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絵画のような人魚ー48ー
しおりを挟む僕の何を気に入ってくれたのか?
そんなことは彼女だけの問題だった。
広瀬川優子は一言……
「それじゃあ、明日からお願いします。詳しいシフトは彼女から聞いて下さい」彼女はそう言って、席を立って扉へ向かった。そしてドアノブに手を添えて……「助かるのよね。土日に出てくれる人が居ないから」
そして振り返ると、「頑張ってね。四季くん」
いきなり名前で呼んで、広瀬川さんは口許に笑みを浮かべてから応接室を出て行った。
採用?マジで!?ドッキリじゃないよな!!履歴書は見ないの?面談は終わったのか?
唖然としながら僕は壁に掛けてある時計を見た。時間は経過していた。夢でもまぼろしでもなかった。僕は面接に受かって、働くことになったのだ。
そんな僕を残した応接室の扉が開いて、受付をしていた女性が中に入って来た。女性は軽く会釈をして、「やっぱり戸惑っていますよね。私の時もそうだったんですよ。ヒロセさんって、変わってますからね」
「採用されたんですよね……?僕」戸惑いながら言うと、女性は口許に笑みを浮かべて、「採用ですよ。胡桃四季さん。心配しないで下さい。ヒロセさんはいつもあんな感じですから、しばらくここで働けば、彼女の事がわかりますよ」
そう説明してくれたのは、この図書館で3年働いている西條三葉さん。年齢は23歳で、短大を卒業してから正社員として図書館で働いている。非常に姿勢が良く、笑うとえくぼが可愛い女性だった。髪はサラサラのストレートで、真っ直ぐにおろしていた髪の毛は艶があって綺麗だった。
なんでも西條さんの時も、僕と同じで10分で面接は終了したらしい。
「でも、胡桃さんは最短かもしれませんね。よっぽどヒロセさんと波長が合ったのかしら?」
「ヒロセ……さん?」
僕は西條さんが、広瀬川さんのことをさっきからヒロセと呼ぶのが気になったので、何故そんな風に呼ぶのか訊ねた。
「広瀬川だと長いから、ここで働いている人は、彼女のことをヒロセって呼ぶんです。私も初めは戸惑ったけど、今では普通にヒロセさんと呼んでいるわ」
「なるほど、ヒロセさんか」と納得する僕の前へ西條は座って、面接で見せるはずだった履歴書に目を通した。
「現役の芸大出身なんですね。それも今年から……大学生活はどうですか?」
「そうですね。まだ一ヶ月も経ってませんけど、いろんな事がありますよ。課題とか大変ですけど、大学生活は楽しいです」
「そうなんだ。私は短大だったからあっという間に過ぎた感じだったですね」
西條さんは親切で優しい人だった。僕の質問に対して、細かく丁寧な説明をしてくれた。何より美人な顔立ちに心が癒される。
「それじゃあ、明日からお願いします。仕事は私が教えますから頑張りましょうね」
「はい!!明日からよろしくお願いします」
正直言って、いきなり採用になったのは驚いたけど、図書館でアルバイトすることに安心していた。土日と平日の合間はバイトに当てて、その間はみゆきと会えば良い。今の僕に考えられる対策はこれぐらいだ。
それでも何も解決はしていない。真壁純奈のこと。だけど、こうして違う行動をすることによって、少しは現実から逃げれるような気がしていた。そう思わなきゃ……
今の僕は確実に逃げていた。そうも思っていた。
つづく……
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