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絵画のような人魚ー37ー
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第37話
「ところで真壁さんが行きたい店ってどこなの?」
「こっちだよ。すごい素敵な店なんだよ」彼女はそう言うと、僕を店へと案内した。
少し距離をあけて歩く僕へ、彼女が自然な仕草で腕を組んできた。
「私、小さいから、四季くんとはぐれないように」と悪戯っぽく彼女は言って、僕の顔を覗き込むように見てきた。
「う、うん。そんだね」と僕は、嫌とも腕を離そうともしなかった。どちらかと言うと、そんな彼女の行動にドキッとさせられるのだった。
さらに人混みの中、すれ違う人々で彼女との距離はなくなり、僕たちは寄り添うように歩いた。その都度、僕の腕にあの豊満な胸が押し付けられた。無意識に全神経が腕を集中する。男のサガなのか、呆れるぐらい僕の下半身は反応していた。
10分ほど歩いた距離に彼女のお勧めする店があった。西部劇に出てきそうな欧州風な店構えで、店内も木目調のテーブルと外国のお酒が棚一面に陳列されていた。確かに店内のレイアウトは素敵で、陽気な音楽が流れて落ち着きある雰囲気を感じたのだった。
席について、僕は店内の装飾品やセンスの良いオブジェを見て、素直に素敵な店だと感想を述べた。
「そうでしょう。店の雰囲気も良いけど、ここの手作りハンバーグも美味しいから、是非とも食べて欲しいわ」
嬉しそうに説明する彼女の会話は止まらなかった。合間に相槌を打ったり、時折質問などをして食事が運ばれてからも続いた。
「やだ!!私ばっかり話してない?」
「全然良いよ。聞いてて楽しい。それに女の子と会話するのは苦手だしね」
「そうかな。そんな事言って、昔は遊んでたりして?でも、四季くんと話していると心地良いよ」
彼女の言葉にどんな意味が込められているのかわからないけど、女の子にそんな風に言われたのは初めてのことだった。すると話しに夢中だった彼女が思い出したように、手を前に合わせると、約束していた挿し絵をバックから取り出した。
「なんか恥ずかしいな。あんまり人に絵なんて見せたことないから」そう言って、彼女はスケッチブックを手渡した。
「拝見します」と僕はワザとかしこまってスケッチブックを受け取った。
どんな絵を描くんだろうと心の中で思いながら、僕はスケッチブックを開いた。始めに飛び込んで来たのは山林が広がる風景に、曇った空模様から舞い降りる羽根だった。その鮮やかな色彩と細かく描いている描写に驚いた。繊細に描いた線は彼女のこだわりを感じさせる。色はクレパスで塗られて、色のバランスと何か人を惹きつけるような色彩が、その絵にはあった。
次の頁を捲ると、先ほど違う色彩に一人の少女が背中から羽根を生やして空に浮いていた。天使をイメージして描いたのか、微笑みを浮かべる少女に僕は目を奪われた。真壁さんの絵には独特な世界観があって、そこには彼女の独創的な色彩が現れていた。彼女の色が確立している。
僕には無い色があり、彼女の色合いを浮かべていた。まさに僕が憧れる世界でもあった。僕はスケッチブックに描かれた作品を見て、自分にも色が欲しいと心の中で思うのだ。
「感想を聞かせて欲しいな」
「すごい素敵な絵だよ。お世辞じゃなくて、真壁さんの絵には心を惹きつける色を感じた。目に焼き付いて見た人の心に残る絵だ……」と僕は正直な気持ちで感想を言った。
「正直に感想を言ってくれる四季くんが好きだよ」
「えっ!?好きって……」彼女の言葉に、僕はなんて返せば良いのかわからなかった。その好きにどんな意味が含まれているのかわからないからだ。
何枚かの絵は素晴らしく、彼女の世界観が広がっていた。だけど一つだけ気になっていることがあった。
「少女の背景に暗い色彩を選んでいるのには意味があるの?」
「ああ、それね。少女の心の中を描いているのよ。笑っているけど心の奥では切ない心情を風景に表現したの」
「どんな意味を込めて?」と僕は訊いた。
「人間の欲望とか、醜い心を感じた少女が自分にもあるんじゃないかって葛藤しているのよ。それにその色彩は少女の二面性が映し出した色かもね」
彼女の言葉には深い意味があり、絵には物語があった。そんな事を聞いた時、見る人の心に何らかの感情が溢れると、そんな風に思った。
「私にも二面性があるかも。四季くんはどう?」
一瞬、嫌な色が溢れた
思い出したくない。色が溢れて行くのを……
そして僕は誤魔化すように笑ったあと、スケッチブックに描かれた最後の頁を捲るのだった。
「ところで真壁さんが行きたい店ってどこなの?」
「こっちだよ。すごい素敵な店なんだよ」彼女はそう言うと、僕を店へと案内した。
少し距離をあけて歩く僕へ、彼女が自然な仕草で腕を組んできた。
「私、小さいから、四季くんとはぐれないように」と悪戯っぽく彼女は言って、僕の顔を覗き込むように見てきた。
「う、うん。そんだね」と僕は、嫌とも腕を離そうともしなかった。どちらかと言うと、そんな彼女の行動にドキッとさせられるのだった。
さらに人混みの中、すれ違う人々で彼女との距離はなくなり、僕たちは寄り添うように歩いた。その都度、僕の腕にあの豊満な胸が押し付けられた。無意識に全神経が腕を集中する。男のサガなのか、呆れるぐらい僕の下半身は反応していた。
10分ほど歩いた距離に彼女のお勧めする店があった。西部劇に出てきそうな欧州風な店構えで、店内も木目調のテーブルと外国のお酒が棚一面に陳列されていた。確かに店内のレイアウトは素敵で、陽気な音楽が流れて落ち着きある雰囲気を感じたのだった。
席について、僕は店内の装飾品やセンスの良いオブジェを見て、素直に素敵な店だと感想を述べた。
「そうでしょう。店の雰囲気も良いけど、ここの手作りハンバーグも美味しいから、是非とも食べて欲しいわ」
嬉しそうに説明する彼女の会話は止まらなかった。合間に相槌を打ったり、時折質問などをして食事が運ばれてからも続いた。
「やだ!!私ばっかり話してない?」
「全然良いよ。聞いてて楽しい。それに女の子と会話するのは苦手だしね」
「そうかな。そんな事言って、昔は遊んでたりして?でも、四季くんと話していると心地良いよ」
彼女の言葉にどんな意味が込められているのかわからないけど、女の子にそんな風に言われたのは初めてのことだった。すると話しに夢中だった彼女が思い出したように、手を前に合わせると、約束していた挿し絵をバックから取り出した。
「なんか恥ずかしいな。あんまり人に絵なんて見せたことないから」そう言って、彼女はスケッチブックを手渡した。
「拝見します」と僕はワザとかしこまってスケッチブックを受け取った。
どんな絵を描くんだろうと心の中で思いながら、僕はスケッチブックを開いた。始めに飛び込んで来たのは山林が広がる風景に、曇った空模様から舞い降りる羽根だった。その鮮やかな色彩と細かく描いている描写に驚いた。繊細に描いた線は彼女のこだわりを感じさせる。色はクレパスで塗られて、色のバランスと何か人を惹きつけるような色彩が、その絵にはあった。
次の頁を捲ると、先ほど違う色彩に一人の少女が背中から羽根を生やして空に浮いていた。天使をイメージして描いたのか、微笑みを浮かべる少女に僕は目を奪われた。真壁さんの絵には独特な世界観があって、そこには彼女の独創的な色彩が現れていた。彼女の色が確立している。
僕には無い色があり、彼女の色合いを浮かべていた。まさに僕が憧れる世界でもあった。僕はスケッチブックに描かれた作品を見て、自分にも色が欲しいと心の中で思うのだ。
「感想を聞かせて欲しいな」
「すごい素敵な絵だよ。お世辞じゃなくて、真壁さんの絵には心を惹きつける色を感じた。目に焼き付いて見た人の心に残る絵だ……」と僕は正直な気持ちで感想を言った。
「正直に感想を言ってくれる四季くんが好きだよ」
「えっ!?好きって……」彼女の言葉に、僕はなんて返せば良いのかわからなかった。その好きにどんな意味が含まれているのかわからないからだ。
何枚かの絵は素晴らしく、彼女の世界観が広がっていた。だけど一つだけ気になっていることがあった。
「少女の背景に暗い色彩を選んでいるのには意味があるの?」
「ああ、それね。少女の心の中を描いているのよ。笑っているけど心の奥では切ない心情を風景に表現したの」
「どんな意味を込めて?」と僕は訊いた。
「人間の欲望とか、醜い心を感じた少女が自分にもあるんじゃないかって葛藤しているのよ。それにその色彩は少女の二面性が映し出した色かもね」
彼女の言葉には深い意味があり、絵には物語があった。そんな事を聞いた時、見る人の心に何らかの感情が溢れると、そんな風に思った。
「私にも二面性があるかも。四季くんはどう?」
一瞬、嫌な色が溢れた
思い出したくない。色が溢れて行くのを……
そして僕は誤魔化すように笑ったあと、スケッチブックに描かれた最後の頁を捲るのだった。
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