『メテオ・ブレイク 〜スキルポイントで現代最強、高校生活も攻略します〜』

あか

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8話

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第8話「影の中層、揺れる仲間」

 ダンジョンに足を踏み入れてから、まだ数十分も経っていないはずなのに、外とは全く違う気配が体にまとわりついてくる。
 空気は湿り、光の届かない影が地面から生えているようだった。

「ここ……本当に学校の裏にできたダンジョンなのか?」

 蓮がバットを握りながら震えた声で言う。

「形状は周囲の“記憶”や“影”を元にできてるだけ。実際には異空間よ」

 朱音は真剣な目で周囲を見渡す。
 彼女の緊張の仕方は、昨日のダンジョンとは比べ物にならない。

(朱音でも、ここは“危険”って感じるのか)

 そう思っていると、通路の奥から、数体の影が浮かび上がった。

 細長い腕、白い仮面のような顔。
 身体の輪郭が煙のように揺らぐ。

「来るぞ!」



【シャドウインプ×3】
【危険度:中】

 一体なら昨日倒したが、三体同時はまだ経験がない。

「蓮は後ろ! 俺と朱音で前に出る!」

「わ、わかった……!」

 蓮は完全に怯えながらも、従っている。
 昨日の蓮なら真っ先に突っ込んでいただろう。
 だがこの空間は、そんな甘さを許さない“殺気”に満ちていた。

 俺は深呼吸し、拳を握りしめる。
 その瞬間――世界が少しだけ遅くなった。

(……来る!)

 一体目が爪を振り下ろしてきた瞬間、体が勝手に反応した。
 視界がクリアに、軌道がスローモーションに見える。

「はッ!」

 拳が影の胸にめり込み、黒い靄が散る。

 そのまま振り返り、別の一体の首元へ回し蹴り。
 自分でも驚くほど滑らかに足が動いた。

(昨日より“動けてる”……!)

 朱音も短剣で一体を牽制しながら的確に距離を取る。

「神代くん、左!」

「任せろ!」

 最後の一体が飛びかかってくる。
 俺は地面を蹴り――拳を真横から叩き込む。

 影が霧散し、音もなく消えた。

【シャドウインプ×3を討伐】
【経験値獲得:×10補正】
【レベル14 → レベル15】



 ウィンドウが光る。



▼レベルアップステータス(第8話前半)

==========
名前:神代晴斗
レベル:15
HP:78/78
MP:18/18
STR:29
VIT:22
DEX:26
INT:22
LUK:5

所持スキルポイント:2 → 3
特異スキル:
・【成長補正×10】
==========



「……強っ……神代、マジでやべぇ……」

 蓮が息を呑んで言う。
 恐怖と羨望が混ざり合ったような目――それが少し気になった。

「蓮、無茶はしないでいいから。ここは俺と朱音で押す」

「……わかってるよ……けど……」

 蓮は拳を握りしめ、唇を噛む。

(……不味いな。蓮、完全に“焦り”始めてる)

 覚醒したての人間が、強者に追いつこうとして焦るのは一番危険だ。
 朱音も気づいているのか、不安げに蓮を見た。

「相馬くん。無理に戦う必要はないわ。あなたの強さは、あなたのペースで育つの」

「……そう、だよな」

 蓮は俯いたまま小さく答えた。
 だがその声は震えていて、納得していないのがわかる。



 通路の奥に、薄明かりが広がってきた。

「中層だわ……気をつけて。ここから敵が“質”を変える」

「質?」

「ええ。影の中層は……敵が“形”を持ち始める」

 その言葉の通り、開けた広間に足を踏み入れると――

 黒い甲冑に身を包んだ影が一体、静かに立っていた。

 長い剣を握り、周囲とは比べ物にならない“圧”を放っている。

【シャドウソルジャー】
【危険度:高】
【推奨レベル:15~20】

(推奨レベル15……ちょうど今の俺のレベル帯か)

「神代くん。……私たち二人で仕留めよう」

「蓮は下がってろ、絶対に前に来るな!」

「くそ……わかったよ!」

 俺たちは武者影を挟むように前へ出た。

 一瞬で理解した。
 こいつは、昨日までの敵とはまったく違う。

「来る!」

 影の剣が閃いた。
 俺が避けるより速く――朱音が動いた。

 影の剣を受け流し、短剣で切っ先を逸らす。

(朱音……速い!?)

 朱音は低く呟いた。

「……本当は使いたくなかったんだけど――」

 その瞳が、一瞬だけ紫に輝いた。

「《索敵視界(サーチビジョン)》――起動」

 空気が震え、朱音の周囲に幾つもの光が散ったように見えた。

「このスキル……敵の動きを“線”で読むの。
 ――神代くん、右45度から切り上げが来る!」

「了解ッ!」

 影の剣が右下から迫る。
 言われるより速く身体が反応し、俺はその刃の上を飛び越えた。

(読める……動きが完全に見えてる!)

 回転しながら、影の後頭部へかかとを叩き込む。

 衝撃で鎧がひび割れた。

「今だ朱音!」

「任せて!」

 朱音が影の胴へ短剣を突き立てる。
 暗い煙が噴き上がり、影が揺らいだ。

「とどめだ……ッ!」

 俺は拳を振り下ろし、影を地面へ叩きつけた。

 砕け散る影。
 静まり返る空間。

【シャドウソルジャー討伐】
【経験値獲得:×10補正】
【レベル15 → レベル17】



 新たなウィンドウが輝いた。



▼レベルアップステータス(第8話後半)

==========
名前:神代晴斗
レベル:17
HP:96/96
MP:25/25
STR:34
VIT:27
DEX:31
INT:26
LUK:6

所持スキルポイント:3 → 4

特異スキル:
・【成長補正×10】
==========



 ステータス上昇の“衝撃”に思わず息を呑む。

(……強くなりすぎだろ俺)

 そのとき、後ろから悔しそうな声が聞こえた。

「なんで……なんで俺は戦えないんだよ……」

 蓮が拳を握り、震えていた。
 影の中で光るその目は、危険な色を帯びている。

(まずい……蓮が“暴走一歩手前”だ)

 朱音は表情を固くし、俺の袖を掴んだ。

「神代くん……蓮の精神、揺れてる。これ以上の刺激は危険よ」

(くっ……どうする)

 俺が蓮に向き直ろうとしたその時。

 ――ズズッ……!

 広間の奥。
 さらに濃い影が、ゆっくりと形をとり始めていた。

「まだボスが……!?」

 朱音が息を呑む。

 蓮はその影を見て、一歩……いや、二歩前へ踏み出した。

「俺が……倒す……! 俺が、強くならないと……!」

「蓮!! やめろ!!」

 だが蓮は聞かない。
 光に溶けるように――暴走の兆しをまとって影へ駆け出した。

(止めねぇと……あいつ死ぬ!!)

 俺は即座に駆け出す。

「蓮!! 待て!!」

 朱音の叫びが背中を押す。

「神代くん!! 今の蓮は――危険!!
 絶対に、一人にしちゃダメ!!」

 闇の奥。
 蓮を呑み込もうとする巨大な影が動き出した。

―――第8話 了―――
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