素直になれなくて

素

吉哉さんはバッと私から距離をとると下を向いて手で自分の顔を覆ってしまった。

伸ばしかけた私の手は宙で止まったままになってしまった。

「吉哉さん…？」

また何かしてしまったのかと不安になり、小声で様子を伺う。


「真由、待って。それやばい」

潤んだ瞳で上目遣いとか…と言う言葉は私の耳には届かない。

吉哉さんの言っている意味がわからなくて、私は首を傾げた。


「今、どういう顔してるかわかってる？
…襲われても文句言えないよ？」


「！！？」

い、今のは、本当に吉哉さんが言ったの？

「お、襲われるって誰に…」

私はきっと真っ赤になってるだろう。

その狼狽えた様子がおかしかったのか、フッと笑うと今度はスッと距離を詰めてきた。


「…誰だと思う？」

耳元でそう囁かれると、私は身体中の血液が沸騰したように熱くなる。

何！？
今、なんて！？
ていうか、誰、この人！！？


目の前には今まで見たことない意地悪な顔でクックッと笑う吉哉さん。

もう中身が入れ替わったとしか思えないのですが！