ばかな男は恋で賢くなるのか?

雪うさこ

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第六幕

03 勝てるはずがない

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「久留飛に付くのもよかろう。しかし、おれに付いてもよいのだぞ?」

「あなたに……ですか? しかしあなたは安田下ろしの筆頭では……」

 澤井は口元を歪めて笑った。

「おれはね。そんな目先のことなんてどうでもいいんですよ」

 ——どうでもいい、だと?

「槇さん。おれはね。人生をかけて成し遂げたいものがあるのだよ」

「人生をかけてって……一体、あなたはなにを成そうとしているのですか」

「それは、あなたには言う必要もないこと。だがしかし、おれの行動すべてがそれに繋がっているのだ」

 澤井と言う男は、槇の想像を絶する男だった。

 ——自分の人生をかけるだって? 澤井はおれをバカというが、この男こそ正真正銘のバカ。

 違いすぎた。腹のくくり方が。槇のそれと澤井のそれとは、違いすぎる。

 ——勝てるはずがない。

 そして、それは、久留飛のそれとも違って見えた。

 槇は、自分が相手にしようとしていた男の底知れぬものを理解し、恐ろしくなった。しかし、その恐れは久留飛に対するものとは違っていた。

 澤井の成そうとしていることがなにかはわからない。しかし、澤井という男は、器も大きく、敵である槇のことまで懐に入れようというのか。そんな槇の心中など知る由もない澤井は笑みを浮かべて槇を見据えていた。

「どうだ。悪いようにはしないぞ。久留飛にするのか? おれにするのか? それとも、誰も選ばずに行くのか? ああ、それもまたいい。己のみを信じて突き進むか? 若人よ」

 澤井は正直に言って楽しんでいるようにしか見えない。槇は内心むっとしながら澤井を見据えた。

「あなたは成し遂げたいことがあると言うが、あなただって退職タイムリミットが目の前に迫ってきているのではないですか」

 澤井は大きな声で笑い出した。

「やはり、槇さん。あんたは浅はか!」

 ——悪かったなっ!

「おれはね、そう易々と市役所こことおさらばするつもりはないんだ。あなたもそうでしょう? 違いますか」

「それは……確かに安田は年だ。だが、おれは次期市長選にも安田を推すし、そして当選をさせてみせる」

「頼もしい私設秘書だ」

 はったりばかり。本当は自信がない。だから、久留飛に従ったほうがいいのかもしれない。澤井は安田以外の市長を推すと言われている。だからこそ、澤井を下ろして……そう思っていたのに。

 ——澤井に付くのか? おれが?

「これ以上詳しいことは言えないがな。お前がおれに付くというならば、悪いようにはしない。それだけは約束しようではないか。野原のことも含めてな」

 槇はどうしたらいいのかわからなかった。廊下に出て一人になると、足が震えた。

 いつもは野原がいてくれる。彼に相談すれば、なんとでもなった。野原が自分を支持してくれているというだけで、心に自信が持てた。なのに。今は——。

 ——あいつはいない。星音堂せいおんどうに行くだって? なに考えてんだよ。あいつ……。

 槇はイライラする気持ちを持て余していた。



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