『メテオ・ブレイク 〜スキルポイントで現代最強、高校生活も攻略します〜』

あか

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4話

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第4話「初級ボスと朱音の“任務”」

 レベル4になったことで、身体の感覚が明らかに変わっていた。
 視界は広く、聴覚は鋭く、足を踏み出せば地面が軽く感じる。
 人間じゃない何かに近づいていくような感覚があった。

「神代くん、無理な突っ込みはダメよ。成長が急激すぎると、感覚が追いつかなくて事故ることもあるから」

「気をつけるよ。でも……動ける。自分でも驚くぐらいに」

 朱音はじっと俺の顔を見つめ、小さく微笑んだ。

「……強くなることを恐れなくていい。それはあなたの才能だから」

 その言葉に、胸の奥に妙な熱が宿った。

***

 通路を進むほどに、敵は増えていった。
 スライム、コウモリ型のモンスター、小型ゴブリン。
 だが、倒すたびに経験値が10倍入り、レベルはどんどん上がる。

【レベル4 → レベル7】

「ちょ、ちょっと待って……成長が速すぎる……」

「俺にもよくわからんけど、殴った瞬間に体が軽くなるんだよな」

「普通は1階層クリアしても3レベル上がれば十分なのに……あなた、バランスブレイカーよ」

 朱音が呆れ半分、興味半分の視線を向ける。
 その目にわずかな赤みが差し、心臓が跳ねた。

(……やっぱり可愛いな)

 そんなことを思ってしまった自分に、別の意味で心臓が跳ねた。

***

 やがて広間に出た。
 天井は高く、壁には苔のような光が揺らめいている。
 一歩踏み込んだ瞬間、鈍く低い轟音が響いた。

「来るわよ。初級ボス――【ホブゴブリン】」

 奥の暗がりから、通常のゴブリンの倍ほどの体格を持つ影が現れる。
 筋肉はゴツく、片腕には鉄パイプのような鈍器。
 赤い眼がぎらぎらと光っていた。

「うわ……あれはさすがにヤバくないか?」

「普通の高校生には絶対に無理ね。でもあなたは——」

 朱音は俺の横に立ち、短剣を構えた。

「一緒に倒すわ。初ボスだもの」

 ホブゴブリンが吠え、地面を蹴った。
 巨体の割にスピードは速い。

「来るッ!」

 鉄パイプが横薙ぎに振り抜かれる。
 反射で身を引いた俺の頭の上を、風圧がえぐるように通った。

「——っ!」

 避けながら、拳を顎に突き上げる。
 手応えはあるが、奴は崩れない。

「硬すぎる!」

「ホブは耐久特化型! 弱点は——」

 朱音の声が途切れる。
 ホブゴブリンが朱音に狙いを移したからだ。

「朱音!!」

 巨体が朱音へ一直線に突っ込む。
 咄嗟に考えるより先に、身体が勝手に動いた。

「やらせるかあああッ!!」

 俺は横からホブの腹部にタックルを食らわせ、そのまま壁際まで押し込んだ。
 衝撃で腕が痺れるが、構わない。

(倒す……守る……!)

 拳を、何度も何度も叩き込む。
 ステータス上昇で拳の威力は明らかに増していた。

 そして——

【ホブゴブリンを討伐しました】
【経験値獲得:×10補正】
【レベル7 → レベル12】

「レベル……12……」

 朱音が呆れたように呟く。
 俺は息を荒げながら、へたり込んだ。

「大丈夫? 怪我してない?」

 朱音が駆け寄り、俺の腕をそっと掴んだ。
 その手は震えていた。

「……危なかった。あなたが来てくれなかったら、私……」

「朱音が無事なら、それでいい」

 言葉にすると、朱音の表情が固まった。
 次の瞬間、頬がほのかに赤くなる。

「……そんな顔して言うことじゃないでしょ……馬鹿」

 照れたようなその表情に、また心臓が跳ねた。

***

 ホブゴブリンの残骸が霧のように消え、宝箱が現れた。

【初ボス討伐報酬:スキルポイント+1】

「よし……これでまた強くなれる」

 すると朱音が静かに口を開いた。

「神代くん……私もちゃんと話さなきゃ。
 隕石現象、スキル、ダンジョン……私は“偶然”で知ってるわけじゃない」

「……どういうことだ?」

 朱音は深く息を吸い込む。

「私は……“対ダンジョン特務課”の一員。
 隠された国家組織よ。昨日から神代くんの監視任務を担当しているの」

 胸の奥が震えた。

(監視……!? 俺は、監視対象……?)

 朱音は、まっすぐな瞳で俺を見た。

「でも——もう“対象”じゃない。
 今日のあなたを見て……私は、あなたの味方でいたいと思った」

 その言葉に、俺はただ息を呑むしかなかった。

―――第4話 了―――

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