ばかな男は恋で賢くなるのか?

雪うさこ

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第三幕

06 賢い男

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 しかしそんな槇の警戒などと裏腹に、保住は槇をまっすぐに見据えたままだ。

「話がわかる人間は好きだ」

 槇の言葉に保住は目を細めて冷たい表情をした。

「あなた方はなぜそんなに澤井が嫌いなのですか」

「軽蔑の気持ちを持ち合わせている君なら、理解してくれていると思っているのだがね。安田は年を取り過ぎた。今では澤井の言いなりだ。今の梅沢うめざわ市役所は澤井が思うように動かしているのだぞ? 
 お前だって梅沢市のことを思って身を粉にしている人間の一人なのだ、わかるだろう?」

 保住は身じろぎもしない。
 本当に度胸のある肝が座った男だと思った。

 安田お抱えの自分は、確かに職員とは関係ないと言えば関係ない。ただ大概の職員は、槇に対して一目置いてくるのが普通だ。槇の機嫌を損ねれば、市長に言いつけられかねないという心理が働くからだ。

 なのにこの保住はそんなことは関係ないとばかりに、堂々と切り返してきた。

「あなたがそんなに梅沢を愛しているようには見えませんね。それよりも、ただ単に梅沢を動かす権力を欲しているようにしか受け取れない」

「権力ね。そういう解釈もあり得るだろう。結果的に澤井が失脚すれば、おれが手に入れるのは権力それだからだ。ただ私欲ではない。おれは梅沢のことを心底考えている男だ」

 自分で言って笑ってしまう。梅沢のためなんて、よく言えたものだ。
 保住の指摘が正しいのに、強引に押し切る。はったり勝負も大事だからだ。

 しかし保住はそんな手には乗らないようだ。相変わらず怪訝そうな顔をして槇を見ていた。

「こんな小さな田舎町なのに? あなたは梅沢が本当に好きなのですか? 申し訳ないですけど、あなたのその言葉には、『自分かわいさ』しか伝わってきませんよ」

 やはりバレている。

 ——前言撤回。これだから、頭のいい人間は嫌いだっ!

「なんとでも言いたまえ。しかし、現実から目を逸らすな。澤井は力を持ちすぎている。澤井派の連中以外にもお前まで手中に納めて、これからの保住派も掌握しようと画策しているのだ。今の市役所内で彼の思い通りにならないことはない」

「ですから。おれはそういう派閥には興味がない」

 そこで槇との押し問答では埒があかないと判断したのか野原が口を挟んだ。

「お前は澤井が嫌い。悪い話ではない。我々に協力しろ」

 保住は、槇から野原に視線を移したかと思うと、今度は野原に向かってよく通る声で言い放った。



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