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6話
しおりを挟む第6話「スキル覚醒者、続々」
翌朝の天ノ宮高校は、妙なざわつきに包まれていた。
昨日までと同じ校舎、同じ通学路のはずなのに、空気の密度が明らかに違う。
(……やっぱり、何か起きてる)
教室へ入ると、クラス中が騒いでいた。
「おい聞いたか? 隣のクラスで“幻覚”見えたって騒いでたぞ」
「うちのクラスにもいるらしいぜ。画面が出たとか言ってる奴」
完全に俺と同じ現象だ。
朱音の言った通り、“スキル覚醒者”が増えはじめている。
席につくと、前の席の男子――**相馬蓮(そうま れん)**がこちらを振り返った。
スポーツ万能、性格はやや荒っぽい。だがクラスの人気者だ。
「神代、お前……昨日の晩、変な光見たか?」
「まぁ……見たよ」
「だよな! やっぱりそうだよな!」
蓮は袖をまくり上げて見せてきた。
「俺、これが見えるんだよ!」
彼の手元に浮かんでいたのは、俺にも覚えのある青白いウィンドウ。
【身体強化(小)を取得しました】
「——っ!」
クラス中に見えてるわけではなく、俺だけにウィンドウが共有されているのがわかった。
(こいつ……覚醒したのか)
蓮は満足げな顔でニヤリと笑う。
「これで俺も超能力者ってわけだ! すげーよな神代!」
「……ああ、すごいな」
内心は複雑だった。
自分以外の“異能者”が増える不安が、じわりと胸を占めていく。
***
朱音はその少しあと、遅れて教室へ入ってきた。
いつも通りの穏やかな表情――に見えたが、よく見るとひどく周囲を警戒している。
(スキル覚醒者が何人かいる……見えているのね)
朱音と目が合うと、彼女はほんの一瞬だけ微笑み、すぐに表情を引き締めた。
先生が来る前、朱音が俺の席にそっと近づき、小声でささやく。
「……神代くん、放課後に“職員棟裏”へ来て。覚醒者が何人出たのか共有する必要がある」
「そんなにまずいのか?」
「ええ。昨日の隕石の衝撃で、この地域は特にスキル発生率が高いの。想定よりずっと多い覚醒が起きてる」
(そんなに?)
胸の奥に、よくわからない焦燥が芽生える。
(俺は“10倍成長”手に入れたんだ。他の覚醒者に遅れをとるわけにはいかない……)
ウィンドウを開く。
==========
神代晴斗(Lv12)
STR:20
VIT:14
DEX:18
INT:15
LUK:3
スキルポイント:1
==========
(次のスキル……そろそろ何か取らないと)
そう考えていると、隣の蓮がまた話しかけてきた。
「なあ神代。今日、放課後俺と一緒に試してみねぇ? この“身体強化”どこまで使えるか……!」
言葉の熱量が怖いほどだ。
昨日まで普通の高校生だったのに、力を得た途端、この変わり様。
(これ……朱音の言ってた“暴走”の始まりなんじゃ……?)
その時だった。
教室の窓が、突然ビリッと音を立てて揺れた。
「うわっ!?」「なに今の!」
空の一角に、薄い、亀裂のような光が走った。
天ノ宮の空が、“怪物の気配”で震えている。
【新規ダンジョンゲート:天ノ宮高校体育館裏】
【推奨レベル:5~10】
【覚醒者の集まる地点に反応して、ゲートが形成されました】
(……学校に、ゲート!?)
朱音の目が大きく見開かれた。
そして、俺の胸の奥にも同じ衝撃が走る。
(これは……“俺の戦場”だ)
「神代くん。一緒に、行くしかないわね」
朱音の声は震えていたが、強い決意を帯びていた。
「もちろんだ。……行こう、朱音」
スキル覚醒者たちの学校に、一つ目の“試練”が降りてきた。
―――第6話 了―――
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