絵画のような人魚

葉桜色人

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絵画のような人魚ー36ー

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第36話


結局、何の解決策も浮かばない。気分転換も兼ねて、大学の食堂へ向かおうとした時、僕の携帯電話が鳴り出した。着信相手の名前に、悩みの比重を測ろうとしたけど、すぐに諦めて電話へと出るのだった。


『もしもし純奈です。四季くん、今どこにいるの?』


彼女は必ず、自分の名前を言ってから本題に入るクセがあるみたいだ。それは相手の反応を気にしながらも先手必勝という感じにも思えた。


「ごめん。昨日、電話くれたよね。緑郎と一緒に居たから出れなかったんだ」と僕は小さな嘘をついた。なんでそんな嘘をついたのか、自分でもわからなかったけど。


『ふ~ん……そうなんだ』


何だろう?彼女らしくない反応だった。少し間があったけど、彼女は話を続けた。


『四季くん。今日の約束、忘れてないよね。私、心配なんだけど』


「大丈夫。ちゃんと覚えているよ。今から食堂で昼食なんだけど、良かったら待ち合わせする?」


『私もまだお昼食べてないんだ。ねえ、良かったら一緒にランチしない?どうせあとで会うんだし。私、美味しい店を知ってるの』と嬉しそうに声を弾ませる彼女に、僕は断る勇気もなかったし、本来今日は、会う約束をしていのだ。なので、彼女から場所の説明を受けて、その店がある駅で待ち合わせることにした。


吉祥寺駅から新宿まで数分で着いて改札を出る頃、みゆきが午後からの授業で良かったと、正直なところホッとしていた。別に真壁さんと会って、何かあるわけではないけど、内心、後ろめたさはあったからだ。


絵を見たら、タイミング良く帰ろうと思っていた。彼女が描いた挿し絵を見たくないという気持ちがあるわけではない。ただ正直言って、早く切り上げてみゆきと会いたかったのだ。改札の向こう側は群衆の群れで沢山の人達が流れていた。僕は真壁さんの姿を探そうと、辺りを見渡した。


すると行き交う人々の中で、僕ぐらいの若い男たちが、柱に立っている女の子を見ては声に出していた。その様子に視線を移すと、柱に立っている女の子が真壁純奈とわかった。男たちの会話が耳に聞こえたが、どうやら真壁純奈のことを言っているようだ。


【あの子可愛くね。めっちゃ巨乳じゃん。男待ってんのかな】とそんな会話ばかりが聞こえた。


確かに真壁純奈の姿を見て、男ウケしそうな格好だとは思った。

ミニスカートにチェックのフェミニンな服、胸元は大胆にも開いて、ロリ顔なのに巨乳という姿は、野郎どもを興奮させるには十分すぎるほど魅力的だろう。


「あっ、四季くん。こっちこっち」と僕の姿に気づいて、真壁さんが声をかけてきた。


僕は手を挙げて、彼女の元へ駆け寄った。これじゃあ、まるで彼氏みたいだ。それを見た、周りの野郎どもは残念そうな反応をしている。そんか状況に内心、優越感があった。


彼女の気合の入った服装に、もしかして勝負服かな?なんて勘違いしそうになる。背の低かった彼女の隣に並ぶと自然と見える胸の谷間に、視線が困るのだった。


「今日は人が多いね。明日が休みだから混んでるのかな?」と真壁純奈がハニカミながら言う。


新宿なんて人が混雑してるイメージだけど、僕はなんとなく会話を合わせた。それでも彼女の表情からは楽しそうな色しか溢れていなかった。


こんなところを誰かに見られたら、きっと僕たちは恋人同士だと思われるだろう。約束だったとは言え、僕は少しだけ後悔するのだった。


そして僕自身に問題があると、流れる群衆を見ては思った。

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