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パープルは二年前に出来た比較的新しいクラブだが、実は開店は一ヶ月ほど延びた。
当時、伊藤凛という四十代の女性が経営兼ママで始めるつもりだった。
始める前に念のために健康診断を受けたのだが、リンパ腺のがん、所謂白血病であることが判明した。
今の医学ではちゃんと治療すれば命には別状はないのだが、放射線治療とかで病院での治療の時間が長くかかり、店をやる自信がなくなったのだった。
既にいつでも開店出来る準備はできており、このままではママがいない状態で開店を迎えざるを得なくなる。
ただ代わりのママといっても、銀座のママは普通のママとは違い、なかなか代わりは出来ない。
それなりの美貌と人脈を持っている女性でなければ通用しないのだ。
そこで以前働いていたクラブのお得意さん宮本典雄に相談したところ、八坂志保を勧めてきた。
宮本は以前経営コンサルタントをやっていて羽振りは良かった。
今はジャパンプランニングという不動産コンサルタントをやっていた。
夜の店の事情には詳しく顔も広かったので、凛はしばらくの間ママを紹介して欲しいと宮本に頼んだ。
宮本は銀座の街に開店の時にママが代わるなどという話が広まったら、この店はすぐに閑古鳥が鳴くと言って、自分以外の人にはこの話はしないほうがいいと言い切った。
凛もそれはそうだと思い、宮本に一任したのだった。
八坂志保は以前他の街で雇われママをやったことがあるとかで凛に紹介したところ、凛がめっぽう気に入って、すぐに契約の話となった。
志保はママになるにあたって、雇われと他の人に知られるとママとしての品位が落ちるので、それだけは他言しないように求めた。
パープルのママとしての契約は次の通りだった。
①一月の給料は百万円プラス歩合とする
その歩合は売り上げではなく利益の30%
②利益が二ヶ月以上でない場合はいつでも解雇できる。
③ママとしての契約は二年とする
ただし延長は伊藤凛の体調を見てから決める
以上がパープルのママとしての契約だった。
後一ヶ月ほどで二年が経過する。
伊藤凛の体調は以前より遥かに良くなり、いつでも復帰できるところまで来ていた。
この二年足らずの間の志保のママてしての業績は凛が期待していた以上のものであった。
開店当時から利益は常に月五百万円以上出ていた。
経理も万全で誤魔化すところは何処にも見当たらなかった。
故に凛は志保に対して何も注文らしい事は言わずに全てまかせてきた。
だから本来ならばこのまま続けさせて行きたいところであるが、契約の二年が過ぎたら志保が給料の大幅な値上げを要求する可能性があった。
何故なら志保の給料は固定の百万円と歩合を含めるとゆうに二百万円は超える。
普通ならホクホクのところだが、銀座のママとなると洋服代とか持ち物、その他いろんなことにお金がかかる。
そして何より気を使う。
客のことを考えて、従業員の事、店の事、全てにおいて考え続けなくてはならない。
それを凛は良くわかっていた。
自分の店ならいざ知らず、雇われの身である。
だからこそ給料の話は現実な事だと凛は感じていた。
もちろん志保にとっても雇われママである事は割の良い仕事だとは思わなかった。
だが、志保たちには違う狙いがあった。
たちとは、志保だけではなく宮本も志保の仲間だった。
志保の仲間というよりは、志保が宮本の仲間と言った方が正解かもしれなかった。
宮本は実はデューク西城の名前で地面師の中では知らない人がいないくらいの詐欺軍団を束ねる詐欺師だった。
幾つも名前を変え、全国のあらゆるところに出没して詐欺を重ねていった。
五年以上前になるが一度捕まった事はあったが、証拠不十分で釈放されている。
特殊な技法で顔の一部を変えて、指紋は今流行のマニキュアで別の指紋に切り替わるように掌に塗っていた。
怪人二十面相のデュークとまで言われていて警察のマークもキツいはずだが、いとも簡単にそのマークを何時もすり抜ける。
そのデューク西城が今回志保と手を組んだのだ。
実はデュークと志保が組んだのは今回が初めてではない。
志保が二十代の半ばの五、六年前に一度組んだことがあった。
当時志保は地面師たるものが何であるかがよくわからないまま、デュークの言う通りに動いた。
志保が当時手にした額は三千万円ほどで、デュークにしてみれば大した額ではなかったが、志保にしてみれば汗水たらして働いても五年はかかる金額だった。
それから三年が経過した頃に、志保のもとにデュークから一本の電話が入った。
「今回は二年ほど時間はかかるかもしれないが、配当は二億は下らない。
どうだ、やってみるか?」
志保は携帯を手に取った瞬間から武者震いをしている自分がいることに気がついた。
志保はどっぷりと詐欺の魔力にハマってしまっていたのだった。
デュークは前回志保を起用してから(この女は使える)と瞬時に判断して携帯の記録を残していたのだ。
そして何度か銀座のクラブを中心にあらゆる店を回りながら情報を集めて、今回のパープルに話を繋げたのだった。
当時、伊藤凛という四十代の女性が経営兼ママで始めるつもりだった。
始める前に念のために健康診断を受けたのだが、リンパ腺のがん、所謂白血病であることが判明した。
今の医学ではちゃんと治療すれば命には別状はないのだが、放射線治療とかで病院での治療の時間が長くかかり、店をやる自信がなくなったのだった。
既にいつでも開店出来る準備はできており、このままではママがいない状態で開店を迎えざるを得なくなる。
ただ代わりのママといっても、銀座のママは普通のママとは違い、なかなか代わりは出来ない。
それなりの美貌と人脈を持っている女性でなければ通用しないのだ。
そこで以前働いていたクラブのお得意さん宮本典雄に相談したところ、八坂志保を勧めてきた。
宮本は以前経営コンサルタントをやっていて羽振りは良かった。
今はジャパンプランニングという不動産コンサルタントをやっていた。
夜の店の事情には詳しく顔も広かったので、凛はしばらくの間ママを紹介して欲しいと宮本に頼んだ。
宮本は銀座の街に開店の時にママが代わるなどという話が広まったら、この店はすぐに閑古鳥が鳴くと言って、自分以外の人にはこの話はしないほうがいいと言い切った。
凛もそれはそうだと思い、宮本に一任したのだった。
八坂志保は以前他の街で雇われママをやったことがあるとかで凛に紹介したところ、凛がめっぽう気に入って、すぐに契約の話となった。
志保はママになるにあたって、雇われと他の人に知られるとママとしての品位が落ちるので、それだけは他言しないように求めた。
パープルのママとしての契約は次の通りだった。
①一月の給料は百万円プラス歩合とする
その歩合は売り上げではなく利益の30%
②利益が二ヶ月以上でない場合はいつでも解雇できる。
③ママとしての契約は二年とする
ただし延長は伊藤凛の体調を見てから決める
以上がパープルのママとしての契約だった。
後一ヶ月ほどで二年が経過する。
伊藤凛の体調は以前より遥かに良くなり、いつでも復帰できるところまで来ていた。
この二年足らずの間の志保のママてしての業績は凛が期待していた以上のものであった。
開店当時から利益は常に月五百万円以上出ていた。
経理も万全で誤魔化すところは何処にも見当たらなかった。
故に凛は志保に対して何も注文らしい事は言わずに全てまかせてきた。
だから本来ならばこのまま続けさせて行きたいところであるが、契約の二年が過ぎたら志保が給料の大幅な値上げを要求する可能性があった。
何故なら志保の給料は固定の百万円と歩合を含めるとゆうに二百万円は超える。
普通ならホクホクのところだが、銀座のママとなると洋服代とか持ち物、その他いろんなことにお金がかかる。
そして何より気を使う。
客のことを考えて、従業員の事、店の事、全てにおいて考え続けなくてはならない。
それを凛は良くわかっていた。
自分の店ならいざ知らず、雇われの身である。
だからこそ給料の話は現実な事だと凛は感じていた。
もちろん志保にとっても雇われママである事は割の良い仕事だとは思わなかった。
だが、志保たちには違う狙いがあった。
たちとは、志保だけではなく宮本も志保の仲間だった。
志保の仲間というよりは、志保が宮本の仲間と言った方が正解かもしれなかった。
宮本は実はデューク西城の名前で地面師の中では知らない人がいないくらいの詐欺軍団を束ねる詐欺師だった。
幾つも名前を変え、全国のあらゆるところに出没して詐欺を重ねていった。
五年以上前になるが一度捕まった事はあったが、証拠不十分で釈放されている。
特殊な技法で顔の一部を変えて、指紋は今流行のマニキュアで別の指紋に切り替わるように掌に塗っていた。
怪人二十面相のデュークとまで言われていて警察のマークもキツいはずだが、いとも簡単にそのマークを何時もすり抜ける。
そのデューク西城が今回志保と手を組んだのだ。
実はデュークと志保が組んだのは今回が初めてではない。
志保が二十代の半ばの五、六年前に一度組んだことがあった。
当時志保は地面師たるものが何であるかがよくわからないまま、デュークの言う通りに動いた。
志保が当時手にした額は三千万円ほどで、デュークにしてみれば大した額ではなかったが、志保にしてみれば汗水たらして働いても五年はかかる金額だった。
それから三年が経過した頃に、志保のもとにデュークから一本の電話が入った。
「今回は二年ほど時間はかかるかもしれないが、配当は二億は下らない。
どうだ、やってみるか?」
志保は携帯を手に取った瞬間から武者震いをしている自分がいることに気がついた。
志保はどっぷりと詐欺の魔力にハマってしまっていたのだった。
デュークは前回志保を起用してから(この女は使える)と瞬時に判断して携帯の記録を残していたのだ。
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