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絵画のような人魚ー42ー
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第42話
ーーーー「カンパーイ」と僕たちはグラスを合わせた。
本日、マスターが居ない代わりに若い長髪の青年がカウンターに立っていた。前回、未成年の僕らはお酒を注意されていたのだ。それ以来、オリーブでお酒は禁止されていた。だけど幸いにも今夜はマスターが不在だったので、何も知らない若い長髪の青年は疑いもなくお酒を持って来てくれた。
「美味しい」と真壁さんが僕の横で頬に手を添えながら言う。
「四季くん、そう言えば先週、みゆきちゃんと美術館に行ったんだ」
「うん。サークル活動でね。丁度、僕が好きな画家の展覧会だったからさ」
「でも、四季くんのレポートは使われへんわ。みゆきちゃんは芸術論が素晴らしいけど、四季くんのは正直言って本人の持論が強すぎるねん」
「そうかな、私は四季くんの表現力が好きだけどな」と真壁さんがフォローを入れた。
「いや、僕も四季くんのレポートが悪いっていうわけちゃうよ。ただ、四季くんのレポートは絵の分析とか持論が入った感情論なんや。それに比べたら、みゆきちゃんのは美術館に興味が無い人や好きな人にもわかりやすく記事としてまとめてる」
正論と言うか、確かにみゆきの捉え方と僕の方向性は違っていた。そんな違いを緑郎は感じたのだろう。僕らしいと言えば、僕らしいレポートだったかもしれない。だけど人を惹きつけるような文章ではない。
「もう一杯、飲もうかな」と少しだけヤケになって、お酒が弱いくせにビールをもう一杯注文した。
「よーし、今夜はとことん芸術を語るんや!!」と緑郎も調子にのってお酒を頼んだ。
僕らは久しぶり、弾けるように楽しんだ。ここ数日、忙しかったこともあった。こんな風に仲間たちとの飲み会は楽しかった。
5時間ほどオリーブで飲んでいたのか、明日の授業が午後からで良かった。なんだか久しぶりに飲み過ぎたようだ。トイレに行って、今日の自分を吐き出すように、僕はベンキに向かって吐いた。足元はしっかりしている。洗面所の鏡に向かって呟いた。以前の僕と、今の僕は何が変わったのだろう。意味もなく、僕は心の中で思うのだった。
顔を洗って少しだけスッキリした。緑郎たちのテーブルに戻ると、真壁さんだけが座っていた。緑郎は宇宙人に拐われたのかな?上着が椅子に残っていたので思う。
「……緑郎は?と僕は訊ねた。
「なんかね、パッションだーって叫びながら店を飛び出しちゃった」と真壁さんが説明をした。
飛び出した割には、テーブルにクシャクシャになった一万円札だけは置かれていた。僕たちは会計を済ますと、緑郎が残した上着を肩からぶら下げて店を後した。
時刻は午後9時を過ぎていた。寮の門限は過ぎていたけど、特にそれに関しては問題ない。何故なら二人とも裏口から入れることを知っていたからだ。何となく無口になっては夜空を見上げた。アルコールで熱くなった頬に、少し冷たい風が吹いた。
「ねえ、四季くん」と後ろを歩いてた真壁さんが声をかけてきた。返事をしないまま、僕は振り返る。
「もう少し飲まない。コンビニで缶ビールでも買ってさ」
ワンピース姿の真壁さんが、手を後ろに回して上目遣いで言う。酔っていたから、僕は無意識に頷くと二人で飲むことにした。
真壁さんから静かな場所がいいと言われたので、僕は思いつくままに学生寮の近所にあった神社を選んだ。
薄暗い夜道を歩いて、僕と真壁さんは神社へ忍び込んだ。あの時と一緒で鍵はかかっていない。月明かりに照らされた神社の中、澄んだ空気と葉っぱの重なる音しか聞こえなかった。
ーーーー「カンパーイ」と僕たちはグラスを合わせた。
本日、マスターが居ない代わりに若い長髪の青年がカウンターに立っていた。前回、未成年の僕らはお酒を注意されていたのだ。それ以来、オリーブでお酒は禁止されていた。だけど幸いにも今夜はマスターが不在だったので、何も知らない若い長髪の青年は疑いもなくお酒を持って来てくれた。
「美味しい」と真壁さんが僕の横で頬に手を添えながら言う。
「四季くん、そう言えば先週、みゆきちゃんと美術館に行ったんだ」
「うん。サークル活動でね。丁度、僕が好きな画家の展覧会だったからさ」
「でも、四季くんのレポートは使われへんわ。みゆきちゃんは芸術論が素晴らしいけど、四季くんのは正直言って本人の持論が強すぎるねん」
「そうかな、私は四季くんの表現力が好きだけどな」と真壁さんがフォローを入れた。
「いや、僕も四季くんのレポートが悪いっていうわけちゃうよ。ただ、四季くんのレポートは絵の分析とか持論が入った感情論なんや。それに比べたら、みゆきちゃんのは美術館に興味が無い人や好きな人にもわかりやすく記事としてまとめてる」
正論と言うか、確かにみゆきの捉え方と僕の方向性は違っていた。そんな違いを緑郎は感じたのだろう。僕らしいと言えば、僕らしいレポートだったかもしれない。だけど人を惹きつけるような文章ではない。
「もう一杯、飲もうかな」と少しだけヤケになって、お酒が弱いくせにビールをもう一杯注文した。
「よーし、今夜はとことん芸術を語るんや!!」と緑郎も調子にのってお酒を頼んだ。
僕らは久しぶり、弾けるように楽しんだ。ここ数日、忙しかったこともあった。こんな風に仲間たちとの飲み会は楽しかった。
5時間ほどオリーブで飲んでいたのか、明日の授業が午後からで良かった。なんだか久しぶりに飲み過ぎたようだ。トイレに行って、今日の自分を吐き出すように、僕はベンキに向かって吐いた。足元はしっかりしている。洗面所の鏡に向かって呟いた。以前の僕と、今の僕は何が変わったのだろう。意味もなく、僕は心の中で思うのだった。
顔を洗って少しだけスッキリした。緑郎たちのテーブルに戻ると、真壁さんだけが座っていた。緑郎は宇宙人に拐われたのかな?上着が椅子に残っていたので思う。
「……緑郎は?と僕は訊ねた。
「なんかね、パッションだーって叫びながら店を飛び出しちゃった」と真壁さんが説明をした。
飛び出した割には、テーブルにクシャクシャになった一万円札だけは置かれていた。僕たちは会計を済ますと、緑郎が残した上着を肩からぶら下げて店を後した。
時刻は午後9時を過ぎていた。寮の門限は過ぎていたけど、特にそれに関しては問題ない。何故なら二人とも裏口から入れることを知っていたからだ。何となく無口になっては夜空を見上げた。アルコールで熱くなった頬に、少し冷たい風が吹いた。
「ねえ、四季くん」と後ろを歩いてた真壁さんが声をかけてきた。返事をしないまま、僕は振り返る。
「もう少し飲まない。コンビニで缶ビールでも買ってさ」
ワンピース姿の真壁さんが、手を後ろに回して上目遣いで言う。酔っていたから、僕は無意識に頷くと二人で飲むことにした。
真壁さんから静かな場所がいいと言われたので、僕は思いつくままに学生寮の近所にあった神社を選んだ。
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