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第二十九話・朱雀宮の謎6
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用意された籠に乗り込むと、周啓が護衛の為にそのすぐ横を付いて歩き始める。
心配気な侍女達の見送りを受けながら門を出ると、先に出た孝公の籠が遥か前に確認できた。
「どちらへ向かわれるのですか?」
かなり早足で移動しているはずなのに、歩きながら問いかけてくる宦官の声は少しも乱れてはいない。
周啓のことを線の細い男だと思っていたけれど、武術の心得があるというのは本当だったらしい。
「ええっと、具体的には分からないのだけれど、病人や怪我をした者を収容している場所と言えばいいかしら」
「ああ、西の端ですね。玄武宮の向こうの」
周啓に言われて初めて、窓から見えた瑠璃瓦が玄武宮の物だと知る。
彼の話によれば玄武宮を越えた先には養蚕の為の建物が並んでいるが、そのさらに向こうに収容所があるらしい。長い後宮勤めのある周啓でさえ、まだ一度も足を踏み入れたことのない場所なのだという。
「そんな場所にどんな御用が?」という宦官からの問いに、木蘭は「人探しよ」と短く答える。
籠が建物の前に到着した時、先に着いていた孝公はこの収容所を管理する役人から何やら説明を受けているようだった。
周啓の先導で木蘭が近付いていくと、暗色の袍を身にした顔色の悪い年老いた宦官が一瞬驚いた表情になる。
こんな場所に妃が訪れてくるとは思わなかったのだろう。慌てて両手を重ねて礼を取る。
「ここを管理する者達は、光竺はここにはいないと申すのです」
「はい。そのような名の宮女は見たことも聞いたこともございません……」
「いや、確かにいるはずだ。朱雀宮にいた宮女だ」
孝公がムッとした表情で宦官に詰め寄るが、「いない者はいないとしか……」と役人は困惑している。
孝公の側近達はどこか冷ややかな目でその様子を見ていたから、きっと彼らは皇弟ほど木蘭の夢見の力を信頼してはいないのだろう。
その呆れているような視線に、木蘭は小さく溜め息を吐く。この力はそう簡単に信じてもらえるものでないことくらい、重々承知だ。
「では、顔の半分を布で覆うような大火傷を負った女ならどうでしょう?」
木蘭がそう口を挟むと、役人は「ああ、それなら」とすぐに大きく頷き返してくる。
皺がれた声はあまり覇気がない。彼自身がいつここに収容されてもおかしくはなさそうだと言ったら失礼過ぎるか。
「名を示す物は何も持たず、喉の奥まで火傷を負ったせいで喋ることも叶わない女です。目もロクに見えてはおらず、おそらく字も書けないようで。私どもは仮り名で合徳と呼んでおります」
「では、確かにいるのだな、火傷を負った宮女が?」
驚いたような安堵したような声で孝公が再度確認する。
「はい。半年ほど前に、朱雀宮の脇の通りで火だるまになっているところを運び込まれた女です。ロクに話しもできない上に、我々のことを怯えているようで、これまで名すら知ることがままならず――そうですか、あれは光竺というのですか」
「……火だるま、とな?」
「自害に失敗したのか、或いは、何者かに火を点けられたのか……本人が何も話さないので分かりかねますが」
老宦官の案内で向かった先は、昨夜見た部屋の前だった。
ギィという軋みを立てながら開いた扉に、寝台で横になっていた女が半身を起き上げる。その怯えた目はどこか焦点が合っておらず、まともに見えているのかは怪しい。
「光竺か?」
孝公が部屋の中へ向けて問いかけるが、女は身体を震わせるだけだ。喉から何か音が漏れていたが完全に掠れていて聞き分けることは難しい。けれど、首を必死で横に振って拒絶している態度から、叫び声を上げているのだと分かった。
さらに一歩部屋の中に踏み入れようとする孝公を、側近の宦官が止めに入る。
「ここは孝公様が入られるような場ではございません」
高貴な存在である彼には不釣り合いな場所なのは確か。
膿んで爛れた肌の臭いなのか、部屋中に酸い匂いが漂っている。夜には分からなかったが、顔に巻かれた布も血や膿で汚れていて世辞にも清潔には見えない。
臣下の言葉で露骨な躊躇いを見せたのは、孝公もまた同じことを思ったからだろう。
誰もが遠巻きに光竺のことを眺めている中、木蘭だけが部屋の中へと進んでいく。
「私は占術を用いて、あなたのことを見つけました。噓偽りは私の前では何の意味も成しません。あなたは朱雀宮の羅妃様のところに仕えていた、光竺で間違いないですね?」
明かりをまともに感じていないだろう女の目に驚きの色が現れる。
この場で歳若い女の声が聞こえるのは珍しいのだろうか。キョロキョロと木蘭の姿を探すように首を動かした後、光竺は静かに首を縦に振って見せた。
後ろで孝公達が驚いて息を呑んだのを感じた。
「皇弟である孝公様は、羅妃様がお亡くなりになった時のことを調べ直されておられます。協力していただけますか?」
木蘭は優しい声で語りかけたつもりだったけれど、先に占術の話を持ち出したからか、光竺は怯えるように眉を寄せていた。けれど素直に首を縦に動かす。
心配気な侍女達の見送りを受けながら門を出ると、先に出た孝公の籠が遥か前に確認できた。
「どちらへ向かわれるのですか?」
かなり早足で移動しているはずなのに、歩きながら問いかけてくる宦官の声は少しも乱れてはいない。
周啓のことを線の細い男だと思っていたけれど、武術の心得があるというのは本当だったらしい。
「ええっと、具体的には分からないのだけれど、病人や怪我をした者を収容している場所と言えばいいかしら」
「ああ、西の端ですね。玄武宮の向こうの」
周啓に言われて初めて、窓から見えた瑠璃瓦が玄武宮の物だと知る。
彼の話によれば玄武宮を越えた先には養蚕の為の建物が並んでいるが、そのさらに向こうに収容所があるらしい。長い後宮勤めのある周啓でさえ、まだ一度も足を踏み入れたことのない場所なのだという。
「そんな場所にどんな御用が?」という宦官からの問いに、木蘭は「人探しよ」と短く答える。
籠が建物の前に到着した時、先に着いていた孝公はこの収容所を管理する役人から何やら説明を受けているようだった。
周啓の先導で木蘭が近付いていくと、暗色の袍を身にした顔色の悪い年老いた宦官が一瞬驚いた表情になる。
こんな場所に妃が訪れてくるとは思わなかったのだろう。慌てて両手を重ねて礼を取る。
「ここを管理する者達は、光竺はここにはいないと申すのです」
「はい。そのような名の宮女は見たことも聞いたこともございません……」
「いや、確かにいるはずだ。朱雀宮にいた宮女だ」
孝公がムッとした表情で宦官に詰め寄るが、「いない者はいないとしか……」と役人は困惑している。
孝公の側近達はどこか冷ややかな目でその様子を見ていたから、きっと彼らは皇弟ほど木蘭の夢見の力を信頼してはいないのだろう。
その呆れているような視線に、木蘭は小さく溜め息を吐く。この力はそう簡単に信じてもらえるものでないことくらい、重々承知だ。
「では、顔の半分を布で覆うような大火傷を負った女ならどうでしょう?」
木蘭がそう口を挟むと、役人は「ああ、それなら」とすぐに大きく頷き返してくる。
皺がれた声はあまり覇気がない。彼自身がいつここに収容されてもおかしくはなさそうだと言ったら失礼過ぎるか。
「名を示す物は何も持たず、喉の奥まで火傷を負ったせいで喋ることも叶わない女です。目もロクに見えてはおらず、おそらく字も書けないようで。私どもは仮り名で合徳と呼んでおります」
「では、確かにいるのだな、火傷を負った宮女が?」
驚いたような安堵したような声で孝公が再度確認する。
「はい。半年ほど前に、朱雀宮の脇の通りで火だるまになっているところを運び込まれた女です。ロクに話しもできない上に、我々のことを怯えているようで、これまで名すら知ることがままならず――そうですか、あれは光竺というのですか」
「……火だるま、とな?」
「自害に失敗したのか、或いは、何者かに火を点けられたのか……本人が何も話さないので分かりかねますが」
老宦官の案内で向かった先は、昨夜見た部屋の前だった。
ギィという軋みを立てながら開いた扉に、寝台で横になっていた女が半身を起き上げる。その怯えた目はどこか焦点が合っておらず、まともに見えているのかは怪しい。
「光竺か?」
孝公が部屋の中へ向けて問いかけるが、女は身体を震わせるだけだ。喉から何か音が漏れていたが完全に掠れていて聞き分けることは難しい。けれど、首を必死で横に振って拒絶している態度から、叫び声を上げているのだと分かった。
さらに一歩部屋の中に踏み入れようとする孝公を、側近の宦官が止めに入る。
「ここは孝公様が入られるような場ではございません」
高貴な存在である彼には不釣り合いな場所なのは確か。
膿んで爛れた肌の臭いなのか、部屋中に酸い匂いが漂っている。夜には分からなかったが、顔に巻かれた布も血や膿で汚れていて世辞にも清潔には見えない。
臣下の言葉で露骨な躊躇いを見せたのは、孝公もまた同じことを思ったからだろう。
誰もが遠巻きに光竺のことを眺めている中、木蘭だけが部屋の中へと進んでいく。
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この場で歳若い女の声が聞こえるのは珍しいのだろうか。キョロキョロと木蘭の姿を探すように首を動かした後、光竺は静かに首を縦に振って見せた。
後ろで孝公達が驚いて息を呑んだのを感じた。
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