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第四幕
09 流刑地
しおりを挟む一時間ほど説明を受けてから事務所に戻ると、水野谷がワクワクした顔をして待っていた。
「どう? 野原……じゃなかった。課長」
「やめてください。呼び捨てで結構です」
野原は手元に持っていた発議書、見積書に視線を落としてから頷いた。
「星野さんの説明はよくわかりました。どれもこれも星音堂の質を維持するには必要であると理解しました。議会でなんとしても通したいと思います」
「わ~! 野原にそう言ってもらえると嬉しいな。頼りにしているよ」
「精一杯の努力はいたします」
「よろしくね」
「それでは、仕事がありますので」
「うん。また遊びにきてね、あ、後、これ」
そう言うと、彼はチョコレートを取り出した。
「野原好きだよね。お菓子」
野原の顔がぱあっと明るくなった。
「お駄賃ね」
「課長、大の大人にお駄賃って」
星野は呆れた顔をしたが、野原は嬉しそうに頭を下げた。
「ありがとうございます」と微笑んでから袋を受けった。事務所をあとにして、正面玄関から外に出ようとしたとき、水野谷が後ろから声をかけてきた。
「そうだ。野原。時間があるときに、また行こうか?」
「はい」
水野谷と同じ部署だったころ、よく飲みにつれて行ってくれた。そして、仕事のノウハウを教えてもらったものだ。きっとそのことだあろう。
野原はお菓子を抱えて、そのまま田口を引き連れて駐車場に続く道に出た。
残暑も終わり秋の気配が訪れている森林が目前に広がった。野原はふと足を止めた。
「課長?」
後ろからついてきた田口が声を上げる。
——意外だった。想像が外れた。星音堂とは、本庁では「流刑地」とも呼ばれてる。
一度配属されたら余程のことがないと復帰できない場所。
市役所の異動は通常は三~五年。係長クラスは三年。課長クラスになると二年程度。かなり頻繁に動かされるのだ。
しかし、なぜか星音堂に配置されるとそれ以上置かれることが多い。
——あの星野という職員は何年ここにいるのだろうか。
みんなが「あそこに行ったら終わりだ」と言っているのを聞いたことがある。だから、大好きな水野谷が星音堂勤務になった時、野原なりに心配したことを思い出す。
——だが、どうだ。ここにいる職員たちは、本庁のいい加減な職員よりもきちんと仕事をこなす。施設のことを詳細に把握し、良さも悪さも知っている。施設の活かし方を知っている。意外だった。
「星音堂に勤務することは、恥ずべき事と習うものだが。こんな場所で勤務が出来るなら本望だな」
田口に言っても仕方がないのに。つい、思っていることとして、言葉が口をついた。
すると、ふと後ろから田口の声が聞こえた。
「課長は無理をなさっていませんか」
——どういうこと?
意外な言葉にはったとした。
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