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第六話・チーム会議2
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私達にとって『ジェスター』というブランドはとても大きな存在になっていて、それに匹敵するものを新しく考えるという課題にどこから手を付けていいのかすら見当もつかなかった。かといって、及川社長からの追加の指示なんて何もない。下手したら私に異動を指示したことすら忘れているんじゃないかと思えてしまう。
「新しいブランドをどう位置付けるかを決めないことには……」
既存ブランドとは真逆のコンセプトにするか、それとも派生ブランド的な立ち位置にするか。それすら決めかねて、私達は頭を抱えていた。
「そもそも、星野専務がいなくなって今後の『ジェスター』自体が読めない状態ですが、その辺りはどうなんですか?」
宮前さんの問いかけに、松下係長がデザイン部の状況を説明し始める。代わりのデザイナーがいないというのであれば、『ジェスター』は終わりだ。その辺りは彼らの方がよく分かっているはずだ。
「まあ、実際のところ星野さん中心にやってはいましたが、全てというわけではないので。残っているデザイナーの負担は大きいですが、現状維持は可能だと思います」
「なら、代わりのブランドというよりは、並行して展開するつもりで考えた方が良さそうですね」
主要デザイナーの退任でブランドが無くなるという最悪の状況にはならなさそうで、私はホッと胸をなで下ろした。『ジェスター』が消えたらショップはどうなってしまうのかと心配していたけれど、現場への影響は少なさそうだ。
ほんの数日前まで販売する側だったから、私は本社の内情よりもそっちの方が気になってしまう。だからもし今、新しいブランドの商品が生まれたらと思うと、やっぱり気になるのは売り場での展開形態のこと。
「ターゲット層が似通っていて派生ブランド的な位置づけだと、既存店でのコーナー展開は可能なんですよね……」
私がぼそっと呟くと、森口さんも思い当たる節があるのか大きく頷いて同意してくれる。
「ああ、よくありますよね。姉妹ブランドの商品が一緒に並んでるのとか。それだったら実際の反応を見ながら少しずつ商品数を増やしていけばいいかも」
「ああ、全く別物になってしまうと、商品だけでなく箱物も用意しないといけないか……」
この小規模なチームでは店舗から作るというのは難しいし、実現するには年単位での準備と資本が必要なはずだ。きっとそんな大がかりなことを社長も期待してはいないだろう。だってほぼ逆ギレのような指示だったから。
なら、このチームで考えるべきなのは『ジェスター』の姉妹ブランド的な存在なのだろう。
「ということは、ターゲット層は大人の女性。既存はお勤めされている方が中心でしたけど、そこは変更なし? そうすると似たような商品群になる可能性が高いですよね……」
議事録的に意見をまとめながら松下係長が新たな議題を投げかけてくる。私はこれまで接客した顧客のことを頭に描きながら、あの人達にさらにお勧めできそうな商品について考えてみる。
——『ジェスター』がオフィスカジュアルってことは、仕事のある日に来てもらう服。なら、それ以外の日は……?
「休日に着る洋服。仕事の時は着られないリラックスウェアか、あるいは逆に気合い入れる時の勝負服? ああ、でも、子育て中のママが気兼ねなく公園で走り回れるようなスニーカーに合わせられる物もありか……」
私はブツブツとつぶやきながら手帳の空きページに走り書きしていく。接客中にお客様達はどんな時に着る服を探し求めていただろうか。もちろん、通勤時に着る服を探している人は多かったけれど、それ以外だって少なくはなかったのだから。
——そう言えば、お取り置きしてくださってた佐山様が『部屋着はちょっとコンビニに行けるくらいの楽ちんカジュアルが理想』っておっしゃってたなぁ。
接客時の雑談を思い出し、それも手帳に書き足していく。勝負服になると価格帯が『ジェスター』とは大きく離れてしまうだろうが、休日ファッションならいいかもしれない。走り書きした単語の羅列を眺めていて、私は自分に集まっている視線に気付き、慌てて顔を上げる。
「え、な、何ですか⁉」
会議室内の全員の眼が私の方に向いていた。両隣に座っている企画部の二人は私の手元にある手帳を覗き込んでから、驚いた顔をしている。
「菊池さん、それもうちょっと詳しくお願いしていいですか?」
「え、何を……?」
「その、楽ちんカジュアルってやつです。それが『ジェスター』の店に置いてあった場合、菊池さんなら売れると思いますか?」
私が手帳に走り書きした『楽ちんカジュアル』の文字を指さしながら、宮前さんが真剣な顔で聞いてくる。それには私は自信満々でうなずき返した。
「物によっては、既存の商品とのコーディネートを提案して一緒に売ることも可能だと思います」
「抱き合わせってことですか?」
「はい、『ジェスター』の強みは着回しが効くことなので。逆にフォーマルドレスとかだと扱ったことがないので困ってしまいますけど」
ちょっとしたワンピース程度ならいいが、フォーマルとなると知識には自信がない。きっと他のショップスタッフだって同じような人は多いだろう。
私の答えに、会議室内の全員が大きくうなずいていた。
「ブランドコンセプトが決まりましたね。楽ちんカジュアル、です」
「新しいブランドをどう位置付けるかを決めないことには……」
既存ブランドとは真逆のコンセプトにするか、それとも派生ブランド的な立ち位置にするか。それすら決めかねて、私達は頭を抱えていた。
「そもそも、星野専務がいなくなって今後の『ジェスター』自体が読めない状態ですが、その辺りはどうなんですか?」
宮前さんの問いかけに、松下係長がデザイン部の状況を説明し始める。代わりのデザイナーがいないというのであれば、『ジェスター』は終わりだ。その辺りは彼らの方がよく分かっているはずだ。
「まあ、実際のところ星野さん中心にやってはいましたが、全てというわけではないので。残っているデザイナーの負担は大きいですが、現状維持は可能だと思います」
「なら、代わりのブランドというよりは、並行して展開するつもりで考えた方が良さそうですね」
主要デザイナーの退任でブランドが無くなるという最悪の状況にはならなさそうで、私はホッと胸をなで下ろした。『ジェスター』が消えたらショップはどうなってしまうのかと心配していたけれど、現場への影響は少なさそうだ。
ほんの数日前まで販売する側だったから、私は本社の内情よりもそっちの方が気になってしまう。だからもし今、新しいブランドの商品が生まれたらと思うと、やっぱり気になるのは売り場での展開形態のこと。
「ターゲット層が似通っていて派生ブランド的な位置づけだと、既存店でのコーナー展開は可能なんですよね……」
私がぼそっと呟くと、森口さんも思い当たる節があるのか大きく頷いて同意してくれる。
「ああ、よくありますよね。姉妹ブランドの商品が一緒に並んでるのとか。それだったら実際の反応を見ながら少しずつ商品数を増やしていけばいいかも」
「ああ、全く別物になってしまうと、商品だけでなく箱物も用意しないといけないか……」
この小規模なチームでは店舗から作るというのは難しいし、実現するには年単位での準備と資本が必要なはずだ。きっとそんな大がかりなことを社長も期待してはいないだろう。だってほぼ逆ギレのような指示だったから。
なら、このチームで考えるべきなのは『ジェスター』の姉妹ブランド的な存在なのだろう。
「ということは、ターゲット層は大人の女性。既存はお勤めされている方が中心でしたけど、そこは変更なし? そうすると似たような商品群になる可能性が高いですよね……」
議事録的に意見をまとめながら松下係長が新たな議題を投げかけてくる。私はこれまで接客した顧客のことを頭に描きながら、あの人達にさらにお勧めできそうな商品について考えてみる。
——『ジェスター』がオフィスカジュアルってことは、仕事のある日に来てもらう服。なら、それ以外の日は……?
「休日に着る洋服。仕事の時は着られないリラックスウェアか、あるいは逆に気合い入れる時の勝負服? ああ、でも、子育て中のママが気兼ねなく公園で走り回れるようなスニーカーに合わせられる物もありか……」
私はブツブツとつぶやきながら手帳の空きページに走り書きしていく。接客中にお客様達はどんな時に着る服を探し求めていただろうか。もちろん、通勤時に着る服を探している人は多かったけれど、それ以外だって少なくはなかったのだから。
——そう言えば、お取り置きしてくださってた佐山様が『部屋着はちょっとコンビニに行けるくらいの楽ちんカジュアルが理想』っておっしゃってたなぁ。
接客時の雑談を思い出し、それも手帳に書き足していく。勝負服になると価格帯が『ジェスター』とは大きく離れてしまうだろうが、休日ファッションならいいかもしれない。走り書きした単語の羅列を眺めていて、私は自分に集まっている視線に気付き、慌てて顔を上げる。
「え、な、何ですか⁉」
会議室内の全員の眼が私の方に向いていた。両隣に座っている企画部の二人は私の手元にある手帳を覗き込んでから、驚いた顔をしている。
「菊池さん、それもうちょっと詳しくお願いしていいですか?」
「え、何を……?」
「その、楽ちんカジュアルってやつです。それが『ジェスター』の店に置いてあった場合、菊池さんなら売れると思いますか?」
私が手帳に走り書きした『楽ちんカジュアル』の文字を指さしながら、宮前さんが真剣な顔で聞いてくる。それには私は自信満々でうなずき返した。
「物によっては、既存の商品とのコーディネートを提案して一緒に売ることも可能だと思います」
「抱き合わせってことですか?」
「はい、『ジェスター』の強みは着回しが効くことなので。逆にフォーマルドレスとかだと扱ったことがないので困ってしまいますけど」
ちょっとしたワンピース程度ならいいが、フォーマルとなると知識には自信がない。きっと他のショップスタッフだって同じような人は多いだろう。
私の答えに、会議室内の全員が大きくうなずいていた。
「ブランドコンセプトが決まりましたね。楽ちんカジュアル、です」
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