詐欺るシリーズ「冤罪！幾重にも塗り替えられた真実」

ジェーン斎藤の目論見

その内容はこうだ。
一人の老人が死んだ。
原宿の郊外で古びた二階建ての築六十年は経っている百坪に満たない庭付きの家に住んでいた。
その家には老夫婦が住んでいたが、昨日夫人の方が自宅でひっそりと亡くなったのだった。
旦那は日比野誠司という名だ。
二人には子供がおらず親戚らしい親戚も近くにはいないとのことで、葬式はひっそりとするということだった。
その情報くらいなら誰も飛びつくような情報ではないように思えてしまう。
だが、その情報こそがジェーン斎藤にとって二つの大変意味のある情報になっていたのである。
一つは長い間連れ添っていた夫人が昨日死んだこと。
二つめは子供はいなく近くに親戚も住んではいないということだった。
無論ターゲットを定めてから周到に詐欺をするのが奴のやり方だったが、今回はそのターゲットに予定外の事態が生じた。
地面師詐欺を実行するのにはかなりの準備期間が必要になる。
最初にターゲットにしたのは池袋に住む四十代の男性で、三年前に父親をなくして今は独り者であった。
駅から少し離れた場所に父親が建てた築五十年ほどの家に住んでいた。
家は五十坪ほどだが庭があり、それを合わせると百坪を少し超えた。
ジェーン斎藤はその男の土地に目をつけて、地面師詐欺を企んでその為に偽の不動産会社を設立したのだ。
用意周到でいざ始めようかとの時に、事もあろうに他の不動産会社にその土地を売ってしまったのだ。
その土地を売るという情報はどこの不動産屋にも入っていなかった。
何でも急にお金が入りようになったらしく、ジェーン斎藤の地面師詐欺の目論見は変更せざるおえない事態になっていた。
そこにこの新谷の話だった。
前もって新谷に情報屋の白羽の矢は立てていたジェーン斎藤はこのターゲットを終えてからゆっくりと仲間に誘う予定だったが、詐欺のための不動産物件を借りてから早三ヶ月目に入っていた。
いくら準備資金とはいえ、何ヶ月間も借り続ける費用はできることなら避けたいのは当たり前のことだ。
というわけで、ジェーン斎藤にとってはまたとない話だったのであった。
その話を聞いたジェーン斎藤はすぐに準備にとりかかった。
まず、日比野誠司について詳しく調べあげなくてはならなかった。
どんな人間なのか？
近所との人付き合いは？
親戚の有無？
調べることは多岐に渡る。
まずは日比野宅の土地価格を調べた。
郊外といってもやはり原宿である。
近くにファミレスやコンビニもあり、地価は安く見積もっても坪三百万円は下らない。
建物は古い為土地だけの値段になるが、普通なら三億円が相場だろう。
もちろん銀行等の抵当には入っていない。
それくらいの金額の詐欺になれば不動産資金等の準備資金は楽に回収できる。
次はすぐに日比野との接触を試みた。
どんな人物なのかを知らなくてはならなかったからである。
ジェーン斎藤の地面師詐欺のやり方は準備周到で進めることをモットーにしていた。
失敗すれば何もかも失ってしまう。
もちろん捕まれば塀の中に入らなければならないのは当たり前のことだ。
どんな事をしてでも針の穴の綻びも見逃すわけにはいかないのだ。
ではどのようにして日比野との接触を試みたのであろう？