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第六幕
14 嫣然*
しおりを挟む「雪は変わった」
槇を受け入れながら見上げてくる瞳は、濡れていてゾクゾクした。
「な……に?」
「おれは、いつまでたってもガキみたいなもんだ。叔父さんがいないと、なにもできない情けない男だ。雪はちゃんと仕事して、ちゃんとここまで自分の居場所を作り上げてきたじゃないか」
「それは」
「おればっかり置いてきぼりで、なんだか情けなくて。ごめん。お前に甘えてばっかりな」
——そうだ。いつもそう。
「ねえ、実篤……」
野原は槇の首に腕を回して引き寄せる。体が近づいて、更に奥深くまで繋がり合う感覚に、野原は一瞬息を飲んだ。
そして彼の耳元で囁いた。
「そういう謝罪の言葉は、終わってから、ちゃんと土下座して言って」
「な……っ、雪っ!」
こんな雰囲気も度外視してしまう野原に笑うしかない。
「お前ねえ……萎えるから、本気でやめてよ……」
——涙出るだろう!
「実篤が土下座して、泣くの見てみたい……」
「このサドっ! 加減なんてしてやんないんだからなっ」
耳まで真っ赤にして、怒って見せても関係ない。
「いいよ」
いつも無表情だった野原は口元に微笑を浮かべていた。
——ああ、やはり野原は変わった。
昔の無機質な彼ではない。無理矢理犯そうとする槇に対して「やめて」と言った。
昔の彼だったら、なにごとも受け入れてしまっていただろう。いじめすら黙って受けていた男だ。
それが「やめて」と言った。激情に駆られていて気が付かなかったが、初めて見た。
今までは時々、悪戯めいたことをすると「ダメ」と言ったことはある。料亭でセックスをしたときだって、「こんなところで」とは言ったが、結局は自分を受け入れてくれた。なのに、今回は違った。
それに、この笑顔——。
拘束されたままの腕を自分の首に回し、耳元で息をする野原はまた違って見えた。自分と離れている時間、彼になにがあったのか、槇には知る由もない。しかし、それは確実に野原をまた人間らしく変化させている。
大人になってからの彼の変化は目まぐるしくて、槇はついていけていない。いつも自分が面倒をみているつもりだったのに、結局は面倒をみてもらっていたという事実。
——おれ、本当にバカ。澤井に言われても無理もない。
「何度でも出したい。——いいだろう? 雪」
——ああ、浅はか。でも、おれは雪のために賢くならなくてはいけない——。
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