55 / 83
第六幕
02 時間の無駄
しおりを挟む槇は副市長室の扉を蹴り飛ばして入り込む。書類の山に埋もれている澤井は、槇の登場に苦笑した。
「おやおや。どうされましたか。槇さん。血相を変えて」
「市長から聞いた! 雪を……野原を星音堂に異動させる話が出ているというが、一体どういうことなのでしょうか」
澤井は眼鏡を外し、それからくつくつと愉快そうに笑った。
「市長は人事に口出しはできませんよ。槇さんも然り。お立場を忘れて取り乱すなんて……これは一興」
「……っ」
後先考えない性格が祟った。槇は我に返ったが、もう遅い。澤井は書類を置くと、立ち上がってから槇を応接セットに促した。
応接セットとは名ばかりの書類が山積みの事務テーブルの様相だが……。
「そう心乱してはいけませんよ。いい大人でしょう?」
「……どうせガキだ」
澤井はソファに背中を預けると、槇を言い含めるかのように声色を和らげた。
「久留飛からの忠告だろう。槇さんを抱き込みたいのでしょうな。あいつは次期市長に安田の続投を推進している」
「だったら、こんな脅迫まがいのことをしなくとも、協力するのに……」
「しかしあなたは惑っておられるのだろう? なかなか返答もない。しびれを切らしているのでしょうな」
「澤井さん……ずいぶんと詳しいな。あんたの差し金か」
槇の言葉に、澤井は呆れた顔をした。
「やはり、あんたはバカで浅はか」
「う……」
——バカとかガキとか、本当怒る気にもならないな。
「しかし、そうは言うが。当の本人である野原は、この話には乗り気らしいではないか。本人が良しとしているものに、我々が口を出す必要性は見出せないが」
「え? 雪が……? 星音堂に異動を受け入れているというのか?」
「そうだ。そう聞いている。『尊敬すべき水野谷課長の後任は自分が勤めたい』と話しているそうだが。——おやおや。本人に確認してはいかがかな? それともお話できない事情があるのか?」
愉快そうに笑うのは止めて欲しい。自分だって聞けるものなら聞きたい。槇は黙り込んだ。
「——聞けるものなら聞いている」
「ほほう。喧嘩中とは。無駄な時間を使うものですな」
「無駄だと?」
槇はむっとして澤井をにらむ。しかし、彼は動じることもなくにやにやと笑みを見せた。
「無駄だろうが。早く仲直りされたほうがいいのではないか? 絶対という言葉はこの世には存在しない。確固たるものにするには、努力が必要である。努力を怠ったつけは、自分自身で支払うことになるのだぞ」
「澤井さんに、なにがわかるというのです?」
しかし澤井は、ふと表情を陰らせた。
「おれは痛いくらい、何度もそんな思いをしてきた。この年になって後悔しても遅いものだ。若い奴らはそんなことも理解していない。みなそうだ。槇さんも然りだな」
「——あなたは、一体……」
彼は思いを馳せていたが、ふと瞳の色を戻してから表情を変えた。
0
あなたにおすすめの小説
シスルの花束を
碧月 晶
BL
年下俺様モデル×年上訳あり青年
~人物紹介~
○氷室 三門(ひむろ みかど)
・攻め(主人公)
・23歳、身長178cm
・モデル
・俺様な性格、短気
・訳あって、雨月の所に転がり込んだ
○寒河江 雨月(さがえ うげつ)
・受け
・26歳、身長170cm
・常に無表情で、人形のように顔が整っている
・童顔
※作中に英会話が出てきますが、翻訳アプリで訳したため正しいとは限りません。
※濡れ場があるシーンはタイトルに*マークが付きます。
※基本、三門視点で進みます。
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
幼馴染みとアオハル恋事情
有村千代
BL
日比谷千佳、十七歳――高校二年生にして初めて迎えた春は、あっけなく終わりを告げるのだった…。
「他に気になる人ができたから」と、せっかくできた彼女に一週間でフられてしまった千佳。その恋敵が幼馴染み・瀬川明だと聞き、千佳は告白現場を目撃することに。
明はあっさりと告白を断るも、どうやら想い人がいるらしい。相手が誰なのか無性に気になって詰め寄れば、「お前が好きだって言ったらどうする?」と返されて!?
思わずどぎまぎする千佳だったが、冗談だと明かされた途端にショックを受けてしまう。しかし気づいてしまった――明のことが好きなのだと。そして、すでに失恋しているのだと…。
アオハル、そして「性」春!? 両片思いの幼馴染みが織りなす、じれじれ甘々王道ラブ!
【一途なクールモテ男×天真爛漫な平凡男子(幼馴染み/高校生)】
※『★』マークがついている章は性的な描写が含まれています
※全70回程度(本編9話+番外編2話)、毎日更新予定
※作者Twitter【https://twitter.com/tiyo_arimura_】
※マシュマロ【https://bit.ly/3QSv9o7】
※掲載箇所【エブリスタ/アルファポリス/ムーンライトノベルズ/BLove/fujossy/pixiv/pictBLand】
□ショートストーリー
https://privatter.net/p/9716586
□イラスト&漫画
https://poipiku.com/401008/">https://poipiku.com/401008/
⇒いずれも不定期に更新していきます
【R18+BL】空に月が輝く時
hosimure
BL
仕事が終わり、アパートへ戻ると、部屋の扉の前に誰かがいた。
そこにいたのは8年前、俺を最悪な形でフッた兄貴の親友だった。
告白した俺に、「大キライだ」と言っておいて、今更何の用なんだか…。
★BL小説&R18です。
必要だって言われたい
ちゃがし
BL
<42歳絆され子持ちコピーライター×30歳モテる一途な恋の初心者営業マン>
樽前アタル42歳、子持ち、独身、広告代理店勤務のコピーライター、通称タルさん。
そんなしがない中年オヤジの俺にも、気にかけてくれる誰かというのはいるもので。
ひとまわり年下の後輩営業マン麝香要は、見た目がよく、仕事が出来、モテ盛りなのに、この5年間ずっと、俺のようなおっさんに毎年バレンタインチョコを渡してくれる。
それがこの5年間、ずっと俺の心の支えになっていた。
5年間変わらずに待ち続けてくれたから、今度は俺が少しずつその気持ちに答えていきたいと思う。
樽前 アタル(たるまえ あたる)42歳
広告代理店のコピーライター、通称タルさん。
妻を亡くしてからの10年間、高校生の一人息子、凛太郎とふたりで暮らしてきた。
息子が成人するまでは一番近くで見守りたいと願っているため、社内外の交流はほとんど断っている。
5年間、バレンタインの日にだけアプローチしてくる一回り年下の後輩営業マンが可愛いけれど、今はまだ息子が優先。
春からは息子が大学生となり、家を出ていく予定だ。
だからそれまでは、もうしばらく待っていてほしい。
麝香 要(じゃこう かなめ)30歳
広告代理店の営業マン。
見た目が良く仕事も出来るため、年齢=モテ期みたいな人生を送ってきた。
来るもの拒まず去る者追わずのスタンスなので経験人数は多いけれど、
タルさんに出会うまで、自分から人を好きになったことも、本気の恋もしたことがない。
そんな要が入社以来、ずっと片思いをしているタルさん。
1年間溜めに溜めた勇気を振り絞って、毎年バレンタインの日にだけアプローチをする。
この5年間、毎年食事に誘ってはみるけれど、シングルファザーのタルさんの第一優先は息子の凛太郎で、
要の誘いには1度も乗ってくれたことがない。
今年もダメもとで誘ってみると、なんと返事はOK。
舞い上がってしまってそれ以来、ポーカーフェイスが保てない。
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
恋を諦めたヤンキーがきっかけの男と再会する話
てぃきん南蛮
BL
荒垣は校内で最も悪名高い不良生徒だ。
しかし、ある日突然現れた優等生・寺崎に喧嘩を挑んで返り討ちにされてしまう。
寺崎にリベンジすると決心した荒垣だったが、何故か次第に恋心を抱いてしまい──
8年後。
社会人となった荒垣は偶然行き倒れていた美形を拾ってしまう。
その人物は、かつて恋心を抱いた寺崎本人だった。
冷淡な優等生×バカなヤンキー
からの
過労気味国家公務員×家庭系土木作業員
悠遠の誓い
angel
BL
幼馴染の正太朗と海瑠(かいる)は高校1年生。
超絶ハーフイケメンの海瑠は初めて出会った幼稚園の頃からずっと平凡な正太朗のことを愛し続けている。
ほのぼの日常から運命に巻き込まれていく二人のラブラブで時にシリアスな日々をお楽しみください。
前作「転生して王子になったボクは、王様になるまでノラリクラリと生きるはずだった」を先に読んでいただいたほうがわかりやすいかもしれません。(読まなくても問題なく読んでいただけると思います)
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる