4 / 9
4話
しおりを挟む第4話「初級ボスと朱音の“任務”」
レベル4になったことで、身体の感覚が明らかに変わっていた。
視界は広く、聴覚は鋭く、足を踏み出せば地面が軽く感じる。
人間じゃない何かに近づいていくような感覚があった。
「神代くん、無理な突っ込みはダメよ。成長が急激すぎると、感覚が追いつかなくて事故ることもあるから」
「気をつけるよ。でも……動ける。自分でも驚くぐらいに」
朱音はじっと俺の顔を見つめ、小さく微笑んだ。
「……強くなることを恐れなくていい。それはあなたの才能だから」
その言葉に、胸の奥に妙な熱が宿った。
***
通路を進むほどに、敵は増えていった。
スライム、コウモリ型のモンスター、小型ゴブリン。
だが、倒すたびに経験値が10倍入り、レベルはどんどん上がる。
【レベル4 → レベル7】
「ちょ、ちょっと待って……成長が速すぎる……」
「俺にもよくわからんけど、殴った瞬間に体が軽くなるんだよな」
「普通は1階層クリアしても3レベル上がれば十分なのに……あなた、バランスブレイカーよ」
朱音が呆れ半分、興味半分の視線を向ける。
その目にわずかな赤みが差し、心臓が跳ねた。
(……やっぱり可愛いな)
そんなことを思ってしまった自分に、別の意味で心臓が跳ねた。
***
やがて広間に出た。
天井は高く、壁には苔のような光が揺らめいている。
一歩踏み込んだ瞬間、鈍く低い轟音が響いた。
「来るわよ。初級ボス――【ホブゴブリン】」
奥の暗がりから、通常のゴブリンの倍ほどの体格を持つ影が現れる。
筋肉はゴツく、片腕には鉄パイプのような鈍器。
赤い眼がぎらぎらと光っていた。
「うわ……あれはさすがにヤバくないか?」
「普通の高校生には絶対に無理ね。でもあなたは——」
朱音は俺の横に立ち、短剣を構えた。
「一緒に倒すわ。初ボスだもの」
ホブゴブリンが吠え、地面を蹴った。
巨体の割にスピードは速い。
「来るッ!」
鉄パイプが横薙ぎに振り抜かれる。
反射で身を引いた俺の頭の上を、風圧がえぐるように通った。
「——っ!」
避けながら、拳を顎に突き上げる。
手応えはあるが、奴は崩れない。
「硬すぎる!」
「ホブは耐久特化型! 弱点は——」
朱音の声が途切れる。
ホブゴブリンが朱音に狙いを移したからだ。
「朱音!!」
巨体が朱音へ一直線に突っ込む。
咄嗟に考えるより先に、身体が勝手に動いた。
「やらせるかあああッ!!」
俺は横からホブの腹部にタックルを食らわせ、そのまま壁際まで押し込んだ。
衝撃で腕が痺れるが、構わない。
(倒す……守る……!)
拳を、何度も何度も叩き込む。
ステータス上昇で拳の威力は明らかに増していた。
そして——
【ホブゴブリンを討伐しました】
【経験値獲得:×10補正】
【レベル7 → レベル12】
「レベル……12……」
朱音が呆れたように呟く。
俺は息を荒げながら、へたり込んだ。
「大丈夫? 怪我してない?」
朱音が駆け寄り、俺の腕をそっと掴んだ。
その手は震えていた。
「……危なかった。あなたが来てくれなかったら、私……」
「朱音が無事なら、それでいい」
言葉にすると、朱音の表情が固まった。
次の瞬間、頬がほのかに赤くなる。
「……そんな顔して言うことじゃないでしょ……馬鹿」
照れたようなその表情に、また心臓が跳ねた。
***
ホブゴブリンの残骸が霧のように消え、宝箱が現れた。
【初ボス討伐報酬:スキルポイント+1】
「よし……これでまた強くなれる」
すると朱音が静かに口を開いた。
「神代くん……私もちゃんと話さなきゃ。
隕石現象、スキル、ダンジョン……私は“偶然”で知ってるわけじゃない」
「……どういうことだ?」
朱音は深く息を吸い込む。
「私は……“対ダンジョン特務課”の一員。
隠された国家組織よ。昨日から神代くんの監視任務を担当しているの」
胸の奥が震えた。
(監視……!? 俺は、監視対象……?)
朱音は、まっすぐな瞳で俺を見た。
「でも——もう“対象”じゃない。
今日のあなたを見て……私は、あなたの味方でいたいと思った」
その言葉に、俺はただ息を呑むしかなかった。
―――第4話 了―――
0
あなたにおすすめの小説
男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺
マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。
その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。
彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。
そして....彼の身体は大丈夫なのか!?
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
第2の人生は、『男』が希少種の世界で
赤金武蔵
ファンタジー
日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。
あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。
ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。
しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
雑魚で貧乏な俺にゲームの悪役貴族が憑依した結果、ゲームヒロインのモデルとパーティーを組むことになった
ぐうのすけ
ファンタジー
無才・貧乏・底辺高校生の稲生アキラ(イナセアキラ)にゲームの悪役貴族が憑依した。
悪役貴族がアキラに話しかける。
「そうか、お前、魂の片割れだな? はははははは!喜べ!魂が1つになれば強さも、女も、名声も思うがままだ!」
アキラは悪役貴族を警戒するがあらゆる事件を通してお互いの境遇を知り、魂が融合し力を手に入れていく。
ある時はモンスターを無双し、ある時は配信で人気を得て、ヒロインとパーティーを組み、アキラの人生は好転し、自分の人生を切り開いていく。
消息不明になった姉の財産を管理しろと言われたけど意味がわかりません
紫楼
ファンタジー
母に先立たれ、木造アパートで一人暮らして大学生の俺。
なぁんにも良い事ないなってくらいの地味な暮らしをしている。
さて、大学に向かうかって玄関開けたら、秘書って感じのスーツ姿のお姉さんが立っていた。
そこから俺の不思議な日々が始まる。
姉ちゃん・・・、あんた一体何者なんだ。
なんちゃってファンタジー、現実世界の法や常識は無視しちゃってます。
十年くらい前から頭にあったおバカ設定なので昇華させてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる