素直になれなくて

影

「あっ！すみません、つい…」

彼女は乗り出していた身を引いて謝る。

「いいえ」と言うより先に、またも彼女の口が動く。


「有原専務って、あの肩書きにあのルックスじゃないですか！
社内からも取引の会社の女性からも当たり前にモテるんですよね～。
なのにどんなにキレイな人に言い寄られても全く相手にしない人だったんですよ！
女の影を感じさせない人だったから一途に忘れられない好きな人がいるとか噂があったんですけど、いきなりの結婚で！
やっぱり彼女はいたんですね～。
そんなにゾッコンな奥さんってどれだけステキな方なのかと思って！！
もぉ～お目にかかれて光栄です～！！」


私は息継ぎなしの弾丸トークに圧倒されながら、今までの生活で荒れてしまった手を見られないように後ろへと隠した。


『モテる』ねぇ？

あの肩書きなら確かにそうだろう。

加えてあの容姿。

悔しいけど、確かにカッコイイもん。


けど、私と出会ったのは最近の話だし、今の会話の流れからいくと言い寄られてるのはかなり前から。

相手が私のはずはない。


だとすると、吉哉さんには今も忘れられない好きな人がいる？

それだとなんとなくいろんなことに説明がつく。

だから私には触れてこないんだ。

ふーん。
別にどうでもいんだけどさ。



それより、彼女まだ私のこと尊敬の眼差しで見てるよ。
はぁ～、違うのにな…。


愛くるしい表情で私を見る彼女を見て、ふと思った。


この子も、『相手にしてもらえなかった女性達』の１人なのかな？


吉哉さんのこと、好きだったのかな…。