詐欺るシリーズ「冤罪！幾重にも塗り替えられた真実」

ドロン

誠司の死体を偽名で買った山に埋めてきた後、土地の売買に取り掛かった。
ジェーン斎藤にとって今回はいつもの地面師詐欺よりも遥かに簡単な売買だった。
何故なら、土地の売買契約の相手を見つけて、偽の日比野誠司を用意しその人物に売買契約をさせれば良かったからだ。誠司の年齢と風貌の似た人物を手配師に見つけさせ演技を指導し、誠司自身に成りすませる。
生い立ちから、分かりうるすべてのことを覚えさせて、相場の八割程度の二億五千万円で不動産屋に売った。
買い手の不動産屋もその額なら十分儲けがあると判断してすぐにその話にのったのだった。
不動産屋がその土地を買った後に日比野誠司が行方不明だと分かり警察が調べに入ったが、それ以降の事は警察も調べようが無い状況であった。
その知らせが新谷の耳にも入ったのはジェーン斎藤が日比野誠司の土地を売ってから一週間後の事である。
新谷には一週間前に不思議な出来事があった。
新谷の通帳に百万円が振り込んであったのだ。
振込先の名義は笠井という名の人物からであった。
新谷は笠井という名の知り合いは、馴染みのバーのあの笠井しか思いつかなかった。
しかし何故あの笠井が、百万円もの金を自分に振り込んできたのか検討もつかなかった。
またどうやって自分の口座を調べあげたのだろう？
考えれば考えるほど、答えは見えない。
振り込みのあった日から三日ほど経ってキャッシュカードで生活費を下ろした時に、口座の残高があまりにも多かったので、不思議に思い通帳を記帳して見て初めて振り込まれていたのを知ったのだ。
新谷は通帳を記帳した日にすぐに笠井の名詞に記載されていた携帯番号に連絡を入れた。
携帯は留守電になっていた。
何度か掛け直したが留守電のままだ。
何だか気味が悪い感じがして、その夜馴染みのバーに顔を出した。
馴染みといっても一年ほど前から月に二、三度行く程度であった。
最近仕事が忙しく、ここ二週間ほどご無沙汰だった。
ドロンという名のバーで、マスターがたまに雲隠れできるようにその名にしたらしい。
新谷がドロンのドアを開け中に入ろうとした時、背筋に冷たい汗が走った感じがした。
同時に武者震いである。
今までに感じたことのない震えを抑えながらドアのノブを回した。