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第三幕
10 幸せな時間*
しおりを挟む野原の中は気持ちがいい。心落ち着いた。
温かくて、狭くて、擦られる感覚に身体中が逆立つみたいだ。
「……はぁ……あっ」
待ち望んでいた感覚に自然と吐息が漏れる。槇が感じているものと、野原の感じているものが一致するのかどうかはわからない。
だけど槇を受け入れて目を閉じる野原は、魅惑的に見える。
「雪は本当。いやらしいね……」
繋がり合いながらも、彼の頬に両手を添えて口付けを繰り返した。最初のキスよりもねっとりとした唾液を、音を立てて吸い上げた。
「は……っ、実篤……っ」
唇を離し、野原の目を覗き込みながら軽く笑むが、本当はもう余裕がないのだ。腸の粘膜は槇に吸い付き、上手く抜き差しできない。だが、それがまた彼を刺激するからだ。
「やばい……いつもより吸い付くな。場所で興奮する訳?」
「知らない、そんなの……んっ……ッ」
「自分の身体のこともよくわからないんだから……雪は。ごめん、加減できそうにないわ」
膝裏に両腕を差し込んで持ち上げ、野原の腰を少し引っ張り上げて、高い位置から深々と突き下ろす。
「あ……っ、んっ」
野原は慌てて両手で口元を抑えるが、槇にはもうそんな余裕などない。突き下ろしたものを抜き上げてから、再度突き下ろす。
ゆっくりとした抜き差しに堪えきれないように、野原は喘いだ。
彼はなにも感じない人間ではない。感じたものが、どんな意味をなすのか分からないだけ。
涙が溢れていた。自分もそうだ。息が上がって視界がぼやけた。
「気持ちいいよ。雪……っ」
角度を変えて焦らしてやる。
野原の好きなところを刺激しない自分は意地悪だと思いつつも、焦らしたい。
「ん……うん」
「突いて欲しいか?」
「……実篤は、意地悪……」
そっと伸びてきた野原の白い腕が首に回った。その仕草だけで心が躍る。受け入れられているという嬉しさ。
一度は焦らしてやろうと思った気持ちなど、どこかに飛んでいく。
ふと笑みを浮かべて、それから野原の好きな場所にそれを押し付けた。
「はっ……あ、ん」
漏れ出る声を抑えようと手で塞いでも間に合わない。嬌声は止まらないのだろう。
「やばい。雪と一緒で、こんなところでって思うとそれだけでイキそう」
「……はっ、は、あ……ッ」
——気持ちがいい。罪悪感は快楽を増長させるのか。
冷静にそう分析する自分と、快楽で溺れてしまっている自分と。野原の中でうねったかと思うと、槇は絶頂を迎えた。
「……つっ!」
——だけどまだ。
ドクドクと注ぎ込んだ液体の熱さを感じ入りながら、肩で息をする野原のモノを握り込む。ビクっとした野原は槇の腕を掴んだ。
「だ、ダメだ。外に出したら……っ、汚す」
「じゃあここに出せばいい」
槇は野原を口で咥え込んだ。
「んッ」
限界ギリギリの野原は、容易に槇の口へ白濁の液を放出した。
「は、ッあぁッ」
ぐったりとした瞳で見返す野原に液体で濡れた唇で口付けた。
「やばい、これ。くせになりそう」
「——ダメ。もうここにはこない」
「嘘だろう? いつもより感じてたくせに」
「実篤は非常識」
頬を膨らませてみると、野原の細い指が汗で張り付いた前髪をそっと掻き分けてくれた。
「実篤は小学校の頃からちっとも成長がない」
「な、なんだよ。そう言うお前、だって……」
「なに?」
——いや。野原は変わった。
小さい頃の陰気な静かな子ではない。
雪白の肌は艶かしい。
すらりと伸びた首や指先は気品があり、その辺の人間とは違った雰囲気を持つ。
そして、瞳は淡い緑色で吸い込まれそう。
子供の頃、一人で読書ばかりしている彼と今の彼は違っているのだ。成長していないのは自分か。いつも同じワンパターンで呆れる。
「お前は変わった」
「え?」
槇はそっと野原の頬を撫でる。
「お前は綺麗になった」
「それって、女性への褒め言葉?」
「違う。本当のこと……」
弱い自分を大きく見せたくて虚勢を張る。見栄っ張りで、プライドが高くて嫌な男だって自分でもわかっている。
だけど野原への想いだけは素直。
槇はじっとしている野原を抱きとめて、幸福な時間を堪能した。
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