クールな経営者は不器用に溺愛する 〜ツンデレ社長とWワーク女子〜

瀬崎由美

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第五十話・エピローグ

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 店内に流れている穏やかなクラッシック音楽は隅に置かれた電子ピアノからだろうか。食器が鳴る音と客の話し声が混ざり合ってお世辞にも静かとは言えないが、どこか緩やかで上質な空気を感じるのはここがホテル内にあるカフェだからだろう。客の中には結婚式の参列者らしき留め袖や振袖姿の人達もいる。そういえば今日は大安吉日だった。今日のホテル内はきっと幸せに溢れている。

 私は普段より少し気合いを入れた大人っぽいワンピースを着て、あまり収納力のない小振りなショルダーバッグを背の後ろに置き、柊人さんと向かい合って窓際のテーブル席に座っていた。ここに来てからずっと困惑の色を隠せていない彼は、周囲が女性客ばかりなのに戸惑っているようだった。窓際のテーブルは私達以外は女子会らしき客で埋まっていた。男性は彼を含めて数名だけだ。

「ごめんね、やっぱり別の日に妹と来れば良かったかも……」
「いや、大丈夫。ここは二人以上じゃないと予約できなかったんだろう?」
「そうなんだよね……いつもはお一人様オッケーのところを選ぶようにしてるんだけど、ここはネットでレビュー見てから、どうしても来て見たくって」

 私の唯一の趣味とも言えるヌン活。いつもチェックしているアフタヌーンティー専門のレビューサイトで紹介されていて、ずっと来たいと思っていた店にようやく訪れることができ、私は密かに興奮していた。ここは予約人数に下限があってどうしても一人では来ることができず、ずっと指を咥えて眺めるだけだった憧れの店なのだ。
 最初は内定祝いも兼ねて風香を誘うつもりでいたけれど、週末はコンビニのバイトで忙しいと断られてしまった。卒業旅行の資金を貯める為に今必死だからと言われてしまったら無理強いできない。折角取れた予約もキャンセルかと、完全に諦めるつもりで何気なく彼に少し愚痴っただけだ。だから、まさか甘い物が苦手な柊人さんが代わりに付き合ってくれるとは思わなかった。

 居心地が悪そうにしていた柊人さんも、コーヒーが運ばれて来ると少し落ち着いたみたいで、相変わらず砂糖もミルクも加えずにそのまま飲み始める。私もティーポットからカップへと紅茶を注ぎ入れてから、ダージリンの優しい香りを嗅いだ。

「大丈夫、ここはスイーツよりセイボリーメニューの方が充実してるみたいだし、柊人さんが食べれる物の方が多いはずだから」
「あ、ああ……」

 他のテーブルに並ぶメニューをチラ見して不安そうにしている柊人さんを励ます。以前と同じように「甘い物は私に任せて、食べられる物だけ食べてくれればいいから」とは伝えていたが、周囲から漂ってくる甘い匂いに若干顔を引きつらせていた。彼にとって唯一の救いはドリンクにコーヒーも選べたことくらいか。

 しばらくして運ばれてきたのは、二段のスイーツスタンドと、軽食メニューの乗ったウッドプレート。プレートの上に並んだ旬の食材を使ったピンチョスやオープンサイドに、柊人さんが安堵の溜め息をついたのに気付いて、私は吹き出しそうになるのを必死で堪える。

 ――私がすごく楽しみにしてたの知ってるから、無理して付いてきてくれたんだよね。

 キャンセル待ちで奇跡的に予約を取ることができた時、リビングで私が発狂していたのを彼は横で見ていたからキャンセルするのは可哀想だと考えてくれたのだろう。私はテーブルの上のアフタヌーンティーをスマホのカメラで撮影した後、少し身体を後ろへ引いてその液晶の中に彼の姿も写し入れた。コーヒーカップを手にした柊人さんはホテルのカフェ内でとても絵になっていたが、スイーツを前にして困惑の表情を浮かべているのが何とも可愛い。周りの女性達も私と同じことを思っているのだろうか、他のテーブルからもチラチラと視線を感じる。

 私がスーツメニューを味わいながら幸せに浸っているのを、柊人さんが向かいから穏やかな笑みを浮かべて見つめているのに気付く。その目がとても優しくて、私も彼に向かって微笑み返す。

「咲良が食べてるのを見てたら、美味しそうに思えるんだけどな……」

 目の前の手付かずのスイーツをチラ見して、柊人さんが苦笑いになる。

「私も柊人さんが何も足さずにコーヒー飲んでるの見てる時、全く同じこと思うよ。でも、実際に飲んだら苦くて無理なんだけど」

 味の好みはこんなにも違うのに、一緒にいて安らげるのはなぜなんだろう。私達は不思議だねと顔を見合わせて笑う。このままずっと同じ時間を共に過ごせるのなら、同じ物を食べられなくったって別にいい。ただ傍にいてくれるだけで十分なのだから。
 私は苺ムースをスプーンで掬って頬張ってから、「美味しいよ」と柊人さんへ微笑んでみせた。

 ―完―
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