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第三十四話・初めての夢見
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木蘭が初めて失せ物の夢を見たのは、十年前。六つの時だった。
山間の村で近隣の者全てが家族のような閉鎖的な集落。
木蘭を含んだ村の子供達は皆兄弟のようなもので、毎日日が暮れるまで村の中を駆け回って遊んでいた。
山で伐採した材木を牛車に乗せて運河沿いの寧まで卸しに行っていたという、円優の父親が家族へ土産物を携えて帰ってきたのは特に珍しいことではない。
木蘭の親も山を下りる時は必ず何か買って来てくれる。どこの親も似たようなものだ。
「これ、昨日の父様からの土産よ。キラキラしてて素敵でしょう?」
そう言って一つ年上の円優が自慢げに見せてくれた髪飾りは、透き通る紫の石が三つ並んではめ込まれていて、日の光を反射して輝いて見えた。
木蘭もその遊び友達も皆で円優を取り囲んで、その大人びた装飾品に目を輝かせる。
「まるで後宮のお妃様みたいね」
「いいなー、私も次に父様が寧へ行く時は髪飾りを頼もうかなぁ」
円優はその髪飾りがお気に入りだったようで、どんな型に結い上げてもらった時でもいつも髪に付けていた。
日が経つにつれ、金具が緩んできたのか円優が駆けたり跳ねたりする時に髪飾りが落ちかけることが何度もあったのは子供達皆が気付いてはいた。
きっとあの時、誰かが「父様に直してもらいなよ」とでも助言していたら、あんなことにはならなかったのだろう。
翌朝、いつも通りに遊ぶ約束をしていた木蘭達は村の中心にある村長の家の前の石垣に座り込んで円優が来るのを待っていた。
彼女の家はこの待ち合わせ場所から一番近いはずなのに、いつまで待っても来ないから木蘭達は直接迎えに行くことにする。
門の前で口を揃え、友の名を呼び続けていると、目を真っ赤に腫らした少女が母親に宥められながら姿を見せた。
「ごめんなさいね。昨日、どこかで髪飾りを無くしたみたいで……」
「イヤ! あの髪飾りが見つからないなら、どこにも行きたくない!」
「母様が家の中を探しておくから。ほら、みんな待ってるわよ」
母親の説得にも首を横に振り続けた後、円優は不機嫌な顔のまま家の中へ戻っていく。
木蘭達は「どこかで落としたのかなぁ?」「でも、昨日は山の奥までは行ってないわよ」などと、話し合ったりもしたが、すぐにそんなことは忘れたかのように円優抜きで遊び始めた。
毎日のように見せびらかされていたから、もうとっくに髪飾りへの興味は薄れていた。
その夜、木蘭は山を少し入った場所の夢を見た。
木が伐採されてから随分経ち、新しい木が育ち始めようとしている場所。まだ周辺に高木が無いから日の光が差し込んで比較的明るく、切り株を机に見立ててごっこ遊びをするのに丁度良い。
その一番大きな切り株のすぐ脇に、見覚えのある髪飾りが転がっているのを見つけた。
――あ、円優のだ……
そういえば、前日もここを訪れていた。切り株から切り株へ飛び移れるかという、かなりヤンチャな遊びに夢中になった。
失敗した子が足に擦り傷が出来て泣き始めたから途中で止めたけど、かなりの時間をここで過ごした気がする。
目が覚めてから時間が経った後も昨夜の夢のことをはっきり覚えていたから、木蘭な何とはなしに友人達にそのことを話した。
「円優の髪飾りは、きっと切り株の横にあると思うの。だって昨日の夢で見たもの」
「えー、夢で?」
誰もまともに信じてはいなかったし、木蘭自身もただの夢だとは思いつつ、別にすることもないからと山の中に確かめに向かった。ほんの暇つぶしのつもりで。
でも、髪飾りは夢で見たのと全く同じ場所に存在した。
朝露に濡れてはいたが、木蘭が見たままの状態で。
友の一人がすぐに拾い上げ、まだ探し続けて泣いているはずの円優の家に届けに向かう。
「木蘭がこれがある場所を知っていたの」
「うん、夢で見たの」
得意げに鼻を膨らませて木蘭がそう告げる。
きっと円優はとても喜んで礼を言ってくれるのだと信じて疑わずに。
でも、顔を真っ赤にして、円優は泣き腫らした目で木蘭のことを睨みつけて言い放った。
「夢で見たなんて嘘よ! 木蘭が意地悪して隠してたのねっ!」
「えっ……?」
隠した本人だから場所を知っていて当然だと、円優は髪飾りを木蘭には見せないよう握り締めながら怒鳴りつける。恨みの籠ったその視線に、木蘭は困惑した。きっと円優は髪飾りを見つけてくれた自分のことをとても感謝してくれるものだと思っていた。なのに、どうして……
「だって、木蘭が一番羨ましそうにしていたものっ!」
「ち、違う……本当に、夢で……」
「ええーっ、木蘭、ひどーい」
皆に口々に責め立てられ、木蘭は目に涙を溜めながら、必死で「夢で見ただけ」と繰り返して首を横に振り続けた。どんなに否定しても誰も木蘭の言うことを信じてくれようとはしない。
疑われたのが悔しくて、下唇を噛んで泣くのを我慢したまま、自宅へと駆け戻る。
――本当に、夢で見ただけなのに……
子供から話を聞いた親達は「別に見つかったのなら……」と木蘭に追及してくるようなことはなかったが、それからしばらく木蘭は円優から無視され続けた。
誰も幼い木蘭の夢の話など信じてはくれず、娘はそんな意地悪をする子じゃないと庇ってくれていた母親ですら「夢と同じ場所にあったのは、ただの偶然よ」とまともに取り合ってはくれなかった。
だから、夢見の力のことは極力誰にも話さないようにしていた。
山間の村で近隣の者全てが家族のような閉鎖的な集落。
木蘭を含んだ村の子供達は皆兄弟のようなもので、毎日日が暮れるまで村の中を駆け回って遊んでいた。
山で伐採した材木を牛車に乗せて運河沿いの寧まで卸しに行っていたという、円優の父親が家族へ土産物を携えて帰ってきたのは特に珍しいことではない。
木蘭の親も山を下りる時は必ず何か買って来てくれる。どこの親も似たようなものだ。
「これ、昨日の父様からの土産よ。キラキラしてて素敵でしょう?」
そう言って一つ年上の円優が自慢げに見せてくれた髪飾りは、透き通る紫の石が三つ並んではめ込まれていて、日の光を反射して輝いて見えた。
木蘭もその遊び友達も皆で円優を取り囲んで、その大人びた装飾品に目を輝かせる。
「まるで後宮のお妃様みたいね」
「いいなー、私も次に父様が寧へ行く時は髪飾りを頼もうかなぁ」
円優はその髪飾りがお気に入りだったようで、どんな型に結い上げてもらった時でもいつも髪に付けていた。
日が経つにつれ、金具が緩んできたのか円優が駆けたり跳ねたりする時に髪飾りが落ちかけることが何度もあったのは子供達皆が気付いてはいた。
きっとあの時、誰かが「父様に直してもらいなよ」とでも助言していたら、あんなことにはならなかったのだろう。
翌朝、いつも通りに遊ぶ約束をしていた木蘭達は村の中心にある村長の家の前の石垣に座り込んで円優が来るのを待っていた。
彼女の家はこの待ち合わせ場所から一番近いはずなのに、いつまで待っても来ないから木蘭達は直接迎えに行くことにする。
門の前で口を揃え、友の名を呼び続けていると、目を真っ赤に腫らした少女が母親に宥められながら姿を見せた。
「ごめんなさいね。昨日、どこかで髪飾りを無くしたみたいで……」
「イヤ! あの髪飾りが見つからないなら、どこにも行きたくない!」
「母様が家の中を探しておくから。ほら、みんな待ってるわよ」
母親の説得にも首を横に振り続けた後、円優は不機嫌な顔のまま家の中へ戻っていく。
木蘭達は「どこかで落としたのかなぁ?」「でも、昨日は山の奥までは行ってないわよ」などと、話し合ったりもしたが、すぐにそんなことは忘れたかのように円優抜きで遊び始めた。
毎日のように見せびらかされていたから、もうとっくに髪飾りへの興味は薄れていた。
その夜、木蘭は山を少し入った場所の夢を見た。
木が伐採されてから随分経ち、新しい木が育ち始めようとしている場所。まだ周辺に高木が無いから日の光が差し込んで比較的明るく、切り株を机に見立ててごっこ遊びをするのに丁度良い。
その一番大きな切り株のすぐ脇に、見覚えのある髪飾りが転がっているのを見つけた。
――あ、円優のだ……
そういえば、前日もここを訪れていた。切り株から切り株へ飛び移れるかという、かなりヤンチャな遊びに夢中になった。
失敗した子が足に擦り傷が出来て泣き始めたから途中で止めたけど、かなりの時間をここで過ごした気がする。
目が覚めてから時間が経った後も昨夜の夢のことをはっきり覚えていたから、木蘭な何とはなしに友人達にそのことを話した。
「円優の髪飾りは、きっと切り株の横にあると思うの。だって昨日の夢で見たもの」
「えー、夢で?」
誰もまともに信じてはいなかったし、木蘭自身もただの夢だとは思いつつ、別にすることもないからと山の中に確かめに向かった。ほんの暇つぶしのつもりで。
でも、髪飾りは夢で見たのと全く同じ場所に存在した。
朝露に濡れてはいたが、木蘭が見たままの状態で。
友の一人がすぐに拾い上げ、まだ探し続けて泣いているはずの円優の家に届けに向かう。
「木蘭がこれがある場所を知っていたの」
「うん、夢で見たの」
得意げに鼻を膨らませて木蘭がそう告げる。
きっと円優はとても喜んで礼を言ってくれるのだと信じて疑わずに。
でも、顔を真っ赤にして、円優は泣き腫らした目で木蘭のことを睨みつけて言い放った。
「夢で見たなんて嘘よ! 木蘭が意地悪して隠してたのねっ!」
「えっ……?」
隠した本人だから場所を知っていて当然だと、円優は髪飾りを木蘭には見せないよう握り締めながら怒鳴りつける。恨みの籠ったその視線に、木蘭は困惑した。きっと円優は髪飾りを見つけてくれた自分のことをとても感謝してくれるものだと思っていた。なのに、どうして……
「だって、木蘭が一番羨ましそうにしていたものっ!」
「ち、違う……本当に、夢で……」
「ええーっ、木蘭、ひどーい」
皆に口々に責め立てられ、木蘭は目に涙を溜めながら、必死で「夢で見ただけ」と繰り返して首を横に振り続けた。どんなに否定しても誰も木蘭の言うことを信じてくれようとはしない。
疑われたのが悔しくて、下唇を噛んで泣くのを我慢したまま、自宅へと駆け戻る。
――本当に、夢で見ただけなのに……
子供から話を聞いた親達は「別に見つかったのなら……」と木蘭に追及してくるようなことはなかったが、それからしばらく木蘭は円優から無視され続けた。
誰も幼い木蘭の夢の話など信じてはくれず、娘はそんな意地悪をする子じゃないと庇ってくれていた母親ですら「夢と同じ場所にあったのは、ただの偶然よ」とまともに取り合ってはくれなかった。
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