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第四幕
01 お洒落と寝ぐせの違い
しおりを挟む——昨日は散々。
結局、保住を誘い出して自分たちの味方に引き込むという槇の作戦は大失敗。しかもそのまま料亭でなんて、いつも平坦で起伏のない彼の感情でも、流石に虫の居所が悪いようだ。
——ああ、お菓子が食べたい。
野原はじーっと引き出しを眺めた。彼は三度の飯よりもお菓子が好きだった。お菓子を食べていると心が落ち着くのだ。本当は活字が欲しい。
本を読みたくて仕方がない衝動をどう抑えるのか?
それは社会人になった野原の最大の課題でもあった。当初は業務に関するあらゆる活字を読んで気を紛らわせた。
しかしそれもすぐに限界が来る。
そうしたときに発見したのが『お菓子』だった。こそこそと少しずつ食べている行為も、昇進と共に大胆になるものだ。
前職では、最終的にお菓子が手放せなくなった。口うるさく注意してくる輩には、お菓子を渡しておけば多少は大目に見てくれることも学んだ。
しかし、文化課に配属されてから、いまだにお菓子を食べるという行為を封印しているのは、槙にきつく咎められているからだった。
——まだ課長になったばかりなんだ。お菓子なんて食べているなよ? なめられるぞ。
「そうは言うけど……」
こっそり少しだけ隠している引き出しの中にあるチョコレートが気になって仕方がない。野原の場合、お菓子を食べているほうが、集中力が上がって効率的に業務が進むのだ。
コーヒーを飲んだり、たばこを吸ったりして気分転換をしている職員と同じようなものだ。
引き出しにしまわれているお菓子たちを想像するだけで、心がドキドキする。
——食べたい……。
そんな衝動に駆られ、一人で葛藤をしている状況だが、周囲から見たら彼は、じっと引き出しを見つめているだけ。
そう、野原の見た目は微塵も変化がないのに、心の中は嵐のような葛藤が起きている。それが野原を無機質でAIロボと言わしめる理由だ。
なにも感じていないわけではない。感じていることが表に出ない。そして、それの意味がわからない。
少しイラついた気持ちでいると、ふと保住に視線が止まった。
彼は、昨晩遅かったせいなのか寝ぐせがひどい。いや、遅くなくともいつも寝ぐせはひどいのだが……。今日はいつになく頭頂部の髪が跳ね上がっていた。
「保住」
さっそく名前を呼ぶと、彼はいつもにも増して不機嫌極まりない表情でやってきた。
「おはようございます。なんでしょうか? 課長」
機嫌の悪そうな人間にあえて突っかかっていく必要はない。しかし、課長として服装の乱れについて無視するわけにはいかなかった。野原は保住の頭を指差した。
「服装や身なりの乱れは困る。なんだ、その頭は」
保住は野原を冷ややかに見つめてきた。
普通の人間だったら嫌な気持ちになるのだろう。しかし野原には関係ない。ただじっと彼を見上げた。
保住は野原をまっすぐに見つめたままぶっきらぼうに答えた。
「これのどこが乱れだと言うのです?」
「なに?」
——乱れじゃないって、どういうこと?
野原は目を瞬かせた。
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