10 / 74
絵画のような人魚ー10ー
しおりを挟む
第10話
大学の構内でそれぞれの授業へ向かう時、秋人から昼過ぎに待ち合わせしようと言われた。今日から本格的に始まる授業。僕と緑郎は現代美術を秋人はデザインの教室へと向かった。
「四季くんは知ってるん?今日の講師をする先生」
春巻瑠奈先生だろ。知ってるよ、アート界じゃ有名だし、授業内容がユニークで変わっていて楽しいらしいよ」
なんでも噂では教材など一切使わずに授業をやると言われていた。つまり本人たちのインスピレーションを大切にして、思うがままに進めていくという事だ。
そんな期待をしながら、いざ春巻先生の授業が始まると、僕たちは初日から言われた課題に驚くのだった。
「今日から三ヶ月で一つの絵を描いてもらいます」と春巻先生は自己紹介も簡潔に済ませて、さっそく生徒たちに課題を与えるのだった。
ざわつく教室、そして教壇で微笑む春巻先生。白衣姿で絵の具が付いた格好は、以下にも美術の講師という感じだ。髪の毛を後ろに結って、見た目は三十代半ばだと思われる。目は少し釣り上がり、シャープな顔つきが石膏の女神みたいに美しいラインをしていた。生き生きとした表情で生徒を見つめる顔に、先生の課題がいかに大変なのかを知るようだ。
すると一人の生徒が出された課題について質問をした。絵にテーマはあるのか?油絵で仕上げるのか?それとも人物画?風景画か?一体、どのような絵を描けば良いかと聞いた。
「自由に描いて下さい。油絵や水彩画でも構いません。君たちが思うがままに描くのです。期限は三ヶ月」
凍りついたように静まり返る教室。そんな状況を楽しんでいるかのように微笑む先生。そのあとの、春巻先生は淡々と授業を開始した。課題はともかく、授業の方は非常に楽しかった。元々、絵を描くのは好きだったけど、春巻先生が話してくれた、色の科学と色の空間を感じれて、僕の中で絵に対する見方が変わった。
授業が終わると、僕は春巻先生に聞きたかったことがあったので、緑郎に先へ行ってもらい、教室を出ようとする生徒たちをかき分けて春巻先生へ近づいた。その時、僕の肘が誰かに当たって、小さな声と同時に物が落ちる音がした!!
振り向いた先に、教材を拾う女の子が見えた。僕は慌てて一緒になって拾い上げると地べたに屈む女の子と目が合った。
「四季くん!?なんだ、君も同じ授業に出てたんだね」
黒い淵メガネをかけた女の子が僕の名前を呼んだ。一瞬、誰なのかわからなかったけど、その子がメガネを外して舌を少し出した。その表情に僕は驚いて、開いた口がふさがらない。なんと僕が倒した相手は鮎川みゆきだったのだ!!
「あっ、どーも……」と間の抜けた声で僕が言う。
教材を手にして僕は立ち上がると、鮎川みゆきが黒目がちな瞳でまっすぐ僕を見つめてきた。その瞳に、僕の鼓動が速く動き出したのに気づいた。まるで朝方の夢と彼女が重なるようだった。淡い色彩が包み込むように、彼女のまわりに色が溶け込むみたいだ。
「教材いい?」
「あっ、ごめん!!」
急いで教材を手渡すと、僕は振り返って春巻先生の行方を見た。すると既に姿は消えていて、教室から出ようとする生徒の波が流れていた。
「誰か探しているの?」と背後から鮎川みゆきが声をかける。
「いや、別に大丈夫だけど……」と僕は振り返って、ジッと見つめてくる彼女を見た。普段はメガネをかけているのか、まったく気づかなかった。
「メガネをかけてたから鮎川さんと気付かなかったよ。目が悪かったんだね」
「ふふ、違うよ。これは伊達眼鏡。ねえ、四季くんって、変わった色しているよね」
「えっ!?色って……」と突然言ってきた言葉に、僕は驚いて聞き返した。
「なんて言うのかな……初めて会った時に感じたの。色が無色なのに、淡い色合いが見える……感じかな」
彼女の言葉に、僕は言葉を失った。僕が探し求めている僕だけの色……
そんな風に思っていたことを、彼女がそれに似た感覚で言ったからだ。
そしてポカンとする僕へ、彼女が僕の袖を掴んで引っ張った!!
「四季くん、ちょっといい?少し話さない」そう言われると、僕と彼女は人波の風景に溶け込むように流れて行った。
大学の構内でそれぞれの授業へ向かう時、秋人から昼過ぎに待ち合わせしようと言われた。今日から本格的に始まる授業。僕と緑郎は現代美術を秋人はデザインの教室へと向かった。
「四季くんは知ってるん?今日の講師をする先生」
春巻瑠奈先生だろ。知ってるよ、アート界じゃ有名だし、授業内容がユニークで変わっていて楽しいらしいよ」
なんでも噂では教材など一切使わずに授業をやると言われていた。つまり本人たちのインスピレーションを大切にして、思うがままに進めていくという事だ。
そんな期待をしながら、いざ春巻先生の授業が始まると、僕たちは初日から言われた課題に驚くのだった。
「今日から三ヶ月で一つの絵を描いてもらいます」と春巻先生は自己紹介も簡潔に済ませて、さっそく生徒たちに課題を与えるのだった。
ざわつく教室、そして教壇で微笑む春巻先生。白衣姿で絵の具が付いた格好は、以下にも美術の講師という感じだ。髪の毛を後ろに結って、見た目は三十代半ばだと思われる。目は少し釣り上がり、シャープな顔つきが石膏の女神みたいに美しいラインをしていた。生き生きとした表情で生徒を見つめる顔に、先生の課題がいかに大変なのかを知るようだ。
すると一人の生徒が出された課題について質問をした。絵にテーマはあるのか?油絵で仕上げるのか?それとも人物画?風景画か?一体、どのような絵を描けば良いかと聞いた。
「自由に描いて下さい。油絵や水彩画でも構いません。君たちが思うがままに描くのです。期限は三ヶ月」
凍りついたように静まり返る教室。そんな状況を楽しんでいるかのように微笑む先生。そのあとの、春巻先生は淡々と授業を開始した。課題はともかく、授業の方は非常に楽しかった。元々、絵を描くのは好きだったけど、春巻先生が話してくれた、色の科学と色の空間を感じれて、僕の中で絵に対する見方が変わった。
授業が終わると、僕は春巻先生に聞きたかったことがあったので、緑郎に先へ行ってもらい、教室を出ようとする生徒たちをかき分けて春巻先生へ近づいた。その時、僕の肘が誰かに当たって、小さな声と同時に物が落ちる音がした!!
振り向いた先に、教材を拾う女の子が見えた。僕は慌てて一緒になって拾い上げると地べたに屈む女の子と目が合った。
「四季くん!?なんだ、君も同じ授業に出てたんだね」
黒い淵メガネをかけた女の子が僕の名前を呼んだ。一瞬、誰なのかわからなかったけど、その子がメガネを外して舌を少し出した。その表情に僕は驚いて、開いた口がふさがらない。なんと僕が倒した相手は鮎川みゆきだったのだ!!
「あっ、どーも……」と間の抜けた声で僕が言う。
教材を手にして僕は立ち上がると、鮎川みゆきが黒目がちな瞳でまっすぐ僕を見つめてきた。その瞳に、僕の鼓動が速く動き出したのに気づいた。まるで朝方の夢と彼女が重なるようだった。淡い色彩が包み込むように、彼女のまわりに色が溶け込むみたいだ。
「教材いい?」
「あっ、ごめん!!」
急いで教材を手渡すと、僕は振り返って春巻先生の行方を見た。すると既に姿は消えていて、教室から出ようとする生徒の波が流れていた。
「誰か探しているの?」と背後から鮎川みゆきが声をかける。
「いや、別に大丈夫だけど……」と僕は振り返って、ジッと見つめてくる彼女を見た。普段はメガネをかけているのか、まったく気づかなかった。
「メガネをかけてたから鮎川さんと気付かなかったよ。目が悪かったんだね」
「ふふ、違うよ。これは伊達眼鏡。ねえ、四季くんって、変わった色しているよね」
「えっ!?色って……」と突然言ってきた言葉に、僕は驚いて聞き返した。
「なんて言うのかな……初めて会った時に感じたの。色が無色なのに、淡い色合いが見える……感じかな」
彼女の言葉に、僕は言葉を失った。僕が探し求めている僕だけの色……
そんな風に思っていたことを、彼女がそれに似た感覚で言ったからだ。
そしてポカンとする僕へ、彼女が僕の袖を掴んで引っ張った!!
「四季くん、ちょっといい?少し話さない」そう言われると、僕と彼女は人波の風景に溶け込むように流れて行った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる