れた口の中の味と匂いと混ざってどっちの鉄臭さかなんてもはや区別できなかった。
コンクリの地面に打ち捨てられて、惨めな恰好のままほったらかされて、それで。
誰かの足音が離れていく。
途切れていく意識の中で。

このまま見つからなくて野垂れ死ねた方が恥の上塗りをしなくて良いかも、いやでも本当は、死ぬときは布団の上で死にたいけどな、なんてくだらない事を他人事みたいに思った。

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