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第四幕

02 興味の対象

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「お洒落に決まっているではないですか。野原課長。お洒落に疎いとは知りませんでしたね」

 保住の声は大きい。総務係や文化財係の職員がくすっと笑い出すのがわかったが、野原は困惑した。

「——お洒落?」
 
 ——そっか。そういうお洒落があるの? いやいや。どう見てもお洒落には見えないけど。

「あまり流行を知らなすぎるのはよくない。品格を疑われますよ。いつまでも昭和気取りではね」

 保住はさも筋の通った話し方をする。

「田舎くさい見てくれはよくないですよ。野原課長」

 田舎臭い見てくれと、お洒落の違いがわからない。野原は考え込んでしまった。そして周囲は、保住の意見に賛同しているように見受けられた。

「少しくらいいいよな」

「課長は厳しいんだよ」

「お洒落にしたっていいじゃない」

 そんな言葉が耳を突くが、野原は首を傾げた。みんなが自分を非難するような目で見ていたとしても、全く気にならない。野原は自分の中での結論を出すと、真っ直ぐに保住を見据えた。

「お洒落とは気の利いた服装のことをさす。おれは、その寝ぐせが気の利いた髪型とは思えない。それこそ、お前の品格を落とす。忠告してやったが、そう言い張るのであればそのようにしておけ。戻っていい」

 野原の回答に保住は面白くないなさそうに視線を逸らして頭を下げた。

「ありがとうございます」

 戻っていく保住の後ろ姿を見ながら、「あれがお洒落……」と何度か呟いた。

 保住という男は優秀だ。部下たちに囲まれている。どんなに難しい案件でも顔に出すことなく、飄々とこなす。野原は彼に興味があった。槇のような無粋なことを抜きで。

 確かに、副市長である澤井から何度も電話が来ているのは知っている。一係長宛てに、部長、次長、課長を飛び越して連絡が入ることは絶対にないはずなのに——だ。

 しかし、彼は澤井には大した興味を示していない。むしろ、保住が大事にしているのは……。彼の隣に座っている部下の田口という男だ。

 見た目は大型犬。身長は190センチメートルを超えているのだろうか? 少し屈んで出入口を通っている姿は、気の毒にも見える。ラブラドール犬みたいに、体が大きいくせに目が優しい。いつも保住に付き従って熱心に仕事に取り組んでいる。他の職員にはないような、素直さが見て取れた。

 だからなのだろうか。野原は純粋に保住と田口に興味があった。
 お菓子のこと、保住や田口のことを考えてぼんやりとしていると、別室いる事務局長の佐久間が顔を出した。



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