『メテオ・ブレイク 〜スキルポイントで現代最強、高校生活も攻略します〜』

あか

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7話

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第7話「学校ダンジョン、開門」

 昼休みが終わるころ、校舎全体がざわつき始めた。
 体育館裏に現れた“光の亀裂”は時間とともに濃くなり、ついには誰の目にも見えるほど異常な揺らぎになっていた。

「なあ、あれ……やばくね?」
「幽霊じゃないの?」「光って動いてるんだけど……」

 一般生徒には“ゲート”ではなく、不可解な現象として見えているらしい。

(これは……覚醒者が引き寄せられてる証拠だ)

 朱音が小声で言う。

「神代くん、放課後まで待てないわ。ゲートの形成速度が速すぎる」

「すぐ行くのか?」

「ええ。あれは初級だけど……覚醒したての人間が触ったら、引きずり込まれる可能性もある」

 その“可能性”は十分にありえる。
 蓮(れん)は隣でソワソワしっぱなしだった。

「なぁ神代……俺、なんか胸がムズムズしてさ……あの光、行かないと落ち着かねぇ……!」

(やっぱり……誘導が始まってる)

 朱音が蓮の肩を掴んだ。

「相馬くん、あなたも覚醒したなら、絶対に勝手に近づいちゃダメ。命に関わる」

「な、なんだよ月城……やっぱお前も知ってんのか?」

 朱音は迷った末に答えた。

「神代くんと私に任せて。あなたは待機して」

 だがその言葉は、蓮の心に“火種”を落としたらしい。

「なんだよそれ……お前らだけでカッコつけんのか? 俺だって……力を手に入れたのに……!」

 蓮の瞳に、危なっかしい“昂り”が宿っていた。
 覚醒直後にありがちな、力への渇望。

(まずい……これが暴走の兆候か)

***

 放課後。
 体育館裏には、生徒が近づけないよう教師が立ち入り禁止のロープを張っていたが、それでも薄青い光は隠せないほど存在感を放っていた。

「行くわよ、神代くん」

「ああ」

 近づくと、ゲートの膜がゆらりと揺れる。
 昨日の天ノ宮駅のものより、明らかに“荒い”。不安定だ。

【新規ゲート:天ノ宮高校裏庭ダンジョン】
【推奨レベル:5~10】
【初回侵入者ボーナスあり】

(レベル12の俺なら……十分いける)

 しかし、朱音が腕を掴んだ。

「気を付けて。初級より危険よ。ここは“学校”が根本だから、敵の行動も速い」

「敵の行動が……速い?」

「ええ。この場所に覚醒者が多いから、敵も強くなる傾向があるの」

 そんなシステムまであるのかと息を呑んだその時。

「おい、神代ァ!!」

 振り返ると、蓮が走ってきた。
 理科室から持ち出したらしい金属バットを片手に、目が異様にギラついている。

「俺も行く! そのゲート、俺に“俺は行ける”って言ってんだよ……!」

「蓮、やめろ! お前はまだ——」

「神代だけ強くなってんじゃねぇだろ!? 俺だって……俺だって……ッ!」

 まずい。
 完全に“誘導”に飲まれてる。

 朱音が表情を硬くした。

「神代くん……放っておけない。連れて入るほうがまだ安全よ。中のほうがコントロールしやすいから」

「そういうもんか……!」

「ええ。ここで暴れられるよりはマシ」

 蓮は肩で息をしながら、ゲートへ手を伸ばした。

「行くぞ神代……俺、強くなんだよ……!」

 誘われるように、蓮は光の膜へ吸い込まれていく。

「っ……! 追うぞ朱音!」

「当然よ!」

 俺たちもすぐにゲートへ飛び込んだ。

***

 世界が反転し、湿った空気が流れ込む。

 そこは、昨日のダンジョンとは比べ物にならないほど暗く、深い森のような迷宮だった。
 木が生えているわけではないのに、視界の端で影がうごめく。

「どこだここ……?」

「学校裏の“影”を元に生まれたダンジョンね。形状が歪んでる」

 その時、蓮が叫んだ。

「く、来るぞ……! なんかいるッ!!」

 霧を裂くように、黒いシルエットが現れる。

 うねる腕、赤い単眼。
 昨日のゴブリンとは桁違いの気配だ。

【シャドウインプ】
【危険度:中】

(まずい……蓮には絶対無理な相手だ)

「神代くん、こいつは——!」

「わかってる。前は俺がやる!」

 足が自然に地面を蹴り、影に向かって飛び出す。

(昨日より速い——!)

 殴りかかるその瞬間、敵の爪が横薙ぎに閃いた。

 だが、俺の身体は既に避けていた。

(成長補正が……また効いてる!)

 拳に力を込め、シャドウインプの胸へ撃ち込む。

 衝撃が走り、影が大きく揺らいだ。

「ハァァッ!!」

 最後に一撃を叩き込み、影が霧散する。

【シャドウインプ討伐】
【経験値取得:×10補正】
【レベル12 → レベル14】

(上がった……!)

「すげぇ……神代……本物の強さじゃねぇか……!」

 呆然と呟く蓮に、朱音が寄り添って支える。

「相馬くん、落ち着いて。あなたはまだ初級よ。けど——生き残りたいなら、神代くんの動きを“よく見て”」

 その言葉に、蓮は小さく頷いた。

(ここからが本番だ……)

 俺は拳を握りしめ、ダンジョンの奥――暗闇の中心へ視線を向けた。

「行くぞ……二人とも。ここは“俺たちの学校”だ。守らないと」

 朱音は微笑んで頷き、蓮は歯を食いしばって前を向く。

 こうして俺たち三人は、学校に生まれた“影の迷宮”へと踏み込んでいく。

―――第7話 了―――
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