【小説版】妖精の湖

葵生りん

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2章

夢幻泡影6☆

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「………ふ、……ぁ……」

 男の人にしては細身けれども、やはり大きなアレスの手が柔らかく胸を包み込んで、首筋に舌が這う。手も舌も、どちらもすごく熱くて、触れられたところからその熱が伝染するみたいだった。
 高熱が出た時みたいに体が熱くて、悲しいわけでもないのに瞳が潤んで、意識がふわふわしている。
 手が腰に下がって産毛をなぞるように撫でられ、唇も少しずつ下がって胸に噛みつくようなキスをする。

「……は、……ぁ……あっ、…ん……あんっ!」

 靄がかかったような意識の中でも、自分のじゃないみたいな声が次々に口からこぼれ出すのがたまらなく恥ずかしかった。声を出すまいと思っても、唇は全然閉まっていてくれない。
 やむなく口元を手で押さえようとすると、腕を、強く掴まれた。

「そのかわいらしい声、もっと聞かせてくれ」

 獣のような激情を奥に秘めた目に見つめられ、どくんと心臓が飛び出しそうなくらい脈打った。

「……でも――や、あっ……あぁっ!」

 彼は返事を待ってはくれなかった。
 耳を、胸の先をかじり、痛いくらいに胸を揉んで拒否の言葉を封じると、満足そうに笑う。

(あぁもう……この人は!)

 その笑顔はまるでいたずらっこみたいにちょっと意地悪なのに心底楽しそうで、いつもなら見せない表情にきゅんとしてしまうからたちが悪い。

「………ディーネ………」

 しかもしっとりと甘い声で名前を呼ばれると、既に全身が熱いのにさらに体温が上昇してしまう。
 特に躰の奥――初夜に彼が触れたところがじんじんと疼くようだった。よくわからない違和感に思わず両足をこすり合わせてしまうと、それを目敏く見つけたアレスはにやりと意地悪な笑みを深め、すかさず手を滑り込ませてきた。

「ひゃっぅ……、う……――っ!」

 初夜の時は痛かったので反射的に身を強ばらせてしまったが、とろりとした蜜が溢れ出て、すんなりと彼の指を受け入れた。

「………え………?」

 戸惑っていると、忍び笑いが降ってきた。

「もうこんなに蕩けて、私の妖精は淫らだな」
「……………っ」

 言われた言葉とくちゅんと自分の躰から鳴らされる水音に、羞恥で泣きたくなった。必死に足を閉じようとしても、既にある彼の手を拒むことはできず、逆に固定する結果になってしまう。

「これはずっとここを触っていてほしいというおねだりか?」
「ち……違いま………あっ!」

 ぬるぬると蠢く感触がして、びくんと電気が走ったみたいに激しく身体が震えた。
 耐えきれずに逃げを打って身を捩りうつ伏せになるが、それでも許してもらえない。
 背後から耳を噛まれ、シーツと胸の間に滑り込んだ手が胸を揉み続け、足の間に忍び込んでいる指が浅く出ていっては入ってくるのを繰り返す。
 波のように寄せては返すそのぞくぞくする感覚に、全身がびりびりと痺れるようだった。

「あ、や……いやっ……怖い……こわいの、アレス様ぁ……っ」

 ぞくぞくするのは未知の感覚に対する恐怖だろうか。
 翻弄され自分がわからなくなりそうな不安だろうか。
 それとも、もっとも原始的な恐怖――?

「大丈夫だ、気持ちよくしてやるから」
「あっ、……ひぁ……!」

 耳の中に直接吹き込まれる声と、舌が這った後に吐息がかかってひやりとする感覚に悲鳴を上げる。

「私を信じて、身を委ねろ」

 シーツを掴んでいる左手を彼の手が包み込んだ。
 熱いほどの手の温度を左手と身体の奥に感じる。
 背中に乗る彼の重みと体温。
 耳にかかる熱い吐息と優しい声。
 全部、彼だ。
 身も心も命そのものまですべてを委ねようと思った愛しい人が、大丈夫、信じろと――。
 きゅん、と胸が痛いくらいに締め付けられた瞬間――躰の奥深くまで彼の指がぐっと押し込まれ、ひっかくようにかき混ぜた。

「……あっ、あぁあぁぁぁぁんっ!」

 痺れるような感覚が全身をかけめぐって、背筋が仰け反った。
 頭の中が真っ白になり――くたりと、全身に力が入らなくなった。











「――――は………ぁ……」

 たゆたうような心地の余韻に、ぐったりとした自分の吐息が聞こえて遠のいていた意識が徐々に戻ってくる。
 愛撫がぴたりと止まっていた。
 背中から細くゆっくりと息を吐くのが聞こえ、続いて仰向けにされる。

「……アレス様……?」

 馬乗りになったまま怖いほどじっと見下ろされ、どうしたらいいのか困惑する。なにか、怒らせるようなことをしてしまったのだろうか。

「絶頂は怖いことではなかっただろう?」
「…………はい…………」

 こくんと怖々頷いた。
 気遣ってくれているのはわかるのだけれど、なんだか不機嫌そうに見えたから。

「これが最後の警告だ。もうあなたがどんなに泣き叫んで許しを乞おうとも最後までやめないが、いいんだな?」

 背筋が、ひやりとした。
 けれども、覚悟を決めて小さく頷いた。

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