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絵画のような人魚ー47ー
しおりを挟む程なくして公園が見えて来た。僕は公園に入ると、木々の影がいっぱいに広がる並木道を歩いた。すると黄色いタイル調の壁に空と同化しそうな水色に塗られた建物が、木々の隙間から現れた。
【静寂すぎる図書館】と塀に名前が黒い文字で掘ってあった。緊張しながら中に入ると、驚くほど静寂な空間が広がっていた。外の世界とこの建物の中は、まったくの別世界になっている。
静寂すぎる……
名前の通り、図書館はしんと静まり返っていた。中の室温は適度な温度を保っていたし、人々の足音を吸収するように屋根と同じ、鮮やかな水色の絨毯が敷き詰められていた。
耳に聴こえるのは自分の呼吸音と鼓動だけ。僕は受付に向かうと、清楚な身なりに背筋を真っ直ぐにした女性へ話しかけた。
「本日、面接予定になってる、胡桃四季と言います」
「ああ、はいはい。面接の方ですよね。確認しますのでお待ちになって下さい」
女性は静かすぎる図書館に対して、決して邪魔にならない透き通るような声で話した。そしてデスクのリストを確認すると、「胡桃四季さんですね。案内しますので、私について来てください」
女性はそう言って、隣に座っていた年配の女性へ受付をお願いした。僕に向かって笑顔を見せて、透き通る声で促した。
「こちらへお願いします」
女性の半歩後ろの位置でついて行くと、受付を抜けて奥の部屋に通された。応接室なのか、部屋には黒革のソファーが硝子細工のデスクを挟んで配置されていた。それ以外、部屋は殺風景で壁には秒針の無い時計が掛けられていた。
「しばらくお待ち下さい。面接する者をお呼びしますから」女性は軽く会釈をしてから、扉をゆっくり閉めて出て行った。
図書館内と違い、この部屋は外の音や公園で囀る、野鳥の鳴き声が聴こえていた。僕は息を吐いて、緊張を和らげようと腕を伸ばした。するとその時、扉の向こう側でノックの音がした。慌てて扉に目を向けて、背筋を真っ直ぐにして構えた。
「失礼します」と先ほどの女性と正反対の少しハスキーな声と共に扉が開いて、スーツ姿の女性が入って来た。
「は、初めまして、胡桃四季と申します。本日は急な面接をありがとうございました」と緊張しながら言った僕に対して、その女性は手を差し出して……
「初めまして、本日の面接をさせて頂く、広瀬川優子と申します。どうぞ、座って下さい」
軽く会釈を返して、僕は再び黒い革のソファーに腰を下ろした。アルバイトの面接にしては、妙に緊張感ある雰囲気が漂っていた。広瀬川と名乗った女性は、向かい側の席に座ると、いきなり……
「明日から来れるかしら?胡桃四季さん」
「……えっ?ええ!?」
これが彼女と僕の初めての出会いだった。
そして広瀬川優子との出会いによって、僕は自分の色を初めて感じることになった。
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