絵画のような人魚

葉桜色人

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絵画のような人魚ー27ー

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第27話


携帯電話へ表示された名前に、僕は秋人が言った言葉を思い出させた。真壁純奈にそれっぽい態度をしたら痛い目にあうぞ!!

どうしようかと一瞬迷ったが、頭の中に上手い対策が思い浮かばない。どんな風に対応すれば良いのか?経験値の少ない僕にとって、上手く交わす案などあるわけない。あの時、秋人から何か助言をもらえれば良かったと後悔するのだった。

迷っている間にも携帯電話の着信は鳴り続けていた。まるで罠を仕掛けた釣り針のようだ。疑似餌の付いた罠に引っかかるのを待ち続ける。

その時、携帯電話の着信が鳴り止んだ。玄関で立ち止まっている僕をあざ笑うように音が消えた。ホッと胸をなでおろして、秋人に良い対策はないか聞いてみようと思った。
ところが次の瞬間、手にした携帯電話が再び鳴り出した!!ビクッとする僕をあざ笑う声が聞こえた。


【四季、逃がさないわよ】とそんな言葉がこだまする。薄笑いする真壁純奈の顔も浮かぶ。もちろんそんなのは僕の妄想であって、現実は携帯電話が鳴り響いているのだ。さっきまでの幸せだった時間が嘘みたいに思える。着信音はまだ鳴っている。軽快なメロディーが僕の心を苦しめていた。だけど何も彼女が本当に、僕に対して好意を持っているかはわからない。もしかしたら僕の勝手な決めつけかも知れないし……


彼女ができたから調子にのってしまったんだろう。冷静に考えたら、すべて僕の勘違いで、彼女からしたら只の話しやすい男子だと思っているだけ。異性として思っていない。そんな風に判断して、僕は思い切って電話に出た。


「もしもし……」と僕の声は少し緊張していた。


『……もしもし純奈です。四季くん今、大丈夫?』


「あっ、大丈夫だけど」


『良かった。もしかしたら秋人くんと一緒かもって思ったから』


僕が一人だと知った瞬間、明らかに彼女の声が変わった。まるで秋人や緑郎がそばに居ないことを願っていたみたいだ。


『一人なんだよね』


「うん、そうだよ。今、寮に帰って来たんだ」


『あのね、早速なんだけど、昨日オリーブで話したと思うんだけど、私が描いてる絵本の挿し絵を見て欲しいなぁ』


なんだ……そんなことか。てっきりもっとビックリするような内容だと想像していた。それなら特に問題はない。だから僕は二つ返事で、いつでも良いよと返した。


『きゃあー嬉しい。絶対だよ』と電話口の向こうで真壁さんは嬉しそうに言った。


このあと、僕はとんでもない勘違いをしていたと気付かされる。だが、時すでに遅し、僕は自ら真壁純奈の罠に引っかかるのだった。


「それじゃあ、いつにしようかな?皆の予定も聞いた方良いよね」と僕が言うと、『違うよう、四季くんだけに見せたいの。だから、皆には内緒にして欲しいの』


思わず言葉に詰まった!!自らオッケーしておいて、今さら断るなんておかしい。今の流れで断れるわけがない。僕は自ら地雷を踏んでしまったのだ!!


『……四季くん、迷惑だった?』明らかにトーンの下がった真壁さんの声に、「いや、大丈夫だよ。僕も真壁さんがどんな絵を描いているか見たかったんだ」と被せるように言うのだった。


口から出まかせじゃないけど、自分が言ったセリフに優しさとは違う後悔の色を感じた。昔から人を傷付けるのを恐れて、つい無理をして本音が出ない。


『四季くんが良かったらなんだけど、あさっての金曜日は大丈夫かな?』


すぐに頭の中であさってのスケジュールを浮かべたが、特に予定という予定はなかった。だから僕はあさっての予定をあけとくと約束した。

電話を切った後、僕はようやく部屋へと向かった。歩きながら考えるのは、真壁純奈の態度。あの嬉しそうな反応に、僕の行動は勘違いされないのかと。でも、向こうもオリーブで僕に挿し絵を見せる約束をしたから、ただそれだけの理由で誘ってきたかもしれない。そんな風に僕は都合良く考えては、少し自分に嫌気がさした。


もし、このことをみゆきが知ったら良くは思わないはずだ。僕と付き合っているんだし、それを他の女性といるところを見たら、なんて思うのか……


僕は自ら踏んだ地雷に、再び後悔をするのだった。
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