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絵画のような人魚ー21ー
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第21話
もしも誰かに見つかってバレてしまったら、即効、二人とも寮を追い出されてしまうだろう。こんなにもスリルな夜があっていいのだろうか。しかも好きな人の部屋に泊まるなんて……
「大丈夫みたい。廊下には誰もいない」彼女はそう言うと、早足で廊下を歩いた。僕は屈むような姿勢で後をついて行く。
そして部屋の前に着くと、彼女ほ素早く鍵を開けて僕を中へ入れた。
「良かった。もう大丈夫だよ、四季くん」部屋に入った彼女は、内側から鍵をかけてホッとした表情を浮かべた。
こんな事ができるのは、彼女が他の一年生と違って一人部屋だったのが幸いしていた。部屋の間取りは男子寮と全く同じで、彼女の場合は一人だったのでずいぶんと広く感じられた。
本当に絵が好きなのだろう。テーブルには読みかけの月刊美術アートが開いていた。シンプルな部屋模様に自然と落ち着きある印象を感じた。淡い水色のカーテンに、デザインカーペット。白いカラーボックスの中に、何冊かの小説やノートが並べていた。
そして、淡いピンクで揃えられたベッド。
瞬間的に淡い期待が頭によぎる。今この空間には男と女が二人っきり。それもお互いに好意を寄せている。もちろん彼女の本当の気持ちはわからないけど。
「四季くん、お茶出すね」彼女はそう言うと、冷蔵庫からペットボトルのお茶を差し出した。
「お茶って言っても、ペットボトルだけどね」笑いながら言う彼女に、僕はある想いを浮かべた。この状況に、告白するなら今しかないと。彼女の気持ちを知りたかったし、確かめたかった。僕はペットボトルを受け取ると、意を決して心に決めた。そして彼女に向かって……
「鮎川さん、実は……」そう言った瞬間、彼女がおもむろに上着を脱いでシャツ一枚になった。僕は言葉を失って、無意識に身体を後ろへ振り返った。
「ちょっとお風呂に行ってくるね。ゆっくりしててね。それから私が出たら、鍵をかけてくれる。たぶん誰も来ないと思うけど、一様、用心のために」それだけ伝えると、彼女は素早く身支度をして扉に向かった。そして去り際に一言、「鍵をお願いね」
僕は部屋に一人残されて少しの間、呆気に取られていた。現実世界に戻って、彼女が立ち去ったあとの群像を眺めてから、僕は内側の鍵を締めるのだった。
女子寮が忍び込んでいることがあったのか、緊張しながら鍵を締める音に、驚くほど耳に響いて聞こえた。そして無意識にテーブルにあった月刊美術アートの雑誌へ目を移すのだった。
それから時間にして30分も経っていないのに、僕の体内時計は長く感じられた。そして部屋の扉がノックされると、僕は飛び上がるほど驚きながら、彼女の声が聞こえて安心して部屋の扉を開けた。
部屋に入るなり、彼女のお風呂上がりの匂いが僕の身体を包んだ。濡れた髪の毛にパジャマ姿の彼女を見ては、妙な色っぽさを感じるのだ。
緊張する僕とは正反対に、彼女は普段と変わらない態度だった。そして化粧台の前に座ると、ドライヤーを取り出して髪の毛を乾かし始めた。ごく普通の行動なのに、僕の頭の中で妄想が発動していた。
しばらく髪の毛を乾かす彼女を眺めていると、彼女が僕に話しかけてきた。
「四季くん、私がこないだ言った言葉を覚えてる?」
「えっ、こないだの事?」
「ほら、私、四季くんに言ったでしょう。四季くんには色が無いって」
「ああ、あのこと。正直言って、あまり意味がわからなかった」
「気を悪くしたら嫌だから言うけど、あれは、私が感じたことなんだけど、四季くんってなんて言うか、不思議な感覚なんだけど、自分の中の物語に生きてるみたいなの……私にはそう見える。違うかな?」
「物語に生きる?考えた事なかったけど、半分は当たっているかもしれない。自分でもたまに、現実世界と妄想の世界が区別つかなくなってるんだ。だから、僕は自分だけの色を探しているかもしれない。本当の自分を……」こんな話しを他人にしたのは初めてだった。幼馴染みの風子にさえ言っていない。
だけど彼女になら、自然と打ち明ける自分が居た。
「だったら私と一緒に色を探そうよ。私、四季くんの事もっと知りたいよ」ドライヤーを止めて、彼女が微笑みながら見つめてきた。そんな風に言ってくれる彼女から目が離せなかった。
そして彼女はゆっくりと立ち上がると、部屋の灯りを落とした。薄暗い部屋の中、彼女はベッドへと移動した。
「ねえ、さっき私に何て言おうとしたの?」目が慣れない部屋の中、彼女の甘えるような声が聞こえた。ベッドの中で、彼女のシルエットが仰向けに寝ていると見えた。
「夕立にあってさ、ずぶ濡れになった時、私がワンピースを脱いだでしょう。あの時、四季くん、私のこと見てたでしょう」ベッドの横に居る僕へ、彼女は話しかけてからそっと手を伸ばした。
「うん。見たよ……」そう言葉を返して、僕は彼女の手のひらに手を重ねた。
「どうだった……」
部屋の中は驚くほど静かになっていた。まるで世界は僕と彼女しかいない空間を作っていた。彼女は重ねた手をギュッと力を込めて握り返した。僕も重ねた手をギュッと返すと彼女の元へ近寄った。
そして、そっと彼女の頬に手を添えて唇を重ねた。
僕らはそのまま何度も何度も、口づけを交わすのだった。
もしも誰かに見つかってバレてしまったら、即効、二人とも寮を追い出されてしまうだろう。こんなにもスリルな夜があっていいのだろうか。しかも好きな人の部屋に泊まるなんて……
「大丈夫みたい。廊下には誰もいない」彼女はそう言うと、早足で廊下を歩いた。僕は屈むような姿勢で後をついて行く。
そして部屋の前に着くと、彼女ほ素早く鍵を開けて僕を中へ入れた。
「良かった。もう大丈夫だよ、四季くん」部屋に入った彼女は、内側から鍵をかけてホッとした表情を浮かべた。
こんな事ができるのは、彼女が他の一年生と違って一人部屋だったのが幸いしていた。部屋の間取りは男子寮と全く同じで、彼女の場合は一人だったのでずいぶんと広く感じられた。
本当に絵が好きなのだろう。テーブルには読みかけの月刊美術アートが開いていた。シンプルな部屋模様に自然と落ち着きある印象を感じた。淡い水色のカーテンに、デザインカーペット。白いカラーボックスの中に、何冊かの小説やノートが並べていた。
そして、淡いピンクで揃えられたベッド。
瞬間的に淡い期待が頭によぎる。今この空間には男と女が二人っきり。それもお互いに好意を寄せている。もちろん彼女の本当の気持ちはわからないけど。
「四季くん、お茶出すね」彼女はそう言うと、冷蔵庫からペットボトルのお茶を差し出した。
「お茶って言っても、ペットボトルだけどね」笑いながら言う彼女に、僕はある想いを浮かべた。この状況に、告白するなら今しかないと。彼女の気持ちを知りたかったし、確かめたかった。僕はペットボトルを受け取ると、意を決して心に決めた。そして彼女に向かって……
「鮎川さん、実は……」そう言った瞬間、彼女がおもむろに上着を脱いでシャツ一枚になった。僕は言葉を失って、無意識に身体を後ろへ振り返った。
「ちょっとお風呂に行ってくるね。ゆっくりしててね。それから私が出たら、鍵をかけてくれる。たぶん誰も来ないと思うけど、一様、用心のために」それだけ伝えると、彼女は素早く身支度をして扉に向かった。そして去り際に一言、「鍵をお願いね」
僕は部屋に一人残されて少しの間、呆気に取られていた。現実世界に戻って、彼女が立ち去ったあとの群像を眺めてから、僕は内側の鍵を締めるのだった。
女子寮が忍び込んでいることがあったのか、緊張しながら鍵を締める音に、驚くほど耳に響いて聞こえた。そして無意識にテーブルにあった月刊美術アートの雑誌へ目を移すのだった。
それから時間にして30分も経っていないのに、僕の体内時計は長く感じられた。そして部屋の扉がノックされると、僕は飛び上がるほど驚きながら、彼女の声が聞こえて安心して部屋の扉を開けた。
部屋に入るなり、彼女のお風呂上がりの匂いが僕の身体を包んだ。濡れた髪の毛にパジャマ姿の彼女を見ては、妙な色っぽさを感じるのだ。
緊張する僕とは正反対に、彼女は普段と変わらない態度だった。そして化粧台の前に座ると、ドライヤーを取り出して髪の毛を乾かし始めた。ごく普通の行動なのに、僕の頭の中で妄想が発動していた。
しばらく髪の毛を乾かす彼女を眺めていると、彼女が僕に話しかけてきた。
「四季くん、私がこないだ言った言葉を覚えてる?」
「えっ、こないだの事?」
「ほら、私、四季くんに言ったでしょう。四季くんには色が無いって」
「ああ、あのこと。正直言って、あまり意味がわからなかった」
「気を悪くしたら嫌だから言うけど、あれは、私が感じたことなんだけど、四季くんってなんて言うか、不思議な感覚なんだけど、自分の中の物語に生きてるみたいなの……私にはそう見える。違うかな?」
「物語に生きる?考えた事なかったけど、半分は当たっているかもしれない。自分でもたまに、現実世界と妄想の世界が区別つかなくなってるんだ。だから、僕は自分だけの色を探しているかもしれない。本当の自分を……」こんな話しを他人にしたのは初めてだった。幼馴染みの風子にさえ言っていない。
だけど彼女になら、自然と打ち明ける自分が居た。
「だったら私と一緒に色を探そうよ。私、四季くんの事もっと知りたいよ」ドライヤーを止めて、彼女が微笑みながら見つめてきた。そんな風に言ってくれる彼女から目が離せなかった。
そして彼女はゆっくりと立ち上がると、部屋の灯りを落とした。薄暗い部屋の中、彼女はベッドへと移動した。
「ねえ、さっき私に何て言おうとしたの?」目が慣れない部屋の中、彼女の甘えるような声が聞こえた。ベッドの中で、彼女のシルエットが仰向けに寝ていると見えた。
「夕立にあってさ、ずぶ濡れになった時、私がワンピースを脱いだでしょう。あの時、四季くん、私のこと見てたでしょう」ベッドの横に居る僕へ、彼女は話しかけてからそっと手を伸ばした。
「うん。見たよ……」そう言葉を返して、僕は彼女の手のひらに手を重ねた。
「どうだった……」
部屋の中は驚くほど静かになっていた。まるで世界は僕と彼女しかいない空間を作っていた。彼女は重ねた手をギュッと力を込めて握り返した。僕も重ねた手をギュッと返すと彼女の元へ近寄った。
そして、そっと彼女の頬に手を添えて唇を重ねた。
僕らはそのまま何度も何度も、口づけを交わすのだった。
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