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番外編-1

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返事が返ってくることはなかった。

私は周りを見渡して見たが、親らしき人も見当たらない。
どうやらこの子は一人らしい。


よく見るとその子は傘を持っていなかった。
しかもどこから来たのかびしょ濡れだ。


どうしよう。
に、にらまれてる?

じっと見られているけど、その口は開かない。

ただ、闇の中で濡れた瞳が光っていた。


それがなんだか悲しいって言っているみたいで、私は持っていた傘を差し出した。

「びしょぬれだよ」

もう傘など意味がなどないかもしれないが、これ以上この子に雨が当たらないように。
そう思った。



「いいよ、君が濡れるよ」

わ、しゃべった。

姿形だけを見れば、私とそうは変わらないはずなのに、口を開くとなんだかすごく大人っぽい。


「だいじょうぶ!もう1本あるの」

私はお父さんの傘をズイと前に出して言った。

「えきまでお父さんをむかえにいくとちゅうなの」

私はどうしても彼に傘を渡したかった。


さっき周りを見渡したとき、バス停を発見したの。

このバス停はお父さんを迎えに行くときによくお母さんと一旦休憩する場所。

「疲れたでしょ?キャンディーでも食べて少し休もうか」

そう言って。

いつもの道。
間違ってなんかなかった。

この子が気づかせてくれた。

だからこれはそのお礼なの。
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