絵画のような人魚

絵画のような人魚ー34ー

第34話


閑静な住宅街に建つアトリエへ、緩やかな優しい光が降り注いだ。

アトリエの室内はカーテンによって薄暗い空間を漂わせている。ソファーに眠る僕たち。毛布に包まれた世界は音が消えていた。


しんとするアトリエで彼女はゆっくりと瞼を開けた。目の前に僕の寝顔が見えた時、彼女はしばらく黙ったまま見つめていた。そして唇に吸い込まれるように、彼女はそっと僕の唇に触れた。


最初から起きていたのか、それとも彼女のキスに目覚めたのか、僕は唇を開いてキスに応じた。しばらく長いキスが続いたあと、僕らは唇を離して見つめ合い笑った。


「みゆき好きだよ。ずっと傍に居て欲しい」


「……うん」


もう一度キスを重ねると、僕の下半身が自然と反応する。


「もう四季ったら……」


「もう一回……したいなぁ」


「ダメよ。私たちは学生でこれから授業があるの。学校をサボってまでするのは良くないわ」彼女はそう言って、僕の鼻先に触れた。


「わかった。我慢するよ」


二人は服に着替えると、寄り添ってもう一度キスをした。少し長めのキスに愛情を添えながら……


午後から授業が入っていたので、腕時計を見て時間を確認した。時刻は七時、今からここを出発しても十分に間に合う時間だった。髪を結ってる彼女へ、「それじゃあ、先に行くね」


「うん。私も午後から授業だから、もう少し残ってから行く。少し片付けとかしないと」


彼女に見送られながら、僕はアトリエを後にした。来た道を戻って駅に向かって歩き出す。住宅街はまだ、静かな朝を漂わせていた。みゆきの顔を思い浮かべては、心の中に嬉しさが溢れ出す。彼女のことが好きで好きで満ち溢れていた。


駅が見えた時、僕は携帯電話を取り出した。昨晩に掛かって来た着信を思い出したからだ。そして着信履歴を確認する。すると一件の着信履歴が残っている。


僕はボタンを押しながら誰からの着信だろうと思いつつ、内心は秋人か緑郎だと予想した。だけど、着信履歴の名前を見て、僕はその場で足の歩みを止めた。


着信相手は真壁純菜だった！！その名前を見て、僕は忘れていた約束を思い出した！！


本日、金曜日。僕は真壁純菜と会う約束をしていたんだ。