9 / 74
絵画のような人魚ー09ー
しおりを挟む
第9話
胡桃四季はそんなに目立つような印象もなかった。だけどその子は僕のことを覚えていた。
あの時、目は合ったけど会話さえも交わしていない。五分と満たない時間だったはず。それでもあの子は僕を覚えていてくれた。そして僕が呟いた言葉を見逃さなかった。
『今日は水色の下着なの」この言葉が何を意味しているのかわからないけど、僕はリビングへ戻る彼女の後ろ姿を見つめることしかできなかった。
いや、正確に言ったら彼女の残像を見ていたかもしれない。とにかく僕の人生の中で、不思議な感覚を与えてくれたような気がした。
夕方が過ぎた頃、引っ越しは無事に終わって僕たちは寮の門限もあったので、風子のマンションをあとにした。学生寮へ向かう途中道、僕たちは明日の授業のことを話したり、部屋の間取りが男子寮と女子寮の違いを知ったりと、明日から本格的に始める大学生活に胸を踊らせた。
鮎川みゆきの発言を聞いてから、そのあと会話という会話もなかった。もしかして嫌われたのかな?
僕たちはそれぞれ男子寮と女子寮に別れて、手を振りながら学生寮へと向かった。男子寮に戻るなり腹が減っていたので、僕たちは初めて食堂へと繰り出した。
基本的なメニューは二種類。AメニューかBメニューのみ。第三金曜が必ずカレーライスと黒板に書かれていた。秋人と緑郎はAメニューを選び、僕は魚を食べたかったのでBメニューを選んだ。四人掛けのテーブルに座ると、さっそく今日出会った女子について話し出す。
「めっちゃレベル高いわ。純奈ちゃんにみゆきちゃん、風子ちゃんも可愛いやん」
生姜焼きを勢いよく食べながら、緑郎の口から風子の名前も入っていたので、奴の中で候補なんだと考えると妙に笑えた。
「それはそうと、純奈って子さ」と秋人がボソッと言う。その口許に笑みがあったので、彼と知り合って二日目だけど、この表情を見せたら何か企んでるとわかってきた。
「かなり巨乳だよな!!あれEカップぐらいあるぞ」
「やっぱり、僕なんか荷物持ち上げるふりして谷間を覗こうとしたぐらいやわ」
「マジかよ。緑郎は馬鹿だな」と秋人が笑いながら言う。「秋人くんは誰か気に入った子はいたんか?」
一瞬、僕の頭の中で鮎川みゆきの顔が浮かんだ。どうしてなのかわからないけど、秋人が選んだらなんとなく嫌な気持ちにもなった。
「うーん……俺は動く時が来たら動くって感じかな。特に誰が気に入ったとか考えてないけど」
なんとも言えない感想に、僕の箸が止まる。そして秋刀魚定食の秋刀魚と目が合うのだった……
それから話しは下ネタに変わり、どんな子が好みとか、性格や顔の好みはとほとんど下ネタ話で盛り上がるのだった。だいたい男同士で話すのはこんな話題になるものだ。間違いない。まあ、僕としても嫌いじゃなかったし、こんなところで熱い話は勘弁してほしい。要するに体育会系の男が苦手なのだ。
僕たちは明日から始まる授業にそなえて、今夜は早く就寝することにした。部屋に戻り、緑郎と明日の授業について少し話した後、ベッドに入り眠りについた。そして深い眠りに落ちた頃、夢の中でピンクのブラジャーが現れた。しかもそのブラジャーを身に付けた、下着姿の鮎川みゆきが……!?
翌朝、早く目覚めた僕は薄暗い部屋の中、目を開けて天井を見つめていた。鮮明に覚えている夢の中で現れた彼女の下着姿……
ベッドから抜け出して、僕は忍び足で緑郎を起こさないように洗面所へ向かった。まだ夜明け直後だったのか、外はうっすらと朝陽が射し込んでる状態だった。都会の朝にしては静かな世界を映している。
どうしてあんな夢を見てしまったのか?まるで彼女が焼き付いて、胸を締め付けてるようだ。
まさか恋?いや、まさかな……
一人で洗面所の鏡に向かって呟くのだった。
もちろん、鏡に映る僕は何も答えない。そんなのはわかっていた。だけど胸の中で何かが染み込んでいるのは気がついていた。
胡桃四季はそんなに目立つような印象もなかった。だけどその子は僕のことを覚えていた。
あの時、目は合ったけど会話さえも交わしていない。五分と満たない時間だったはず。それでもあの子は僕を覚えていてくれた。そして僕が呟いた言葉を見逃さなかった。
『今日は水色の下着なの」この言葉が何を意味しているのかわからないけど、僕はリビングへ戻る彼女の後ろ姿を見つめることしかできなかった。
いや、正確に言ったら彼女の残像を見ていたかもしれない。とにかく僕の人生の中で、不思議な感覚を与えてくれたような気がした。
夕方が過ぎた頃、引っ越しは無事に終わって僕たちは寮の門限もあったので、風子のマンションをあとにした。学生寮へ向かう途中道、僕たちは明日の授業のことを話したり、部屋の間取りが男子寮と女子寮の違いを知ったりと、明日から本格的に始める大学生活に胸を踊らせた。
鮎川みゆきの発言を聞いてから、そのあと会話という会話もなかった。もしかして嫌われたのかな?
僕たちはそれぞれ男子寮と女子寮に別れて、手を振りながら学生寮へと向かった。男子寮に戻るなり腹が減っていたので、僕たちは初めて食堂へと繰り出した。
基本的なメニューは二種類。AメニューかBメニューのみ。第三金曜が必ずカレーライスと黒板に書かれていた。秋人と緑郎はAメニューを選び、僕は魚を食べたかったのでBメニューを選んだ。四人掛けのテーブルに座ると、さっそく今日出会った女子について話し出す。
「めっちゃレベル高いわ。純奈ちゃんにみゆきちゃん、風子ちゃんも可愛いやん」
生姜焼きを勢いよく食べながら、緑郎の口から風子の名前も入っていたので、奴の中で候補なんだと考えると妙に笑えた。
「それはそうと、純奈って子さ」と秋人がボソッと言う。その口許に笑みがあったので、彼と知り合って二日目だけど、この表情を見せたら何か企んでるとわかってきた。
「かなり巨乳だよな!!あれEカップぐらいあるぞ」
「やっぱり、僕なんか荷物持ち上げるふりして谷間を覗こうとしたぐらいやわ」
「マジかよ。緑郎は馬鹿だな」と秋人が笑いながら言う。「秋人くんは誰か気に入った子はいたんか?」
一瞬、僕の頭の中で鮎川みゆきの顔が浮かんだ。どうしてなのかわからないけど、秋人が選んだらなんとなく嫌な気持ちにもなった。
「うーん……俺は動く時が来たら動くって感じかな。特に誰が気に入ったとか考えてないけど」
なんとも言えない感想に、僕の箸が止まる。そして秋刀魚定食の秋刀魚と目が合うのだった……
それから話しは下ネタに変わり、どんな子が好みとか、性格や顔の好みはとほとんど下ネタ話で盛り上がるのだった。だいたい男同士で話すのはこんな話題になるものだ。間違いない。まあ、僕としても嫌いじゃなかったし、こんなところで熱い話は勘弁してほしい。要するに体育会系の男が苦手なのだ。
僕たちは明日から始まる授業にそなえて、今夜は早く就寝することにした。部屋に戻り、緑郎と明日の授業について少し話した後、ベッドに入り眠りについた。そして深い眠りに落ちた頃、夢の中でピンクのブラジャーが現れた。しかもそのブラジャーを身に付けた、下着姿の鮎川みゆきが……!?
翌朝、早く目覚めた僕は薄暗い部屋の中、目を開けて天井を見つめていた。鮮明に覚えている夢の中で現れた彼女の下着姿……
ベッドから抜け出して、僕は忍び足で緑郎を起こさないように洗面所へ向かった。まだ夜明け直後だったのか、外はうっすらと朝陽が射し込んでる状態だった。都会の朝にしては静かな世界を映している。
どうしてあんな夢を見てしまったのか?まるで彼女が焼き付いて、胸を締め付けてるようだ。
まさか恋?いや、まさかな……
一人で洗面所の鏡に向かって呟くのだった。
もちろん、鏡に映る僕は何も答えない。そんなのはわかっていた。だけど胸の中で何かが染み込んでいるのは気がついていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる